152キロ2年生右腕擁する藤蔭 3年ぶり甲子園出場で大分の勢力図に楔を打ち込む
春夏合わせて4度の甲子園出場実績を持つ大分県の藤蔭。2018年、2019年と2年連続で夏の甲子園出場を果たすなど、近年、大分県で特に勢いのある高校で、OBには広島東洋カープの一岡竜司投手もいる。
チームを率いるのは2019年の2月に就任した、弱冠29歳の竹下 大雅監督。3年前、原 秀登前監督が体調を崩し、急遽部長から監督へ就任することになったが、 チームの持ち味を上手く引き継ぎ、見事2年連続の夏の甲子園出場。大きな試練を乗り越えて、大舞台を経験した。
そんな若き指揮官率いる藤蔭だが、今季のチームは秋季大会では3回戦で、春季大会では準々決勝で敗れるなど苦戦が続いている。
守備の乱れから崩れた秋と春
大分県日田市に学校がある藤蔭は、福岡県境に学校が位置していることから全校生徒の半分近くが福岡県から通い、硬式野球部員も約7割が福岡県出身。高速道路を走れば、30分ほどで佐賀県鳥栖市に行くこともでき、大分市内に行くよりもずっと近い。地理的な要因から大分県外の選手が多く、今年のチームの主力を務める選手も、福岡県や佐賀県出身の選手ばかりだ。
練習を行っているのは、学校から6キロほど離れた場所にある平野球場。基礎体力作りが必要な新入生や投手陣は、この道のりをランニングで来ることもあるというが、基本的には選手たちは授業が終わるとバスで球場まで移動して練習に入る。
「部員は79名います。現在はA、B、Cと3チームまであり、B、Cチームも練習だけでなく実戦も入れながら経験を積ませるようにやっています。入れ替えも激しくして競争心を出していこうと思っているのですが、B、Cチームが向上心を持っていくところまで来ていないのが現状です」
現状を語る竹下監督は、就任して今年で4年目を迎える。現在のチームは2年生右腕の松石信八投手を中心に、選手たちのポテンシャルは決して低くないというが、ここまでは投打がかみ合わずに大会で結果を残せていないのが現状だ。
秋季大会では3回戦で佐伯鶴城に10対3と大差で敗れ、春季大会でも準々決勝で国東に4対6で競り負け。2試合とも守備のミスから失点を許し、悪い流れを断ち切れぬまま打線もズルズルと打ち取られていくのが、ここまでの敗戦のパターンだ。
「春季大会では、守備のミスから出塁を許して失点に繋がるところがありました。内野も外野も、細かい守備のミスを改善していかないと夏も厳しい戦いになると思います。現在も守備練習に多く時間を取っていて、特に外野手は打球への入り方やカバーリングなど副部長の姫路がしっかりと指導しています」
[page_break:152キロ右腕以外にも2人の2年生実戦派左腕が]152キロ右腕以外にも2人の2年生実戦派左腕が
松石 信八投手
主戦の2年生右腕・松石 信八投手は、最速152キロを記録する速球派右腕。竹下監督も「制球力もついてきて状態は悪くありません」と成長を口にするが、とは言えまだまだ発展途上の段階。2番手以降の活躍も大きな鍵となるが、その中で期待されるのが同じ2年生の三和田 温人投手と泉 幸輝投手だ。三和田は1年生時からベンチ入りを果たしており、昨年の春季九州地区大会や夏の選手権大分大会でもマウンドを経験。泉も春先から実績を残し始めた成長株で、その他にも九州大会を経験した3年生右腕の田中 禎将投手など、層の厚い投手陣が形成されつつある。
「夏になると、どのチームも打力を上げてきますので、どの投手にもゲームメイク力をつけさせる必要があります。ここ最近では田中がすごく良い感覚で投げていて、泉もここ数か月で結果を出しています。三和田も1年生から経験を積んでいるので、今は力のある2年生に対して3年生が刺激を受けて、良い方向でピッチャー陣の競争が激しくなってきています」
打撃では、4番に座る梅野 空大外野手(3年)が軸となる。決してホームランバッターではないが、ミート力に長けており広角へ長打を放つことができる。またチャンスにも強く、竹下監督が最も信頼を置く打者だ。
また前チームからレギュラーだった双原 駿介内野手(3年)は、チャンスメイクの役割を担う。ヒットによる出塁からバント、進塁打といった繋ぎの役割まで器用にこなし、また打線の状態に応じて1、2、3番と打順の変更にも柔軟に対応。梅野、双原の活躍が、得点力アップのカギを握っている。
「4月の後半からゴールデンウィークにかけて、対外試合が増えたことで打線も状態は上がっているように感じます。冬場に振り込んできたのが少しずつ形になっているので、バットを振る数は継続しながら、状態を夏に持っていきたいなと思っています」
3年生のほとんどは、中学2年生、3年生の時に聖地で輝くユニホームをテレビで見て進学を決断したという。その1人である主将の種田 来外野手は、3年ぶりの甲子園出場へ並々ならぬ思いを口にする。
「2018年の第100回大会、2019年の101回大会と2年連続で藤蔭高校が甲子園に出場して、『甲子園に一番近い学校だ』とみんな思って進学を決めたと思います。
夏は3年生が力を発揮しないと厳しい戦いになると思うので、試合に出場する9人だけでなくスタンドにいる選手が一体となって戦いたいと思います。誰一人欠けることなく、同じ思いをもって試合に臨み甲子園を目指したいと思います」
直近の10年間を見ると、大分県の夏(2020年の交流試合は除く)は明豊が3度、藤蔭と大分が2度、大分商と杵築がそれぞれ1度甲子園に出場している。明豊は2021年の選抜大会で準優勝を果たしたが、それでも絶対的な存在とまでは言えないだろう。
3年ぶりの切符をつかみ、大分県の勢力図に楔を打ち込みたいところだ。