旭川工業高等学校(北海道)
北海道旭川工業高等学校2011年02月04日
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【目次】
1.積雪50センチの旭川地区でまさかの・・・
2.雪上練習の様子はこちら
3.壊れた機械を改良して打撃強化
4.練習のネーミング付けが大事
5.自分の長所を探せ
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積雪50センチの旭川地区で・・・
積雪50センチ、ノックは雪の上で!?
朝8時、室内練習場でのアップが終わると、選手たちがグローブを持って外に飛び出していく。外の気温はマイナス15度近く。グラウンドは一面、雪で覆われて真っ白だ。内野とセンターは整備されて動けるスペースが作られているが、その周りは雪が30~50センチほど積もっている。
こんな環境の中でも、あえて外で練習を行おうとする佐藤桂一監督。公立ではやや広めのプレハブ建築の室内練習場がすぐ真横にありながら、なぜ外で練習をやろうと考えたのか。そのきっかけは、04・05年に甲子園で連覇を果たした駒大苫小牧が行っていると耳にした“雪上ノック”だ。
「冬でも外で練習をするなんていう発想は、北海道の指導者の発想には、これまでありませんでした。でもそれを実際にやっていると聞いて、それならうちもやろうと思ったんです」
そう佐藤監督はサラっと話すが、駒大苫小牧の位置する室蘭地区と旭川工業のある旭川地区では気候が違う。室蘭地区は道内でも雪が少なく、 1日の最低気温をみても旭川と比べると10度温かい。一方、旭川地区は道内の中でも積雪の多い地域なのだ。それでも、佐藤監督は、「他チームでやっているなら」と雪も寒さも気にすることなく、オフシーズンに入るとすぐに実行。
佐藤監督
「実際に外で練習を行ってみると、室内でノックをするよりも雪の上で練習をしたほうが実践に近付きましたね。これは、やってみる価値はあるなと。内外野のノックと、ベースランニング。中継もやってみましたが、これは出来ませんでした」。
どんなことでも取り入れて、まずやってみる。そこからまた別のアイディアを生み出すのが、過去に旭川工を4度、夏の甲子園に導いている佐藤監督の凄いところだ。
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【目次】
1.積雪50センチの旭川地区でまさかの・・・
2.雪上練習の様子はこちら
3.壊れた機械を改良して打撃強化
4.練習のネーミング付けが大事
5.自分の長所を探せ
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雪上練習の様子はこちら
【走塁練習】雪上を走る走塁練習は以外に難しい。 |
【走塁練習】マネージャーがタイムキーパーをする本塁へ駆け込む。 |
【ノック】カラーボールを使ったノック |
【ノック】思い切ってボールに飛び込む姿に、周りの選手も盛り上がる |
この日は、まずは内野で走塁練習からスタート。一塁ランナーは三塁へ。二塁ランナーは本塁まで7秒以内に還ってこなければならない。三塁と本塁にそれぞれタイムキーパーが配置され、ノッカーの打つ球によってランナーは自ら判断してスタートを切るという練習。
ノッカーがわざと空振りした場合は、すぐに塁に戻らなければランナーにはペナルティが与えられる。7秒以内といっても、雪上を走るというのは意外に難しい。選手たちは互いに声を掛け合いながら、生き生きと練習に取り組んでいる。
続いてのノックでもそうだ。彼らの動きを見ていると、氷点下の中にいることも、オフシーズンであることも忘れてしまうほどだ。選手たちはグラウンドが雪で埋まっているので、倒れても痛くない。そのため、思い切ってボールに飛びつく場面も。1時間程度、内外野のノックが終わると、次は室内練習場でバッティング練習。このバッティング練習のメニューもまた、ユニークである。
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【目次】
1.積雪50センチの旭川地区でまさかの・・・
2.雪上練習の様子はこちら
3.壊れた機械を改良して打撃強化
4.練習のネーミング付けが大事
5.自分の長所を探せ
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壊れた機械を改良して打撃強化
壊れた器具も、リニューアルして判断トレーニングに生かす
動体視力を鍛えるために購入した器具が数年前に故障した。すると佐藤監督は、情報技術科と電子機械科の先生にお願いをして、この器具をバッティング練習向けに使えるようにリニューアルしてもらった。
これは上段に3つ、下段に3つのランプが並び、自動的に点灯するという器具。点灯する速度も選べる。例えば、右打者の場合であれば左下のランプが点けば内角膝元のボールと捉え、すくうイメージでバットを振る。右上であれば外角高めと捉える。選手たちの足元には実践と同じくホームベースも置かれ、ランプが点くごとに各コースに対応してバットを振る。
ランプは速ければ1秒間隔で点灯。パワーをつけるため、鉄バットを使用する選手もいる。また、徐々に慣れてくると、今度は「1と5はボール」などルールを事前に設ける。この場合、1の左上と、5の中下のランプが点灯した時はボールと判断し、バットを振ってはいけないということになる。
間違えたら、終了後に筋トレのペナルティが与えられるため、選手も真剣。佐藤監督が思案し自ら編み出したこの器具は、バッティングだけでなく、頭を使った判断トレーニングにも使える優れものなのだ。
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【目次】
1.積雪50センチの旭川地区でまさかの・・・
2.雪上練習の様子はこちら
3.壊れた機械を改良して打撃強化
4.練習のネーミング付けが大事
5.自分の長所を探せ
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練習のネーミング付けが大事
サークルラン
こうやって、ちょっとした面白さを練習に取り入れ続けることで、選手たちも長い冬を前向きに乗り越えることができる。気付けば、平日は毎日500スイング、休日であれば1000スイングをこなしているという。ただ回数のために振る練習ではなくて、佐藤監督は常に室内で出来る数パターンのバッティング練習を用意して、いつの間にか“1000スイング”に到達させているのだ。
「いつも面白いことを探しているんです。北海道の冬は長いので、苦しい練習も楽しく。そこに僕らが持っていかないと、反復練習ばかりやっていたら飽きるでしょ。選手だって、自分自身に対する発見もないと思うんです」(佐藤監督)
厳しい練習も楽しめる工夫を取り入れる
この日の朝のアップでも、直線のダッシュで体を温めるのではなくて、円を地面に書いて曲線上をダッシュ。後ろ向き、横向きなど走り方にも変化をつけて、体のバランスや瞬発力を同時に養っていく。これを佐藤監督は「サークルラン」と命名。こういった練習のネーミング付けも佐藤監督は、とても大事にしている。
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【目次】
1.積雪50センチの旭川地区でまさかの?!
2.雪上練習の様子はこちら
3.壊れた機械を改良して打撃強化
4.練習のネーミング付けが大事
5.自分の長所を探せ
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自分の長所を探せ
旭川工のクリーンアップ
これらの練習内容に対して選手たちも、
「旭川工業の練習は最初は難しかったけど、だんだん理解していくうちに、自分にとってプラスになる練習に変えることができました」(2年・三津谷)
「質の高い練習が出来てあっという間に冬が終わっていきます」(2年・田丸)
「監督やコーチも含め指導者に恵まれているなと感じています。細かいところまで、全員が見てもらえるのが有難いです」(2年・菅野)
今、佐藤監督は選手たちが、自分自身でプレーヤーとしての長所を見つけることが出来る練習方法を心がけているという。そのためには与えるだけではなく、グループ練習や自主練習が必要となってくる。
「自分の長所は何なのかが、まだ分かっていない。自分が今どのレベルにいるのか。チームではどのあたりにいるのか自分で分からないと伸びていかないんです」
と語る佐藤監督。昨秋は予選を勝ち抜き、北海道大会では3回戦まで勝ち上がった。佐藤監督のアイディア指導のもと、今年は6年ぶり夏の甲子園を狙っていく。
(文=安田 未由)