Column

大阪桐蔭から学び、日本一を目指してきた仙台育英の22年度の改革 vol.3

2022.08.22

 須江監督の体制になってからも仙台育英は全国でも実績を残している。これまで培ってきた育成システムが発揮されたのはもちろんだが、日本一を達成するために、あるチームを目標に掲げてきた。それが大阪桐蔭だ。「大阪桐蔭マニア」と自負する須江監督は、今回は日本一を果たすためにこの1年、どんな改革を行ってきたのかを紹介したい。

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「最初の2年間が原点」最新鋭のチーム運営を行う仙台育英はいかにして生まれたのか vol.1
仙台育英が求める選手のマインド、技術的な長所とは? vol.2
大阪桐蔭から学び、日本一を目指してきた仙台育英の22年度の改革 vol.3

大阪桐蔭は打球速度、プレー、選択速度が速い

大阪桐蔭から学び、日本一を目指してきた仙台育英の22年度の改革 vol.3 | 高校野球ドットコム
仙台育英の練習模様

 18年1月、仙台育英の監督に就任した須江監督は、1人で大阪桐蔭のグラウンドに足を運び、西谷監督に「高校野球」を学びにいったという。
 「どういうことを考えて野球を教えているのか。どんなことを大切にされているのか、チームづくりはなんたるか、そして練習試合のお願いをしました。そこからの交流で、毎年、
コロナで甲子園が中止になった20年以外は、毎年やらさせていただいております」

 西谷監督との話や、実際に練習や、試合を見て学ぶことは大いにあった。
 「まずスピード感が凄いですね。東北にはないものがありました。打球速度、プレー速度、思考速度、プレー選択の速さ。この基準にならなければ、日本一はないと考えるようになりました」

 日本一を果たすためには、「大阪桐蔭」を基準として、チーム設計を行った。そして実際に練習試合を行うことで、どんな戦い方をすればいいかを考えるようになる。

 「特に入学時の単純な技量では大阪桐蔭さんの方が上なので そういう相手と対峙して、勝てる方法は何かを選手たちとともに考えます。力勝負ではまず勝てません。能力を封じ込めて、うちがポテンシャルを100%発揮し、相手の不発を狙うという戦法を見出すために(練習試合は)貴重な機会ですし、『基準』を学ぶこともできます」

 須江監督にはチームの成長のために、実戦の中で検証を重ねるだけではなく、高校野球で実績を残している方にも頭を下げて、教えを請う姿勢がある。だからこそ、トップレベルのチームを作り上げることができたのだろう。

 21年の選手たちは、例年以上に選手もレベルアップし、センバツではベスト8。夏でも全国上位進出の期待が高まったが、4回戦で仙台商に2対3で敗れる結果となった。

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ビノベーションレポート

[page_break:高度な野球をするために思考力強化のプログラムを導入]

高度な野球をするために思考力強化のプログラムを導入

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ビノベーションレポートの一例

 なぜ負けたのか?須江監督はその敗因を探った。

 「当時の3年生たちが入学してからの練習のメモをすべて引っ張り出し、どこで間違えたのかを振り返りました。精神的な教育、技術練習、フィジカルトレーニングすべて見直しました。
 全て振り返ってみて、精神的な気持ちの弱さは感じなかったのですが、僕達がやろうとしている野球を完結させるには、選手に委ねる部分が大きく、そのため選手の野球偏差値が高くないと実現できません。その点で思考力というのが、課題としてでてきました。なぜかというと、走塁と打撃のコラボーレーションをしていく時に、野球のルール、特性を理解し、一瞬のプレーで、最適な判断は何か?それを選手たちがオートマチックに選択ができる野球をしていきたいと思っています。これは高度だからこそ、思考力が大事になります」

 それは普段の練習、試合だけで身につけるのは容易なことではない。そんな中、須江監督が出会ったのは、ビノベーションレポートの導入である。

 このレポートは140項目の質問に答えることにより、人が生まれ持つ資質を14軸2対28項目に分類・データ化するもの。自分は外向的なのか、内向的なのかが分かり、自分を客観視できるものである。このレポートについては、星川太輔氏、鶴巻翔平氏も加わり、特に鶴巻氏は野球部を訪れ、座学での講習を行った。ビノベーションレポートの導入、鶴巻氏の加入は大きなメリットはあったと須江監督は語る。

 「悩みを打ち明けられる大人がいることです。実際に監督、部長には言えない悩みってあるじゃないですか。個別相談も、電話、ズーム、テレビ電話を通して、やってもらって
います。チーム関係者ではすっと入っていない言葉でも、チームの人ではない身近なお兄さん、おじさんが言うことで思考やメンタルのバランスが取れることがあります」

 これは皆様にも経験があることだろう。実際に話している内容、指摘している内容は同じでも、この人の話ならば、受け入れられる。この状況ならば、自分が指摘されている内
容も耳に入るなど。良き相談役が増えたことで、仙台育英の選手たちは部活動、学校生活を健やかに送れるようになった。さらに当事者意識をもたせ、自分の客観視できるようになったという。

 「当事者意識を持たせてくれたことも大きいです。自分はチームの一員であり、試合の行く末、チームの未来は日頃の取り組みで決まってくるという考えになってきました。また、自分はどんな人間であるのか。客観視できるようになりました」

 141キロ右腕・福田虎太郎投手(3年)は、ビノベーションレポートを導入したことで、バッテリー間のコミュニケーションが円滑になったと語る。
 「こちらのレポートで、1人1人のメンタル的な長所、短所を理解することによって、チームメイトの接し方は変わってきました。特にバッテリー間のコミュニケーションを取りやすくなったと思います」

 また今回のレポートを通して、自分が決めたことをやり抜くことを決めた。
 「自分の場合は計画性があるけれど、継続力がないことが分かって、続かないから成果がでないで終わってしまう。その性質が今年の3月ぐらいに分かって、まずは1ヶ月間やり続けて良い方向に向かっていきました」

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佐藤悠斗と福田虎太郎

 取り組みが実り、投球内容も良くなり、春の地区予選ではベンチ入りを果たした。佐藤悠斗主将は、自発的な人間性だと気づけたと語り、さらに準備の大事さに気づいた。
 「日本一になるには、なろうと思わないといけないと準備がどれだけ大切なのか、本質的なことに気づけたことは良かったと思います。本質に向き合うことで、須江先生が僕たちに1年からずっと語ってきたことがより理解できるようになったと思います」

 また仙台育英には心強いスタッフも加わった。中学軟式球界のカリスマ指導者と呼ばれた猿橋善宏氏が部長に就任。須江監督の熱い誘いで実現したタッグであった。猿橋部長の就任も大きい。猿橋氏がコーチ陣の指導や、選手たちにも須江監督の考えや思いを分かりやすく伝え、「非常に助かっています」と感謝の言葉を口にする。

 今年の仙台育英は昨年の秋季東北大会の準々決勝で敗退、今年の春季東北大会では初戦敗退を喫したが、この1年の改革により、より思考力が高い「大人のチーム」として歩みを見せている。必ずや、この夏、そして卒業後の選手たちの歩みに生きるはずだろう。

 今夏の宮城大会は、初戦でいきなり実力校・柴田と対戦することが決まった。初戦を突破すれば、昨夏敗れた仙台商と対戦する可能性がある。昨夏の反省を生かし、個人の競争をしながらも、チームの成熟度を高めることをテーマに取り組んできた。そして士気を高めるよう、アップから3年生を中心に盛り上げてきた。

 「仙台商さんと当たる可能性がありますし、僕達からすればとてもやりがいのあるブロックで、最後の夏にふさわしく、凄く楽しみです」(佐藤主将)

 初戦の柴田は苦しみながら、6対4で勝利。そして仙台商との再戦は7対0で勝利し、勢いに乗った。3年ぶりの甲子園出場へ。これまでの秋、春の敗戦も糧にして、最後の夏に最高のチームに仕上がった仙台育英が、県制覇から全国制覇への階段を確実に駆け上がる。

(取材=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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