Column

興国の挑戦、打倒・大阪桐蔭のために「日本一の集団」へ

2022.04.13

 昨夏の大阪に旋風を巻き起こしたのが興國だ。準決勝では履正社に延長タイブレーク14回の末にサヨナラ勝ち、決勝ではサヨナラ負けを喫したが、大阪桐蔭と互角に渡り合った。

 過去には春5回、夏2回の甲子園出場経験があり、1968年には夏の甲子園初出場ながら優勝を果たしている。しかし、75年夏を最後に甲子園から遠ざかっていた。そんな古豪がどのようにして復活を果たしたのだろうか。

意識改革からスタートした

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中村 莞爾主将

 校舎は大阪市天王寺区にあるが、グラウンドはそこからバスで約1時間移動した枚方市にある。部員は2学年で80人と多いため、班分けをしながら練習を行っている。

 このチームを率いて、再興に導いたのが喜多 隆志監督だ。智辯和歌山時代には同校の現監督である中谷仁とともに97年夏の甲子園で優勝。慶應義塾大では4年秋に東京六大学記録となる打率.535をマークするなど、通算114安打を放った。ドラフト1位で入団したロッテでもパ・リーグの新人史上初となる2試合連続サヨナラ打を記録するなど、野球ファンの印象に残る活躍を見せている。

 2006年に現役を引退した後に教員免許を取得。11年から16年まで母校で副部長、部長を歴任した。そして、17年から興國に赴任し、18年夏から監督を務めている。

 智辯和歌山で選手、指導者生活を送ってきた喜多監督が興國に来てまず驚いたのが、部員数だった。1学年10人前後と少数精鋭の智辯和歌山と違い、興國は3学年揃うと、部員数は優に100人を超える。そして、それ以上に感じたのが、選手の意識の差だった。

「数以上に衝撃を受けたのが、甲子園という目標が明確ではなかったということ。こういうチームが逆に普通なんだろうなと初めて知ったので、そこからのスタートではありました」

 甲子園常連校の智辯和歌山と40年以上甲子園から遠ざかっている興國とでは、甲子園に対する捉え方から違っている。まずはそこから認識する必要があった。部員や選手の意識に合わせて、もちろん指導法も変えている。

「班分けをして、グラウンドを目一杯使いながら、練習メニューを組んでいます。言葉を丁寧にわかりやすく伝えてあげないといけないし、なかなか集中力が持たないことがあったりするので、飽きないように工夫をしながらやっていますが、そこは大きな違いかなと思います」

 この日も午前中のランナー付きノックでは先にAチームが守備で、Bチームがランナー、途中でそれを入れ替えるのだが、それでも部員が溢れてしまうので、他の選手はライト後方にある芝生で基礎練習を行っていた。指導者の数も多く、個々の現状に合わせた練習ができるように工夫がなされている。

[page_break:智辯和歌山の「伝統」]

智辯和歌山の「伝統」

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喜多 隆志監督

 その中でも高校時代の恩師である髙嶋 仁・名誉監督の教えを引き継いでいることもあるという。

「できないことをできるまでやるのが練習だということが、ずっと頭にあります。できなかったら、できるまで一つ一つ確認しながら、継続してやらせている部分は、髙嶋先生のやってきたことを頭に入れているつもりです」

 恩師の教えとチームに合った指導を融合して強化を進めてきた。次第に本気で甲子園を目指す選手も増え、チーム全体の意識が変わってきた。そうした選手の変化が昨夏の躍進に繋がったと喜多監督は話す。

「力の差は誰が見てもありましたけど、勝ちへの執念やもう悔しい思いをしたくないんだという気持ちがスタンドの選手を含めて、一つになれたのかなと思います。そうやって初めて勝つチャンスが生まれるチームなので、その辺りは継続してチーム作りをしていきたいと思います。やっぱり目標は甲子園だったので、結果的に負けてしまった悔しさはあるんですけど、正直、あそこまで力を出しきってくれるとは思っていなかったですし、僕の想像以上の姿を見せてくれました」

[page_break:トップクラスの総合力を生かすために]

トップクラスの総合力を生かすために

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和田 礁吾

 この夏をレギュラーとして戦っていた2年生が二塁手の中村 莞爾、三塁手(現在は一塁手)の大森 隼、右翼手の池上 巧馬の3人だった。その中で意欲を見せていた中村が主将に就任。大森と池上も副主将かつクリーンアップとしてチームを引っ張っている。

 80人の大所帯をまとめるのは容易ではない。4月に新入生が加われば、総勢130人は超える見込みだという。そうした中で中村は、「集合した時にしっかりと自分の意見を伝えたりしています」とチームの意思を統一するために工夫を凝らしている。指導者の声掛けを聞いていてもレギュラー以外の選手の意識を引き上げることに力を入れているように感じられた。

 一体感を武器にして戦う興國だが、「僕が全然引っ張れなくて、チームとしてもまとまりがない状態で戦っていたので、全然勝負できなかった」(中村)と4回戦敗退。バッテリーが総入れ替えになったことも苦戦の要因となった。

 課題となったバッテリーは秋の主戦だった右下手投げの吉岡 勇哉と右スリークォーターの有岡 優悟(ともに3年)が軸となる。2年生ながら正捕手として彼らをリードする和田 礁吾は、「勉強熱心で良い感じに育ってきている」と喜多監督が太鼓判を押す成長株。ノックでは下級生ながら積極的に声を出している姿が印象的だった。

 打線は経験値のある池上、大森がポイントゲッターとして頼りになる存在だ。そして、彼らを差し置いて4番に座る矢野 雄大(2年)は指揮官が期待を寄せる左の長距離砲。彼らに当たりが出れば、非常に手強い打線となるだろう。

 今年のチームは突出した選手がいるわけではないが、総合力は大阪でも間違いなく上位クラス。上手くかみ合えば、昨夏と同等、あるいはそれ以上の結果を残すことも不可能ではない。

 中村は「昨年の夏は先輩たちに連れて行ってもらっただけなので、今年は自分たちが引っ張っていって、連れていけるように頑張っていきたいです」と意気込む。昨年の3年生の背中を見て育った彼らが、どのようにしてチームを引っ張っていくのか楽しみだ。

 大阪桐蔭履正社など強豪校が集う激戦区・大阪の頂点を狙う興國。目指すチーム像について喜多監督は次のように語った。

「常に打倒・大阪桐蔭は言い続けています。そのためには日本一のチームにならないといけないんですけど、なかなかレベル的には高い選手がいるわけではないので、全部員で同じ方向を向いて、野球以外の部分を含めて日本一の集団を作っていきたいと思います」

 中村によると、喜多監督からは整理整頓など、日常生活を野球に繋げていくことを指導されることが多いという。取材日も指導陣が時に厳しい言葉を発することもあったが、それはプレー面でなく、プレーに対する姿勢についてだった。

 日本一に相応しい組織作りに地道に取り組んでいる興國。それを突き詰めた先に甲子園という夢舞台が待っているはずだ。

(取材=馬場 遼

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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