Column

日本大学第三高等学校(東京)

2011.01.02

「日大三」

日本大学第三高等学校2011年01月02日

【神宮大会を制し、優勝旗を持つ畔上主将】

 18勝4敗――。

 これは、日大三の2010年における春から秋までの都大会以上の戦績である。この一年間の勝率は8割を超えた。もちろん、日大三の強さは今年に限ってのことではない。春・夏の甲子園出場は過去10年間で8度を誇る。 なぜ、日大三は強いチームで有り続けることができるのか。実は、その理由が垣間見える瞬間が、毎年暮れに訪れる。

 毎年12月に行われる日大三高名物『冬の強化合宿』。14日間に及ぶこの合宿では、選手たちは体力も気力も限界のところまで追いつめられる。練習は毎朝5時半にスタート。1日の終わりは夜22時。そこから部員たちは寮に戻り、夢を見る間もなく、すぐに朝を迎える。早朝、日がまだ昇らない暗いグラウンドの中で、小倉監督と部員たちの12分間走が始まる。グラウンド内をひたすら回る12分間走は、距離にして約3キロ。「12分間で小倉監督を2回抜かないとアウト」というルールも設けられていて、1年生はとにかく必死。2年生になると、「去年の自分よりも400メートル長く走れるようになった」などと成長を実感できるようになる。

【必死に食らいつく選手たち】

 「前を走る勇気、前に行ってみようとする勇気が大事。去年は後ろを走っていた選手が、先頭で走っている姿を見ると嬉しいですね」と話す小倉監督。ただ、ここ最近、選手たちへ抱く気持ちの変化を感じているという。

 「選手たちは高校3年間のうち、冬の強化合宿を2回経験するだけですが、私は関東一高にいた頃から、この合宿を行っていましたから、今年で26回目になるんです。自分が歳を重ねたせいか、必死に走っている選手たちを見ると、このまま彼らの心臓が止まるんじゃないかって不安になる時があるんです。でも、続けさせたい。選手たちの体を心配して、厳しい練習から逃がしたい自分もいる。だけど、やっぱり最終日にあの思いをさせてやりたいんですよね」。

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【素手でバットを握り、ノックをする小倉監督】

 そんな小倉監督の思いを、きっと選手たちは知らないだろう。グラウンドにいる時は、その言葉の片鱗も感じさせないほど、小倉監督は選手たちを追い込み続ける。

 日が暮れるまでグラウンドでは、小倉監督、三木コーチ、白窪コーチからの容赦ないノックの嵐が続く。選手たちも、決して走ることを止めない。取れなくても「もう1本!」。小倉監督は「そんなこと言って知らないよ!」とさらに左右に振る。外野からは「三木さーん!」とボールを呼ぶ声。取れるか取れないかのギリギリのラインにボールを打ち上げ、「今のは行けるだろー!」と三木コーチ。仲間が辛そうな時は、周りの選手たちで励まし合って、一緒にボールを追いかける姿も。

 また、選手たちが、監督やコーチに「負けるもんか!」と、どんなにヘトヘトになっても立ち向かっていけるのには理由がある。それを主将の畔上翔がこっそり教えてくれた。
「監督さんたちはノックを打つ時、素手で打つんです。マメがつぶれて、血が出てもノックをやめない。そうやって情熱を持って僕らに向かってきてくれるから、それなら自分たちも『監督の手をボロボロにしてやろうぜ』って、苦しくても立ち上がることができるんです」。それでも、グラウンドに緊迫した雰囲気はない。どちらかといえば、苦しい練習になればなるほど、指導陣も選手も笑顔が絶えない。お互いに負けるもんかと挑み合う。これは、日大三が持つ特有の雰囲気だ。
 

【苦しくとも笑顔が絶えない練習中】

 そして、強化合宿14日目の朝。最後のメニューは、ダッシュ走。終わりが近づいてくるとグラウンドには曲が流れ始める。
卒業生たちが口を揃えて「もう二度とやりたくないです」と言うほどの過酷な冬の強化合宿。ただ、最終日の感動だけは何年経っても忘れないという。辛くて逃げ出したくなっても、最後までやり抜いた時に初めて感じる充実感と達成感。それこそが、小倉監督が選手たちに味わってもらいたい“思い”だ。

 初めて強化合宿を行った26年前の選手も、今年の選手もラスト1本を走り終えた瞬間は一緒だ。涙を流して、仲間と抱き合い喜びを噛みしめる。

 「選手は必ずこの2週間で変わってきます。どんなにきつい練習でも頑張ること、我慢することで強くなっていく。練習で泣く経験を経て、自分たちはやり切ったんだという自信がチームも強くするんです」(小倉監督)。

 毎年恒例の強化合宿を経て、日大三はこのオフシーズンに高いチーム力を築いていく。
春に戦う準備は、すでに整いつつある。

(文=安田 未由)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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