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激戦区・兵庫で25年ぶり8強 21世紀枠推薦校の小野「甲子園にふさわしいチーム、甲子園が似合う選手になる」

2022.11.30

 明治神宮大会で大阪桐蔭(大阪)が大会史上初の連覇を達成し、神宮大会枠は近畿地区に渡った。2023年のセンバツに向けて、近畿地区から選ばれる学校が気になるところ。同時に毎年議論が飛び交うのは21世紀枠の行方だが、ここでも近畿地区の争いは激しい。

 京都史上初となる連合チームである宮津天橋丹後緑風はもちろん、奈良からは生駒と結果を残してきた学校が揃う。そのなか、兵庫が選んだのは小野だった。

120年の歴史ある文武両道校は周りの支えと人間力で強くなった

激戦区・兵庫で25年ぶり8強 21世紀枠推薦校の小野「甲子園にふさわしいチーム、甲子園が似合う選手になる」 | 高校野球ドットコム
市橋 慶祐主将

 創立120年の歴史をもち、野球部も県8強に勝ち上がることもある。加えて県内でも有数の進学校という一面を持ち、野球部からも現役での京都大合格や、医学部への進学する選手も輩出。現在のチームも、およそ半数が塾に通うなど、文武両道を実現させていることが評価されて選出された。

 「甲子園に行けるかもしれないところに立たせてもらったので、甲子園にふさわしい選手、チームを目指して普段からしっかり練習をやりたい」

 チームをまとめる主将・市橋 慶祐捕手(2年)は兵庫の21世紀枠推薦校選出に気を引き締めている。グラウンドには「甲子園にふさわしいチーム、甲子園が似合う選手になる」という言葉がホワイトボードに書かれていたが、改めて自分に言い聞かせるように話していた。

 市橋とともにチームをまとめる藤井 卓投手(2年)は「これまでの先輩の取り組みや、学校の雰囲気が認められて選出されたのは誇らしい」と周りへの感謝の思いを話すが、まさにその通りの練習環境である。

 他部活とグラウンドを共用しているため、安定して使えるのは内野のダイヤモンドだけ。照明もOBの協力でバックネット付近にいくつか2、3年前に設置されたが、それまでは一切なかった。さらに練習時間はおよそ1時間半程度。取材日も16時半頃から全体練習が始まり、18時には練習が終わり、18時半には完全下校と練習量は物足りない。

 OBの支援でトレーナーによるトレーニング指導を受けて、「短い時間で効率的にやる」という北垣監督はじめ小野の選手たちが意識していることを実践できているものの、周りの支えなくして実現しない。

 それでも秋では25年ぶりとなる県8強入りとなった。周りに比べれば環境が恵まれているとは言いにくくても、多くの方から力を借りて、「甲子園にふさわしいチーム、甲子園が似合う選手になる」ことを目指す。

 「(小野の生徒は)何事にも本気でやる意識の高さがある」と北垣監督は話すが、その人間力こそが、小野にとって最大の魅力であり、強さの源でもあるようだ。

[page_break:プロ野球さながらのメニュー編成で効率・効果を高める]

プロ野球さながらのメニュー編成で効率・効果を高める

激戦区・兵庫で25年ぶり8強 21世紀枠推薦校の小野「甲子園にふさわしいチーム、甲子園が似合う選手になる」 | 高校野球ドットコム
練習メニュー表には「甲子園を意識した練習を!ふさわしいチーム、似合う選手に!」

 「2時間と限られた時間の中で、いかに効率よく練習するか」と藤井が話すように、練習量では他校に劣る。だからこそ市橋主将は「内容にこだわらないと、私学はもちろん、力のある公立校には勝てない」と効率を大事しているが、そこには意識の高さはもちろん関わってくる。

 「(意識の高さは)成果、効果への影響が大きいはずです」と北垣監督も話し、重要視しているポイントではあるが、その意識はメニュー作りからもみられる。

 プロ野球のキャンプさながらに、グループごとにメニューを毎日指導者が編成。それを学校が支給しているタブレット端末を活用して、昼休みには選手たちへ展開。選手たちは事前に頭の中で練習のイメージを膨らませて練習に参加する。

 「練習がスムーズにできる」と短い時間を無駄にせずできているが、練習の中身は選手様々。ウエートトレーニングだけで1日終わってしまう選手もいれば、技術練習がほとんどの選手もいる。「個々のスキルを高めるために分けている」と北垣監督は話すが、その基準は体重だ。

 チームで定める基準を突破した選手は、瞬発系がメイン。逆に基準を下回れば、ウエートトレーニングをメインにすることで、選手全員が自在に動かせる大きな体を作るのだ。

 しかも、ただ毎日やるのではなく、間隔を空けることで、効果がしっかり得られるようにするという。選手それぞれがレベルアップできるように、1時間半の短い時間を効率よく、正しい努力で目標を達成する。「101回大会を終えてから、強豪私学の壁を越えたくて変えた」と北垣監督がいうできるメニューに最大限集中する、量より質を重視するスタイルで、チームは強くなった。

 ただ、「最近では7時前から練習をしている」と短い放課後では、練習が限られているからこそ、朝練でもやってやりたい練習をする選手が多いという。強豪私学との差を練習の質だけではなく、練習量でも補おうとしている。朝練は決して強制ではないそうだが、何事にも本気で取り組める小野のスクールカラーも、やはり見逃せない。

[page_break:甲子園に行きたいを実現できるか]

甲子園に行きたいを実現できるか

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藤井 卓投手

 強豪私学を相手に守れても打てずに負ける。北垣監督が小野に赴任して感じた強豪私学の壁。ここを越えるために、まずはパワーで負けないことを目指したことで、体づくりは重要視してきた。

 しかし、秋は準々決勝でに敗戦。自分たちと同じ公立でも力のあるチームに敗れた。藤井いわく、ベスト8は第1目標で、「強豪私学やのようなチームに勝つことが目標だった」と県内上位校からいかにして白星を挙げるか考えていただけに、悔しさを思い出していた。

 市橋主将も「に勝ってベスト4、そして近畿大会を目指していたので、ベスト8の結果には全く満足していない」と秋の結果には納得している様子がなかった。

 ただ限られた環境のなかで、秋は市立西宮神港学園などに勝利して25年ぶりの秋季県大会8強入りして兵庫の21世紀枠推薦校に選ばれた。この選出は「甲子園を近くに感じていると思います」と北垣監督は、さらなる練習効果のアップを期待していた。

 スクールカラーである素直で純粋な選手たちが、最大限効率、効果を求めて練習をするのが小野だったが、強豪私学も多い激戦区・兵庫にいながら「甲子園にふさわしいチーム、甲子園が似合う選手になる」という指針がブレない。その強さも、見逃せないところだと感じている。

 「100回大会で、明石商と準決勝で対戦するのを見て、『入学したら強豪校に勝って甲子園に行きたい』と思って進学したので、それが大きいと思います」(市橋)

 先輩たちが築き上げた歴史に魅了され、心の支えにしてきた選手たちが中心となって、秋は結果を残してきた。この結果は確実に下の年代の野球人にも届くはずだ。

 センバツ出場を決めて新たな歴史を刻むことができるか。甲子園のお膝元・兵庫の21世紀枠のこれからに注目したい。

(記事=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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