遊学館高等学校(石川)
遊学館高等学校2011年01月31日
昨秋の北信越大会ではセンバツへの切符をかけた準決勝で、日本文理に1対3で惜敗。この悔しさを糧に、オフシーズンはグラウンドに一歩も出ることなく、室内練習場で徹底的に野球の基本動作を一から身につけていった。
常に練習方法が進化していく遊学館がこの冬、新たに取り入れた練習は『ベリーダンス』だった。
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【目次】
1.ベリーダンスで骨盤の使い方を習得
2.野球のセンスとは練習で作るもの
3.指導者のいない個人練習での高い集中力
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ベリーダンスで骨盤の使い方を習得
キャッチボールでも骨盤の動きを意識
ベリーダンスとは、エジプトの伝統的な踊りで、曲に合わせて左右に腰(骨盤)を動かしながら踊るダンスのことだ。
「たまたまベリーダンスを見かけた時に、ハッと気付いたんです。野球においても骨盤の動きを習得するのに、これはいい練習方法になるんじゃないかと。早速11月にベリーダンスの先生を招いて選手たちに指導していただきました」(山本監督)。
初めてのベリーダンスの動きに選手たちは、「すごく難しいです」と悪戦苦闘。それでも、「遊学館は教えていただいたことは出来るようになるのが当たり前なので」(長田主将)と、ダンス講師から与えられた課題をクリア出来るまで、全体練習が終わってからも部員たちだけで練習を重ねた。もちろん、なぜベリーダンスの動きは野球のプレーでも重要になるのかを選手たちはしっかり理解してのことだ。
「ベリーダンスの骨盤の動きは、バッティングやピッチングに生きてくるんです。例えば、ピッチングにおいて、マウンドはグラウンドよりも少し高いところにある。そこからピッチャーがボールを投げ込む時、必ず左右に大きな骨盤の動きが生じるわけです。バッティングに関しても同じ。右バッターなら左足を軸に振り抜きますが、その時に骨盤の動きが重要になってきます」(山本監督)。
初めてダンス講師が訪れて1カ月が過ぎたこの日の練習でも、山本監督ら指導陣は常に「骨盤が動かせているか」を1つのチェックポイントにおいて選手たちを指導していた。
室内練習場を縦に広く使った通称「こだわりのキャッチボール」では、「腕を振って投げるな!(リリース時に)背伸びしろ!」と山本監督は絶えず骨盤を意識させる。連続50回×6セット(1時間で500スイングが目標)の通称「こだわりのティー」では、「骨盤で振ってけ!インパクトをもっと強く!」「腕だけで振るんじゃない!軸をつくれ!去年の3年生はそんなに情けない振りしてたか?!」と、山本監督の厳しい声が飛ぶ。
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【目次】
1.ベリーダンスで骨盤の使い方を習得
2.野球のセンスとは練習で作るもの
3.指導者のいない個人練習での高い集中力
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野球のセンスとは練習で作るもの
全体練習後のミーティングの様子
「体の回路の中で、何か1つ意識させて数を重ねていけば、最初は出来ないことも出来るようになってきます。また、それを意識付けしてあげられる言葉があれば、試合でそれを私が言った時に、選手は練習で身につけた動きを思い出して自分で修正できるようになるものなんです」と話す山本監督。だからこそ、遊学館では体の使い方の“ポイント”を明確にした練習が多い。
室内練習場の2か所を使ったノックも、“ただ捕って投げる”だけの練習かと思えば、よく見ると一方ではフロントステップからスローイング。もう一方ではバックステップからのスローイングを繰り返し練習している。
「うちは細かい動きまでこだわっています。最初はそれが出来ない選手でも、ポイントを伝えて反復して練習するうちに出来るようになります。全ての動きが同時に出来るようにならなくても、2つ3つと動きをつなげていけば時間がかかっても必ず出来るようになるから、指導者も選手も諦める必要はないんです」。山本監督曰く、『センスがいい選手は最初からいない。センスというのは指導者が作っていくもの』なのだ。
そして、もう1つ。山本監督が大事にしているのが、指導陣から選手へ教えるだけの一方通行では終わらせないこと。山本監督は常々、選手たちにこう話す。
「1つのことを身につけるには、3人の仲間に指導しなさい。そうすれば間違いなく、上手くなれる。3人に教えるには3通りの指導方法があるが、それが出来るようになったら、その技は自分のものになるぞ」。
全体練習中であっても、互いに教え合う習慣が遊学館にはある。今回のテーマ、骨盤の動かし方においてもそうだ。出来ない選手に、出来る選手が教えていく。もちろん、その場ですぐには出来るようにはならない。教えてもらったことは、全体練習後に個人ごとに復習する。よく、「遊学館は練習時間が短いらしい」と言われているが、実は遊学館は、この個人練習の時間が長いのだ。
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【目次】
1.ベリーダンスで骨盤の使い方を習得
2.野球のセンスとは練習で作るもの
3.指導者のいない個人練習での高い集中力
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指導者のいない個人練習での高い集中力
常に骨盤の使い方を意識する選手たち
個人練習といっても強制的なものではなく自主性に任せるもので、全体練習が終われば室内練習場からは指導者全員がいなくなる。学校が休日の日であれば、14時~15時以降は全て選手たちが好きなように練習を行えるわけだ。彼らがどんな雰囲気で、どんな内容で練習をしているのかは、山本監督はもちろん知らない。ただ、遊学館でレギュラーの座を奪うには、この時間が勝負となることだけは間違いない。長田主将は選手たちだけの練習時間について、こう語っている。
「先生たちが見ていない中で、どれだけ意識高く出来るのかが大切だと思っています。僕たちは難しいことを練習で取り入れますが、全体練習が早く終わるのでそのあとの時間を使って、今日出来なかったことに取り組むことができます。
だから一日一日の練習が大切になってくる。そんな環境だからこそ、中学校では野球がヘタでも遊学館に来たら一気に伸びる可能性があるんです。とくにこの冬の時期に伸びるやつが多い。春を迎えるころにはチーム全体で強くなっていますよ」。
下級生に教えていくのは上級生の仕事。出来ない選手をサポートしてあげるのが仲間の仕事。そして、選手にそこまで高い意識を持たせてあげるのが指導者の仕事なのだ。
「僕らは、野球の監督ではなく指導者なんです。選手たちを昨日よりも今日。そして今日よりも明日、もっと上達させてあげることが指導者の役割だと考えています」と山本監督は言う。まるで、大学・社会人野球部のような練習の雰囲気を感じさせる遊学館。冬の期間、野球の基本動作から骨盤の動きまで徹底的に繰り返し学んだ選手たちは、今シーズンは、よりパワーアップした野球をみせてくれるに違いない。
(文=安田 未由)