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東海大星翔は地元・県外のハイブリッドチーム 熊本の全てを覆した鍛冶舎監督率いた秀岳館の台頭が転機

2022.10.22

 九州地区高校野球熊本大会は、決勝で東海大星翔文徳を8対0で破り、3季ぶり14回目の優勝を決めた。東海大星翔は、22日に沖縄県で開幕する九州地区大会へ出場し、2018年夏以来となる3度目の甲子園出場を目指すが、特筆すべきは県外出身の選手と、地元・熊本出身の選手が融合したハイブリッド型のチームである点だ。

 投手陣では大阪・大淀ボーイズ出身の145キロ右腕・玉木 稜真投手(2年)が獅子奮迅の投球を見せると、攻撃では地元熊本出身の3番・川道 樹外野手(2年)、4番・新美 元基外野手(2年)が打線を牽引。地元選手と県外出身選手の力がガッチリとかみ合い、見事センバツ甲子園出場への挑戦権をつかんだ。

 チームを率いる野仲義高監督は言う。
「ある人に言われたのですが、良い形でチームができ始めて今が一番楽しいだろうと。でも本当に甲子園で勝とうと思ったら、今のままじゃダメだよと言われたんです。それは私もわかっているつもりです。今のままじゃまだ甘いと思います」

上のレベルを知る関西出身者が大きな刺激に

東海大星翔は地元・県外のハイブリッドチーム 熊本の全てを覆した鍛冶舎監督率いた秀岳館の台頭が転機 | 高校野球ドットコム
東海大星翔ナイン

 野仲監督は東海大を卒業後、副部長を経て2006年に監督に就任した。チームは長年、熊本工九州学院の壁に跳ね返され続けて、2015年頃からは秀岳館が一気に台頭するなど、なかなか浮上のきっかけをつかめずにいたが、2018年夏に学校として2度目の甲子園出場を果たしたことで風向きも少しずつ変わり始める。

 その後、2020年秋、2021年春と熊本県大会を2度制して九州地区大会を経験し、今夏の選手権熊本大会でもベスト4に進出。県内では常に上位進出が狙え、熊本工九州学院にも引けを取らないチームが作れるようになった。

 チーム強化のきっかけとして、野仲監督が挙げるのが関西出身者を中心とした県外生の力だ。

東海大札幌の大脇英徳監督に、関西の選手いいよと言われて興味を持つようになりました。もちろん最初は来てくれるのは二番手以下の選手たちばかりでしたが、野球観は仕込まれているし元気もある。向上心もあるし、何より自分たちより上のレベルを知っていて、そこは根本的に熊本の子もはないものだったので、チームにとってかなり大きな刺激になりました」

 そうした関西出身の選手たちをレギュラーに育て上げ、試合で活躍するようになると、先輩の姿に憧れた後輩たちも後を追って入学するようになった。すると、次第に関西の強豪校には届かなったレギュラークラスの選手も入学するようになり、さらには活性化していくチームを見て、地元・熊本の有力選手も東海大星翔を選ぶようになったのだ。

「今は県外の子が部員の半分くらいになっていますが、県外の選手が多い現状を分かった上でうちを希望してくれる地元の選手は、結局強い向上心を持った選手なんです。県外の選手も集まる東海大星翔でチャレンジしようと思ってみんな来るので、熊本工九州学院にも気後れすることがなくなりました」

[page_break:熊本県のすべてを覆した鍛治舎巧監督]

熊本県のすべてを覆した鍛治舎巧監督

東海大星翔は地元・県外のハイブリッドチーム 熊本の全てを覆した鍛冶舎監督率いた秀岳館の台頭が転機 | 高校野球ドットコム
野仲監督の話を聞く東海大星翔

 野仲監督は、九州地区の強豪校を引き合いに出しながら、チームの現状を次のように分析する。

「うちは今、明豊高校の5、6年前と同じところにいると勝手に思っています。県大会を勝ち抜いて、九州大会にも出場できるようになったけど、夏の大会は県大会の決勝で負けてしまうみたいな。川崎絢平監督も最初はそんな感じでしたよね。
 それでも、関西の選手を連れてくるところから始まり、今では地元の選手にも残ってもらえるようになってきました。今年のエースの森山 塁投手(2年)も大分の選手ですし、昨年にセンバツ準優勝した時の幸 修也主将(福岡大)も地元の別府市出身です。九州でも理想的な形で回るチームの一つだと思います。

 地元の有望選手が関西地区や関東地区に行ってしまうのは、熊本に限らず全国的にそうです。それなら我々が実績を上げて、地元に残ってもらうようにしないといけないし、学校の雰囲気や学力的な面も含めて明豊のようにせざるを得ないのかなと感じました」

 九州大会に向けて野仲監督は、「4試合すべて勝つつもり。神宮大会を狙いにいく」と強い意気込みを語るが、全国レベルのチームを目指す上で、どうしても忘れることができない人物がいるという。

 2017年夏まで秀岳館を率いた鍛治舎巧監督(現:県岐阜商監督)だ。

 2014年4月に秀岳館監督に就任すると、2年目の2015年に秋季九州大会で優勝し明治神宮野球大会に出場。翌2016年の第88回選抜高校野球大会から、3季連続で甲子園ベスト4に進出し圧倒的な実績を残した。

 当然、熊本でも敵なし状態。全国トップレベルの強さ、チーム作りを見せつけられ、短い期間の中でも多くのことを学ばされたという。

「鍛治舎さんは本当にすべてを覆しました。熊本に来ると一瞬で他校を圧倒しはじめ、県内ではどこも歯が立たなくなりました。僕からすればすごく新鮮で、嬉しかったんですね。
 懇親会などでは、すり寄っていって隣に座らせていただき、色んな話を聞かせて頂きましたが、考え方もすごく新しいし泥臭いです。甲子園で勝つためには、こんなチームを作らないとダメだよと教えてもらい、本当に勉強になりました。

 その時にも言われたんです。県外でもいいから、とにかく良い選手を連れてきて勝てるようになれば、地元からも選手が来るようになるからって。スピードは遅いですけれど、少しずつ仰ってた通りにできるようになってきたのかなと思います」

[page_break:「ここまで成長すると思っていなかった」145キロ右腕の玉木稜真]

「ここまで成長すると思っていなかった」145キロ右腕の玉木稜真

東海大星翔は地元・県外のハイブリッドチーム 熊本の全てを覆した鍛冶舎監督率いた秀岳館の台頭が転機 | 高校野球ドットコム
玉木稜真投手(東海大星翔)

 理想とするチーム作りに、少しずつ手ごたえを感じ始めているが、秋季熊本大会を制した今チームは特に理想に近い構成なのではないだろうか。

 エースとして獅子奮迅の投球を見せた玉木は、大阪の強豪・大淀ボーイズの出身だが、中学時代は4、5番手の立ち位置だった。球も速くなく、制球力もお世辞も良いとは言えない投手だったが、高校進学後にその才能が開花。スリークォーターから最速145キロの直球を投げ込む速球派右腕へと成長し、この夏もベスト4進出に貢献した。

「正直言うと、玉木がここまで成長してくれるとは思っていませんでした。制球力はまだまだですが、彼もやっぱり努力してここまで伸びてきたんです。中学時代に日の目を見ていなくても、一生懸命やろうとする選手は伸びてくるし、指導者から見ても可愛く思えますよね」

 玉木以外にも、夏のマウンドを経験した師井 健聖投手(2年=熊本中央ボーイズ出身)、伸び盛りの速球派右腕・渡邉 隆之介投手(1年=熊本東シニア出身)と地元出身の投手が控えるなど層は厚い。

 そして打線では、地元出身の3番・川道、4番・新美の2人が打線を牽引し、1番遊撃手には渡嘉敷 篤弘内野手(大矢ベースボールクラブ出身)、5番・一塁には中島 淳惺内野手(大淀ボーイズ出身)と2人の1年生が定着。特に沖縄県出身の渡嘉敷は、丁寧なグラブ捌きとスピード感あふれる握り替えが目を引き、夏もレギュラーとして出場した。

「前チームの経験者は、ピッチャーの玉木と師井、打線では川道、新美、渡嘉敷の5人です。野手の3人はバットが振れますし、ベンチに入っていた下級生も何人かいたので、新チームスタート当初からある程度の形はできていました」

東海大星翔は地元・県外のハイブリッドチーム 熊本の全てを覆した鍛冶舎監督率いた秀岳館の台頭が転機 | 高校野球ドットコム
東海大相模から転入した百崎蒼生内野手(東海大星翔)

 またこの春からは、頼もしい大型遊撃手もチームに加入した。地元・熊本泗水ボーイズ出身の百崎 蒼生内野手(2年)が、東海大相模から転入。公式戦への出場は2023年5月からだが、すでに練習試合では8本の本塁打を放つなど、高校通算本塁打は20本に到達した。渡嘉敷などは守備面で大きな手本にしているといい、公式戦への出場解禁が待たれる。

 熊本工九州学院らの牙城を崩しはじめた東海大星翔だが、大事なのはここからだ。甲子園に出場し大きな爪痕を残して、そこで初めて「ブレークした」と呼べるだろう。22日に開幕する秋季九州地区大会で、その真価が試される。

(記事=栗崎祐太朗

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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