京都の強豪2校を破り、ベスト8。京都の21世紀枠推薦校、宮津天橋・丹後緑風連合はいかにして躍進できたのか
今秋に高校野球で旋風を巻き起こした連合チームがある。それが京都の宮津天橋・丹後緑風連合だ。
宮津天橋8人、丹後緑風7人の計15人で戦った秋の京都府大会では京都外大西、福知山成美といった強豪私学を立て続けに破って8強入り。京都府の21世紀枠推薦校にも選出された。
全体練習は土日祝日のみ
宮津天橋と丹後緑風はともに京都府北部にある公立校で、2020年に2つの高校が統合されて開校されたという共通点がある。日本ハム、オリックス、阪神で活躍し、今季限りで現役を引退した糸井嘉男の母校である宮津と加悦谷が宮津天橋となり、網野と久美浜が丹後緑風となった。両校とも旧校の校舎を活用した「学舎制」を採用しており、2拠点で生徒は学習している。
この2校は夏まで単独チームで公式戦に出場していたが、夏の大会が終わると、両校ともに選手の数が9人を割ってしまった。1999年春に峰山の監督として甲子園に導いた実績がある宮津天橋の守本尚史監督は、京都府北部の選手が他地域に流出してしまっていることが部員減少の原因であると話す。
「甲子園に行きたいとか、高いレベルを目指している子は出ていくのは仕方がない部分があると思います。子どもたちが志を持って残るには期待できないということだと思うので、この辺は地元でチームを持っている私たちの責任を感じています」
野球留学が当たり前になった現代において、地元の有力選手は京都府南部や他府県の強豪校に進む流れが加速している。その中で少子化の進む地域の公立校は部員確保に苦戦するようになったのだ。
こうした背景から連合チームを組むことになり、守本監督が全体を指揮し、丹後緑風の斎藤進吾監督が責任教師という体制で新チームがスタートした。近隣の高校による連合チームだったこともあり、以前からの知り合いもいて、チームワークを形成するのに問題はなかったという。
連合チームで難しいのが合同練習の時間が制限されることだ。両校が集まって練習できるのは授業がない土日祝日のみ。さらに宮津天橋は宮津学舎に6人、加悦谷学舎に2人と部員が分かれており、週2回しか8人で練習することができない。丹後緑風は網野学舎に全部員が集中しているとはいえ、7人では実戦練習も満足にできないのが実情だ。
そのため、平日は個人練習が中心。合同練習ができる時にはポジショニングや走塁の決め事などの確認を入念に行ってきた。「試合で出た課題はその場で解決するのがメインという感じです」と宮津天橋の今井 琢己主将(2年)。その場で指摘し合うことで、課題の解消を先延ばしにしないように心がけてきた。
[page_break:エース中川を軸に京都外大西、福知山成美を撃破]エース中川を軸に京都外大西、福知山成美を撃破
中川優
連合チームならではの難しさもあるが、エースの中川 優投手(2年=宮津天橋)は「試合に出られるとなった時はやっぱり嬉しかったので、頑張るしかないと思いました」と前向きに捉えていた。
秋季大会前の練習試合では体調不良者が出るなど足並みがそろわなかったこともあり、守本監督はなかなか手応えをつかめていなかったが、「中川が投げると抑えていたので、試合にはなるかな」と一筋の光も見えていた。
「球速は130キロ出るか出ないか」という中川だが、カーブ、カットボール、スライダー、フォーク、シンカーと多彩な変化球を操り、巧みな投球術で打たせて取る投球が持ち味。彼を中心に失点を少なくすれば、それなりに戦える見込みがあったのだ。
だが、初戦の同志社国際戦は8対7でサヨナラ勝ちを収めたものの「もう少し楽に勝ってもおかしくない試合だったと思いますが、自滅のミスがかなりあった」(守本監督)と苦戦。次戦に向けて課題を残す試合となった。
結果的にこれが良い薬となる。このままではいけないと良い意味での危機感が生まれ、「距離が縮まった気がします」(今井)と3回戦までの2週間でチーム力を上げることに成功した。
3回戦の対戦相手は甲子園に何度も出場している京都外大西。「相手が強いチームになればなるほど楽しめる」という中川が好投を見せ、3対1で勝利を収めた。
この勝利で選手たちは自信を深め、「練習に気持ちも入っていたし、勝てる気でやっていた感じでしたね」(守本監督)と勝てる雰囲気がチームに漂っていた。すると、4回戦でも福知山成美に3対2で勝利。連合チームが強豪校を続けて破り、大きな話題となった。
丹後緑風で主将を務める井藤 己純は、「応援に来てくれる保護者の方や地域の方は勝った時に一緒になって喜んでくれている感じがして、自分自身も鳥肌が立つような感じがしました」と今までにない感覚を味わった。
堂々の府8強入りで希望の光が差す
このまま快進撃が続くと思われたが、準々決勝では龍谷大平安に0対10で6回コールド負け。大敗には様々な要因があったと守本監督は振り返る。
「福知山成美の試合がゴールというのもあったので、ホッとした部分もあったし、やれるんじゃないかという緩みもあったかもしれない。キチンと準備してきた(龍谷大)平安、[stadium]わかさスタジアム京都[/stadium]での試合、色んな条件が力を出せなかったことだと思います」
4回戦までは戦い慣れた北部の球場で行われたが、準々決勝は京都のメイン球場である[stadium]わかさスタジアム京都[/stadium]での試合となった。これまでと違った環境で戦うことになったことも力を発揮できない要因となったようだ。
とはいえ、「ベスト8に足を踏み入れたということは十分に満足いく結果だったかなと思います」と守本監督が言うように8強入りは十分に誇れる結果だ。京都府の21世紀枠推薦校にも選ばれ、センバツへの道も開かれた。
選手たちは驚いた一方、「京都の推薦校になったので、責任感を一人一人が自覚したと思いますし、模範となるようなチームにしていけたらなと思っています」(今井)と気が引き締まった。
「甲子園に行ったとしても恥ずかしい負け方をしてしまっては不甲斐ないですし、他の京都の選手の皆さんにも申し訳ない思いをさせてしまうので、この冬でしっかり、筋力も体力も精神力も全てパワーアップして春に向けて全員が頑張っていきたいと思います」(井藤)とセンバツに出る前提で練習に取り組んでいる。
11月13日に今シーズン最後の練習試合を終えてからも週末の合同練習は続けている。センバツ出場の有無に関わらず、3月の練習試合も連合チームで戦う予定だ。4月に新入生が入れば、ともに単独チームで公式戦に出場することができるが、そう多くは望めない。宮津天橋は「10人弱くらい」と今井は見込んでいる一方、丹後緑風の斎藤監督は「片手が埋まれば良い方」と見ている。
少子化が進んでいる北部地域で部員を増やすことは容易ではない。もし、センバツに選出されることがあれば、現状を変えるきっかけになることだろう。
「町総出で応援に来て頂いて凄かったので、あんな風にみんなが喜んでくれる機会があったらと思っています」と峰山時代の再来を待ち望んでいる守本監督。連合チームとして初の甲子園出場となるだろうか。まずは12月9日に発表される近畿地区推薦校に選ばれるかどうかが一つの分かれ目となる。
(記事=馬場 遼)