超名門・広陵はいかにして夏の3回戦敗退から再出発したのか【前編】
広陵ナイン
広島の名門、広島広陵は昨年秋、2年連続で明治神宮大会の決勝に進出した。ライバル・大阪桐蔭(大阪)の前に敗れたものの、近年の高校野球界を牽引する存在として、これまで以上に注目される存在となった。
巨人・小林 誠司捕手をはじめNPBの世界で活躍するOBは数知れず、グラウンド回りにある卒業生の記念碑を見れば、歴史の深さも実感させられる。指揮官・中井監督の指導の賜物であり、今年のチームも主将である小林 隼翔内野手(2年)を中心に3月からのシーズンに向けて準備が進んでいる。
大きな爪痕を残した夏の敗戦
広島広陵の練習からは、選手たち精力的に取り組むことはもちろん、緊張感もひしひしと伝わってきた。全国区の名門校ならではだが、「これからどうするのか、そして3年生に申し訳ない気持ちでスタートしました」と中井監督は昨年秋の新チーム発足時を振り返る。
2022年の夏、悔しい敗戦を喫していたことは覚えている人も多いだろう。広島大会3回戦・英数学館の前に1対2で敗れた。「インパクトが大きくて、吹っ切れるまでに時間がかかりました」と中井監督は振り返る。
2021年の明治神宮大会で準優勝を飾り、センバツに出場。その後の春季県大会を制し、中国大会も準優勝。U-18にも選出された内海 優太外野手(3年)をはじめとした選手がいたが、夏の甲子園には手が届かず、広島大会3回戦で姿を消したことは話題になった。
「あの試合を通じて、『試合に勝った方が強い、負けた方が弱い。万に一つの試合で、何があるかわからない』という野球の怖さを再確認しました」(中井監督)
長く高校野球界で尽力する名将にとっても、厳しかった敗戦を糧に、新チームは始まった。世代屈指のスラッガー・真鍋 慧内野手(2年)など経験者は残ったが、「経験者が残っているから勝てる、強いというわけではない」と一切の油断もなく、負けた次の日から秋季大会を目指してがむしゃらでスタートした。
主将に抜擢された小林は、「1点差で負けたので、まずは『1点の重みを大事にしよう」とチームメートに話し、無駄な失点をしないように意識づけさせた。練習はもちろん、紅白戦など実戦練習を通じて、選手たちは横一線で競争してきた。そのなかで 試合に強いメンバーが徐々に絞られ、気がつけば練習試合で負けなしだった。
「どんな相手でも全力で戦う気持ちでした」と真鍋が話せば、「『勝負事で負けることは許されない』と言ってきましたので、勝ち切ることは大事にしてきました」と小林主将も意識してきた結果だった。
3年生あって新チームがある
内海優太(広陵)
小林主将や真鍋が話すように、高い意識を持って取り組んできた成果以上に、ナインにとって欠かせないのは、3年生の存在である。
中井監督も「毎年ですが、3年生の教育があっての新チームです」と話すほどの存在で、事実、取材当日も3年生も練習に交ざって自身の練習をすることはもちろん、後輩指導を熱心にしながらも、練習を盛り上げていた。
英数学館に敗れた翌日から3年生も練習を手伝い続けている。内海をはじめとした3年生の中では「夏に悔しい思いをしたので後輩には同じことをしてほしくない」という願いを持ってグラウンドに足を運んでいるという。
同時に、「1年生のときに3年生に教わったことは、自分にとって勉強になることが多かった」と内海は話し、3年生の存在が新チームにとって大事な存在であることも心得ている。
教わる現役選手たちは、3年生への感謝の思いしかない。
「先輩たちはレベルの高いチームで、多くの試合を積んできているので、経験などを伝えてくれるので、大きいです」(小林主将)
「自分たちだけではできないこと、練習の準備や手伝いをしてくださるので、感謝の気持ちしかありません」(真鍋)
中井監督も同じく、「よく手伝ってくれました」と感謝の言葉を語ると、続けてこう話す。
「3年生は練習を手伝ってくれるのはもちろんですけど、実際にプレーで見せてくれたり、紅白戦をお願いしたり、質の高い、密度の濃い練習ができました」
新チーム発足時は、夏の敗戦の影響があったものの、悔しさを忘れなかった指導者と選手たち。同じ思いをさせまいと献身的にサポートした3年生たち。まさに「チーム広島広陵」として秋季大会に突入したのだった。