この夏、初のベスト4の立花学園はいかにして「最新鋭のチーム」のブランドを確立させたのか?
サヨナラ勝ちに歓喜する立花学園ナイン *第104回神奈川大会準々決勝より
この夏、神奈川大会で同校初のベスト4入りを果たした立花学園。若い高校野球ファンや中高生からすれば、新鋭というイメージが強いと思うが、これまでベスト8が通算15回と、過去にも上位進出が多かった学校である。
立花学園は「最新鋭の運営」を実行しているチームとして注目され、部員数は130人を超える。その歴史を紐解きながら、今後の野球部の展望、この夏、躍進を築いた土台を追った。
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選手の成長のために投資は惜しまない
立花学園・志賀監督
立花学園は足柄上郡松田町に所在している。最寄り駅は小田急線の新松田駅になるが、新宿方面から新松田に向かうと、車窓から渓谷が見え、神奈川にもこんな場所があるのかと少々驚く。立花学園に赴任した指導者は、皆同じ感想を持つという。立花学園の大井総合グラウンドは、新松田駅から約6キロほどの場所にあり、専用球場、雨天練習場、約30人程が入れる寮がある。
学校から球場までの移動はバスを使用する。部員は130人を超えるため、指導者がバスを複数回往復して送迎を行うという。部員の殆どは自宅から通っていて、練習後もバスの送迎があるため、練習時間は長く取れない。立花学園は野球部のグラウンドがなかった時代もあっただけに、時間的な制約があっても、選手にとっては野球に打ち込める環境は整っている。
現在の立花学園を率いる志賀監督は2017年4月より監督に就任した。当時の選手たちについて「前監督さんが作り上げたチームで、当時の3年生はエネルギーがあり、奔放な選手たちが多かったです。そのカラーを生かすことを考えました」と、振り返る。日暮 矢麻人外野手(元ソフトバンク)を擁した17年ナインはベスト8まで駆け上がった。
まず、志賀監督はフィジカル強化を優先に選手たちを鍛えた。志賀監督がこの方針にしたのには、自分の実体験が生きていることがある。現役時代は明大中野八王子、明治大では投手としてプレーした志賀監督は、自分の体を「実験台」として、パフォーマンスアップに努めてきた。それをアレンジし、選手たちに伝え、就任から1年で、多くの選手がレベルアップした。また、ラプソードも取り入れ、グラウンド内にはスピードガンも設置し、数字で可視化させ、レベルアップに励んだ。選手の成長のために投資を惜しまなかった。
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SNS運用の最大のメリット
立花学園の横断幕
またSNS運用も始め、2019年1月から野球部の公式Twitterも立ち上げた。今では多くの野球部が取り入れているが、この時は広島の武田高校が積極的に活用しているぐらいだった。志賀監督は武田高校を参考にしたようだが、目的は2つあった。
「社会に出れば、SNSだけではなく、ネットの活用が必然となります。私たちが始めた時は、バイトテロが世間を騒がせていた時期でした。
やはり野球部公式のSNSを運用することで、選手たちには、ネットリテラシーを学んでもらいたかったということがあります」
「また、チームでは練習風景を動画で撮影しますが、カメラを向けられると、迂闊なことはできないですし、選手たちは必然と緊張感を持ってやるようになる。日々、取り組みを発信することで、選手たちにも自覚が芽生えるようになる。メリットは大いにありました」と語る。
また、こうしたSNSを通して、激励の声も多くあった。また、SNSを通した広報活動で、立花学園野球部の魅力は広く伝わった。
志賀監督は神奈川で頂点を目指し、甲子園出場を目指すのと同時に、いかに生徒の個性を引き出すかにもこだわった。それは選手としてだけではなく、一生徒として野球以外の長所を見出し、将来に生かすためだ。
立花学園の部員は野球だけに懸けているわけではない。100人を超える殆どは卒業後、野球以外の道に進んでいく。志賀監督は生徒の個性をしっかりと生かしたいと考えている。
「語弊があるかもしれませんが、高校生は人財です。宝だと思います。野球が上手い、下手、男子、女子というのではなく、持っている才能を全面に生かしたいと考えています」
その立花学園の育成方針をうまく表現したのは、野球部のマスコットキャラクターである「足柄山の金太郎」である。画像を見ていただければ分かるが、とても愛着が沸くデザイン。これはデザイナーではなく、2019年の代のマネジャーが書いたものだという。
「野球部をブランド化したいと思っていて、立花学園といえばこれ、というマスコットが欲しいなと思っていたんです。そこで、絵がうまいマネジャーがいたのでお願いをしてみたら、想像以上のクオリティーで驚きました。可愛いデザインですし、かなり気に入っています」
金太郎のようなデザインは野球部だけではなく、吹奏楽部のTwitterアカウントのアイコン画像に使われるなど、学園から愛されるキャラクターとなった。
「選手たちにとってはプラスになることをしたい」と志賀監督が語るように、オフシーズンではプレゼン甲子園に参加し、選手たちが自らパワーポイントを作成し、発表を行い、また地元の企業に電話して、ファンになってもらう「草の根活動」を選手たちが主体となって行った。さらにマネジャーは音声メディアとして、日々の取り組みを発信し、選手にインタビューを行うなど、広報活動を行った。
「日頃から正しい日本語で喋り、読者の方に愛着を持ってもらうには構成の仕方も大事になります。マネジャーには、ただの雑用ではなく、社会で活躍するために、いろいろ勉強をしています」
意識しなければ、なかなか得られない社会的なスキルの習得。立花学園の取り組みは一線を画したものがある。
そして、この1年間は試行錯誤を重ねながら、ベスト8の壁を破った。しかも厳しい戦いが多い夏の大会で。そこには、メンタル改革があった。
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1年間取り組んできたメンタル改革が実を結ぶ
ビノベーションレポートを導入
立花学園は21年の4月頃から、ビノベーションレポートを導入している。今では取り入れている学校が少しずつ増えているが、立花学園が一番最初に始めた。
このレポートは140項目の質問に答えることにより、人が生まれ持つ資質を14軸2対28項目に分類・データ化するもの。自分は外向的なのか、内向的なのかが分かり、自分を客観視できる。このレポートについては、交流を深めた星川太輔氏の薦めで始めたもので、選手の成長を鶴巻翔平氏がサポート。日々、グラウンドを訪れ、志賀監督と綿密にコミュニケーションを取っている。取材日でも訪れていたが、その姿は立花学園の一人のスタッフに感じられた。
取り入れた経緯について伺うと、「もともと選手たちの考え方を成熟させたいと思っていて、いろいろなメンタルトレーニングをやっていたのですが、その中にはちょっと抵抗感があるものがありました。
考え方を成熟させるには、選手自身が内省することがとても重要だと思います。今回薦めていただいたビノベーションレポートは良くも悪くも、自分の特性、性質をはっきりさせる。その後の方向性、アプローチの仕方は選手たちに委ねられています。そのやり方はとても合致していました」
野球部の活動を通して、社会で活躍するための社会性、人間性を身につけることをこれまで大事にしていた立花学園にとっても、合う取り組みであった。
「高校3年間で自分と向き合う時間を作り、自分の心の可視化を行い、自分の特性を知って、こういうアプローチをしたら、友人関係、試合の向き合い方もうまくいくかもしれない。選手自身で、考え方のセルフコントロールをしてもらいたかったんです。
人生を豊かにするためには、ただ言われたことだけをやる。ただ真似をするだけではなくて、自分の軸を持つことが大事だと思います」
勝利のために始めたわけではない。上辺ではなく、日々の状況に応じて考えて動ける、発言ができる選手になってもらいたいという思いで始めたビノベーションレポートは、マネジメントする側の志賀監督にとっては選手の人間性などが少しずつわかり、コミュニケーションの取り方も工夫ができるようになったという。
そして選手たちにも大きな変化があった。自主性を重視する立花学園野球部のカラーに惹かれた梶原晴斗副主将(3年)は、チームメイトとの向き合い方が変わったという。
「仲間と本音で言いあって、考えていることをかみ砕いて話し合えることができました。138人の大所帯の野球部なので、いろんな考えを持った選手がいるので、どういう伝え方をすればいいのか、その人にあった伝え方を学ぶことができました。僕は外向的なタイプなので、同じタイプだなと思う選手にはガンガン言いますし、内向的な選手には、静かな選手が多いので、優しくアドバイスしたりしています。だいぶ3年生とは仲良くなっていったかなと思います」
立花学園は様々な取り組みで、選手たちは人間的にも技術的にも極めることができていた。
そんな立花学園は、ベスト8の壁を乗り越えることにこだわっていた。この春も藤沢清流に敗れ、大会前から、準々決勝が一番大きな壁と考えてきた。そして夏では再び藤沢清流と対戦。何度もピンチはあったが、それを乗り越え、延長11回裏に2番・高橋琉吉内野手(3年)のサヨナラ打で初のベスト4進出。新たな歴史を切り開いた。
大会前、志賀監督はこう語った。
「選手たちには、立花学園に誇りを持ってもらいたいんです。神奈川には横浜、東海大相模といった名門校がある中でも、それに怯まない取り組みをしてきました」
いわば立花学園野球部のブランド化に成功した。
準決勝ではこの夏優勝した横浜にコールド負けを喫したが、それでも多くの神奈川の高校野球ファンを感動させる戦いを見せてくれた。
この秋、センバツを目指す戦いが始まった。中身が濃い1日を過ごしながら、23年度の立花学園も神奈川の頂点を本気で狙えるチームを目指していく。
(取材=河嶋 宗一)
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