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激戦区・兵庫で昨秋王者となった社の独特なチーム作りに迫る【前編】

2022.04.05

 昨秋の兵庫大会で初優勝を飾った近本光司外野手(阪神)や辰巳涼介外野手(楽天)の出身校としても知られており、卒業後も真摯に野球に打ち込み、力を伸ばす選手が数多くいる。

 初出場ながら4強入りを果たした2004年春以来の甲子園出場を目指す、のチーム作りは独特なものだった。

『自然のシステム』を備えたようなチームを目指して

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後藤剣士朗主将

 兵庫県加東市に所在する高校は体育科のある県立校。専用グラウンドや寮が設置され、野球に打ち込める環境が整っている。

 2014年8月に就任した山本巧監督は同校のOB。前任校の小野ではとは公式戦だけでも十数試合の対戦経験があり、ゆえに母校に対して『ある部分』が気になっていたという。

 「何度も対戦する中で、体育会系文化の負の部分がネックになっているんだろうなと感じていました。それは誰の責任でもなく、長らくの日本社会発展の歴史上、意識的にも無意識的にも利用されてきた体育会系文化の負の価値観や慣習、思考のあり方が教育界にも用いられ、招いていたことだと思っていました。自分自身も社会人になってから、様々な場面でふと自分の価値観に偏りを感じたり、無意識に持っていた固定観念にストレスを感じることが多々ありましたので、それらの根源を見逃さず変革していくという『確かな行動』が必要だと思っていました」

 山本監督は小野時代、との試合で次のようなプレーを経験している。当時の小野では四球を選ぶと相手の様子を伺いながらに二塁を陥れるという意識改革のための戦術をあえて持ち合わせていたが、それがを相手に成功してしまうということがあった。そのプレーが成功したか否かではなく、その時の内野手のリアクションを見ていて、事の深刻さを感じたという。

 「相手の内野手はそこに対しては切り替えて行こうと。そういう雰囲気、運びだったように感じました。『想定外』を無くすことも練習要素の一つだとすると、その域ではなかったのかなと。特に下級生は、日々、下級生としてのメンタルの構築に力を注がざるを得ず、野球を深く追究するという心的領域には至っていなかったと推測します。それはまさに体育会系文化の負の要素がもたらす野球への取り組み方から生まれる事象の1つで、問題は、問題が『そこにある』ということを誰も言わないことだと思っていました」

 14年春にに赴任した際には、自然界に多種多様な植物が育ち共生するかの如く、選手が互いに高め合い成長していく『自然のシステム』を備えたようなチーム作りを志したが、強行するという手法は避けた。「今いる選手を否定したくなかった」

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組織づくりの手ごたえ。そして新たな課題

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山本巧監督

 まず放課後であれば、一番にグラウンドに移動し、選手一人ひとりを出迎える形であいさつを交わす。また、クラスの生徒と接する必要があれば、校内ではなくグラウンドに呼んで対話をし、野球に打ち込む選手とグラウンド脇で相談や面談をする生徒が共存し、その双方の息吹が交わる。当初はそんな空間づくりも意識して、選手があるべき心の置き方に出会い、夢に向かって邁進することのできる『心的環境づくり』の涵養に努めたという。

 そのような取り組みの成果は、「今から3年ほど前から、少しずつですが実感できる時間は増えてきました」

 「高校野球の世界でも、結果が全てとか、平気で言われます。しかし、結果を出すための順序を間違えると、人体と同じですぐに滅びます。自己中心的、強引な取り組みで結果を出すことは『簡単なこと』だと思っています。しかし、それでは選手や学校の先生方・後任の指導者や次世代の選手たちには多大な迷惑がかかります。そういう組織はいずれ滅びます」

 『価値観』や『思考のあり方』という根本を変化させていく過程の中に夏の甲子園大会初出場と未来の全国優勝があり、更には末永い野球部の発展があると考えている。

 また、山本監督と同じタイミングで社に赴任した陸上競技部の山田真利監督(現:体育科長)や若浦直樹(現:学校長)らの心温まる支援・協力も得て、体育科の生徒たち自身が負の文化慣習の撤廃に取り組むことで寮の生活文化も一新し、そういう面からも野球部進化の土台が築かれていった。

 そんなの組織作りを加速させるきっかけとなったのが、2020年秋の県大会3回戦・神戸国際大附との一戦だった。この試合で、は2対0と2点リードして9回表を迎え、2死一塁と勝利まであとアウト1つに迫っていた。しかし、この場面で三遊間に内野安打を打たれ、一、三塁とピンチを広げてしまう。

 直後に二盗を許し二、三塁と一打同点のピンチを招く。長打警戒により深い位置取りをとっていた外野手はバックホームに備えやや前に位置取りを変更するのがセオリー。しかし、山本監督の頭の中では守備位置を下げたままにするか、定位置付近まで戻すかで迷いが生じていた。外野手は練習での打ち合わせ通り、やや定位置付近に移動。しかしライトの選手はやや足取りが遅れているように見えたため、山本監督は迷った末に「いつもと違うことをすると後悔する」と、ライトに移動を促した。すると、その直後に長打性の打球が飛び、あと少しのところで捕球できず同点とされた。

 結果、延長13回タイブレークの末に敗戦。その後、神戸国際大附は県大会を制し、翌春のセンバツ大会に出場した。

この試合を経験し、山本監督は『根拠のない自信』『揺れないメンタル』の重要性を再認識した。敗戦の夜、数年ぶりに連絡をとったというのが、小野時代から親交のあった岩崎和久さんだった。岩崎さんはフィールドサポートという会社を立ち上げ、選手の『しなやかな動きづくり』をテーマにサポートをしていただいた間柄。

山本監督自身は岩崎さんと対話をすることで新しい価値観や思考のあり方を吸収。「岩崎さんと話していると、色んなことがひらめいたり、降ってくるんです。自分の価値観や思考のあり方が改革されていく感じが尊くて」

で再び選手への動きづくりをお願いすると同時に、山本監督自身はこの再会をきっかけに、チーム作りの根幹に『ブレインストーミング』を導入した。

(取材=馬場 遼

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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