まるでNPB球団のよう 報徳学園の高校野球レベルを超えたチーム運営
堀 柊那(報徳学園)
2023年、高校野球界を牽引しそうなのは大阪桐蔭(大阪)になるだろう。ドラフト1位指名の可能性もある前田 悠伍投手(2年)などタレントが揃うチームで、注目が集まる。
その大阪桐蔭を苦しめた数少ないチームの1つは報徳学園(兵庫)であることは間違いない。
世代屈指の強肩捕手・堀 柊那捕手(2年)などが中心で、近畿大会の決勝戦で対決。0対1の投手戦を演じたことで、2023年の躍進に期待を持たせた。今センバツでは、2018年の夏以来の甲子園出場がほぼ確実視される。
競争促す、熾烈な椅子取りゲーム
野球部専用グラウンドがない報徳学園は、校庭を他部活と共有しており、取材日も普段の光景が見られた。ただグラウンドにいたのは近畿大会のベンチ入りの野手だけ。他の野手の姿が見られなかった。
グラウンドのホワイトボードに練習メニューが掲示されており見てみると、少人数になっている理由もわかった。
チーム内が6つに分割されており、そのうちの2班だけが、グラウンドを使うことになっていた。しかも別のチームのスケジュールを見ると、途中からトレーニングからグラウンド練習に来るチームもあれば、取材日はオフになっているチームある。
NPBのキャンプさながらのタイムスケジュールだったが、 投手指導をメインにしている礒野部長によると、「現在の体制を提案されたのは、宮﨑コーチの意見です」と話す。
宮﨑コーチいわく、「2018年の甲子園を最後に、出場が遠のいているなかで徐々に現在の形になりました」と、2021年ごろから6チーム編成になった。
この仕組みを宮﨑コーチは、「椅子取りゲームだよ」と選手たちに話して、競争を促しているという。
「Aがスタメン、Bがベンチ入りの控え。C以降から10人ずつに分けます。そのなかで下位のチームは打率などの数字を出してあげて、紅白戦でメンバーの入れ替えもやっています」
もちろん主力組とも入れ替えのチャンスを作っているが、始まりは2018年の夏の甲子園にあった。
[page_break:全国に戻るために生まれ変わった]全国に戻るために生まれ変わった
当時は広島に在籍する小園 海斗内野手を中心にベスト8に進出。選手たちの輝かしい姿を見せられた一方で、ケガ人もいるなど、決して万全ではなかった。
2018年の夏の甲子園から徐々に聖地から離れたことも大きく影響した。上位に勝ち進んでいっても、明石商や神戸国際大附となった県内のライバルに少し力が及ばず、甲子園の切符を明け渡してきた。
宮﨑コーチは状況を打開するために提案したが、チームを指揮する大角監督も当時特別な思いがあり、すぐに受け入れた。
「全国のライバルを見れば練習環境など、自分たちよりも優れたチームは必ずいますので、監督に就任した時から『今までの指導では通用しない。どんどん進化しなければいけない。そのために何ができるのか』ということを考えていました」
全国で勝つためにはフィジカル強化など、選手それぞれのパワーアップが課題として見えてきたという。そのために練習量とクオリティーの両方を見直すことが必要だった。
名門校・報徳学園となれば、選手たちが数多く集まる。全員が同じ練習を一斉にやると、限られた時間内で練習量を確保できない。練習の強度を高めて、クオリティーを改善しようにも選手によって、フィジカルの強さが違う分、同じメニューでも成果が変わる。
少しでも選手たちが上手くなる、力がつけられる練習の進め方、メニューの組み方を考えた末に、チームを4つに分割。全員が練習できるように工夫を凝らし、現在は6つに野手組を分割するようになった。
「フライでもゴロでも打球速度が大事なので、スイングスピードなどを計測します」と宮﨑コーチは話し、技術はもちろん、スクワットといったフィジカルまで目を向けて、いくつかの項目で選手の能力を数値化してチームを分割したという。
もちろん、意見を出してもらう以前もチーム分けをしていたものの指揮官・大角監督いわく、「(チーム分けの)基準が漠然としていた」という。そこに対して現在は数字を活用して、選手たちに明示しつつも、根拠を持ってチーム分けしたことで、練習のクオリティーは高まったと感じている。
「選手同士のレベルに差がない分、身近な目標としてチームメートと切磋琢磨ができるので、きっちり競争できる環境になったと思います」(大角監督)
[page_break:さらなるフィジカル強化で夏に結果を残せるか]さらなるフィジカル強化で夏に結果を残せるか
石野 蓮授(報徳学園)
すぐに軌道に乗ったわけではない。最初の2年は心身を鍛える意味でも、「入学して間もない選手には厳しい練習を課していた」とハードな練習を組んでいたと大角監督はいう。
報徳学園に限らず、ほとんどのチームは新入生に対して厳しい練習をするもので、やり切ってこそ高校野球を戦う最低限の土台を作るものだ。ただ大角監督は、選手の先々を見据えて、こう話す。
「高校野球の2年半でいろいろ成長させたいのに、うちは最初の練習で減量してしまったり、故障してしまう選手が多かったんです。ですので、『ハードな練習は、どのタイミングでも出来るだろう』と思って、最初から練習の質を重要視するようにしました」
こうした競争環境の中で伸びてきたのが、南條 碧斗捕手(現日本大)たちの2021年チーム。「3年生になって『力がついてきた』と思いました」と手ごたえが出てきた。大会結果を見ても、甲子園に届かなかったものの、夏の兵庫大会4強入りと、あと少しのところまでたどり着いた。
現在は「選手の体を大きくする」ことを軸にしたトレーニングメニューを1週間単位で考えてもらう。あとはトレーナーに毎日確認して、宮﨑コーチが1日の練習メニューを組む。体を最優先に考えたメニューで、効率的に選手たちのレベルアップできる。レベルに応じた選手育成があったからこそ、近畿大会準優勝に辿り着いたのだ。
ただ宮﨑コーチは満足していない。
「3年生であったり、夏の甲子園の出場校と比較すると、現在のチームは及んでいないです。近畿大会で対戦した履正社(大阪)、智辯和歌山(和歌山)と比較してもまだまだなので、夏までにどういう状態に持っていけるかですね」
主砲である石野 蓮授外野手(2年)は「先輩に比べて劣っていたので、最初は不安だった」と話せば、堀は「履正社や智辯和歌山と比べると、身体の大きさが違った」と話す。宮﨑コーチと同意見のようだ。
トレーニングに強弱を付けながら、シーズンに向けて準備を続けている。春までには課題であるフィジカルを克服し、パワーでも負けない集団を目指す。
(記事=田中 裕毅)