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「最初の2年間が原点」最新鋭のチーム運営を行う仙台育英はいかにして生まれたのか vol.1

2022.07.08

「最初の2年間が原点」最新鋭のチーム運営を行う仙台育英はいかにして生まれたのか  vol.1 | 高校野球ドットコム

 昭和後半〜平成初期にかけて、全国的な強豪となった仙台育英(宮城)。2015年夏を含め2度の準優勝を果たし、現在も日本の高校野球ではトップをいく超名門校である。

 高校野球ファン、アマチュアプレーヤーからすれば「最新鋭」のチーム運営を実践する野球部に映ると思う。投手、野手のそれぞれのパフォーマンスによってタイプ分けをしたり、数値化してメンバー選考の基準とする。デジタル機器を使いながら、選手のレベルアップもサポートしている。取材すると、まだ高校生ながらも、大学生と話している雰囲気が漂う。自主性も高く、まさに、令和のスポーツチームの運営のお手本ともいってもいいくらいだ。

 今回はそんなチーム運営や、夏へ向けてのチーム構想を連載をしていく。

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ほぼ野球未経験者を教えた最初の2年間が原点

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須江監督

 チーム運営の具体的なやり方の前に、運営を行っている須江航監督の指導ルーツを振り返る必要がある。どんな経験をしたら、こういう運営ができ、現在の指導にたどり着けるのか、ひも解いてみたい。

 須江監督は仙台育英のOBで八戸学院大に進み、学生コーチを務めた。大学生の時に、学園から秀光中等教育学校(現・秀光中)の軟式野球部の立ち上げのため、監督就任の誘いがあった。

 須江監督は大学卒業後、秀光中学校の教員として就職し、さらに軟式野球部の初代監督に就任した。のちに中学軟式のトップを行くチームとなった(現在はボーイズリーグに所属する)秀光中学校だが、立ち上げ当時、野球経験者は1人のみだった。さらに当時の部員は、土日は勉強に費やし、平日の放課後も塾通い。国公立大志望の選手が多く、ほぼ運動をしたことがない選手がほとんどだった。しかし、逆にそのスタートこそが大きなプラスになった。

 「運動していなかったどころか、まず野球のルールを知らない子たちの集まりでした。右利きならば、グラブをどちらに嵌めるか、打った後、一塁ベースに向かって走る。ある程度知っている子たちではなく、知識ゼロの子たちの教えですから、原則を教えないといけない。こういうところからのスタートでしたから、最初の2年間の指導生活は本当に学ばさせてもらって、今の指導の原点となっています」

 原理原則を丁寧に教える。選手たちの指導で心がけているのは、過信をしないことだという。

 「この2年間で学んだのは、『選手たちは言わなくても分かるだろう』『分かっているだろう』『確認しないでもできるだろう』という感覚がなくなりました。良い意味の期待感はありますが、過信しすぎないことは今でも生きています」

 そのスタンスは秀光中が全国レベルの強豪となり、入部する選手のレベルが高くなっても、仙台育英の監督に就任しても変わらなかった。

 「中学生を指導している時、高校生を見た時、大人かなと思ったのですが、実際に高校生を指導してみると、高校生もまだまだ子供なんだなと。だから野球についても、野球以外についても1つ1つ丁寧に教える必要があるなと思いました」

 こういうスタートだったからこそ、数字を持って可視化させる必要があるという考えに至るのだった。

[page_break:数字の可視化は選手たちの目標を明確化させ、モチベーションもアップさせた]

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数字の可視化は選手たちの目標を明確化させ、モチベーションもアップさせた

「最初の2年間が原点」最新鋭のチーム運営を行う仙台育英はいかにして生まれたのか  vol.1 | 高校野球ドットコム

 「最初のスタート時、素人だった彼らはどういうレベルに達すれば試合に出場できるか。たとえば、ショートの選手にはこれぐらいの守備力はあったほうがいいよねとか。当時、指導経験が乏しいなかで、試合で勝つための道筋を探す中で少しずつ基準を作って可視化させるようになりました」

 基準を作るために数字で可視化させる。これはチームを強化していくなかでのモチベーションアップのためでもあった。

 「これまでは試合に出られるというのは、打ったら出られる、うまくなったら試合に出られるなど、明確なものがありませんでした。彼らには暗闇の中で走ってもらうのではなく、目標が明確な中で、走ってもらいたかった。そうすると希望に向かって取り組むことができると思います。数字がすべてではありませんが、レギュラー争いをする中で、ベースラインができ上がります。選手たちは最低限、ここまでやらないといけないんだなと」須江監督は選手たちをレベルアップさせるためのヒントを探るために、幾多の公式戦の中で、その都度、検証を行ったことだ。仙台育英の投手陣のベンチ入り選考の条件として、ストライク率の高さがあるが、これも中学軟式時代に生まれたものだ。

 「中学軟式は点数が入りません。競技特性としては投手が有利に働きますので、実際に調べてみると、全国レベルにいく投手は総じてストライク率が高く、70%となりましたので、70%が基準となりました。このレベルになると、3球投げているうちにあっという間に1ボール2ストライク、3球三振にしてしまいます。中学硬式になると打者有利になり、ストライク率は必然と落ちます。

 高校野球でも、その傾向はありますが、やはり65%に達しない投手になると、当然ですが、2ストライク2ボールになることが多く、試合展開としては重くなる。つまりリズムが出てこないものとなります」

[page_break:激しい競争でベンチ入り選手、ベンチ外選手の力量差もほとんどないチームへ]

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激しい競争でベンチ入り選手、ベンチ外選手の力量差もほとんどないチームへ

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 打者ではタイプ付けを行う。A〜Eの5つのタイプで分けるが、Aタイプは最もコンタクトが高い打者で、Eタイプは長打を求めるスラッガー。打順を構成する時、それぞれのタイプを何人入れるのかを決めている。

 選手たちは入学時にどのタイプに属して、パフォーマンスを伸ばし、競争に入るのかをエントリーすることができる。そして、そのタイプの「そこそこの選手」ではなく「突出した選手」になれないと試合に出場することができない。試合に出場したければ、選手たちは自分ができるプレーの選択肢を増やすよう必然と努力をしていく。ある意味で、高校野球を飛び越えたような競争方式ができあがっている。

 年間を通して競争しているからこそ、仙台育英の練習を見る限りでは、ベンチ入り選手とベンチ外選手のパフォーマンスの差はほとんどないようにみえる。打撃練習で合理的なフォームで鋭い打球を飛ばしている選手がいたので「試合に出場しているの?」と聞くと、「僕はベンチ外なんです」と回答が返ってくる。これまでの野球部の取材経験では、主力とベンチ選手のパフォーマンスは練習からでもその差を感じるが、仙台育英では全くそれを感じなかった。

 主将の佐藤 悠斗選手(3年)は「実戦で結果を残さないとベンチに入れない。入れ替えられるという危機感が選手たちの成長に繋がっていると思います」

 佐藤はスイングスピード159キロを誇る右の強打者で、雨天練習場で素振りやティー打撃を見せてもらったが、その打撃内容はまさにスラッガーであった。これでもスタメンではない。仙台育英の層の厚さを実感させられた。

 多くの選手に出場機会を設けたい。その一心で取り組んできた須江監督の育成システムは類を見ないほどのものとなった。こうしてみると実にシステマチックで、競争も激しいので、ギスギスした感じになるかと思えばそうでもない。選手は自分の課題に向き合って黙々と練習をしている。須江監督がノッカーとなってノックバットを振り続ければ、選手たちは土のグラウンドで泥んこになりながら打球に飛びついている。須江監督と選手たちの「距離感」には心地よさがあり、システマチックな育成システムの中にも、人間味を感じられるチームだと実感した。

(取材=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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