今年創部100年目を迎える熊本工。新たな時代に向けて「古豪から強豪に」
昨年、第103回全国高校野球選手権大会への出場を果たした熊本工(熊本)。甲子園への出場は春夏合わせて43度を数え、夏には3度準優勝している。1996年の第78回全国高校野球選手権大会では決勝で松山商(愛媛)と対戦した延長11回に及ぶ激闘は、今なお甲子園の名場面として語り継がれている。
現在チームを率いる田島 圭介監督も、高校時代は母校のエースとして活躍し2年生時には県大会で準優勝、3年生時にはベスト4に進出した実績を持つ。2019年に就任して以降、チームを2度甲子園出場に導いており、新チームも2季連続の甲子園出場を目指して始動した。秋季熊本県大会は準優勝で九州地区大会進出を決め、22度目の選抜甲子園出場を狙ったが、初戦で佐賀商(佐賀)に3対4で惜敗。投打がかみ合わず、接戦を制すことができなかった。
甲子園を経験した選手が軸となり九州大会出場
前高翔太(熊本工)
「甲子園で新チームの始動が遅れましたが、さらに公立高校は9月中も練習が制限されてしまい、分散登校で1日置きしか練習できませんでした。それも朝の7時から8時までとか、そんなレベルでの練習で。もちろん他のチームも条件は同じですが、その中でも九州大会に出場できたのは、大きな舞台を経験した2年生がいたお陰です」
チームを率いる田島監督は、現在40歳。明豊・川崎 絢平監督、沖縄尚学・比嘉 公也監督といった次世代を担う気鋭の指導者たちと同世代で、早稲田大時代は鳥谷 敬氏(元阪神、ロッテ)と同級生であった。就任直後の2019年夏にいきなり第101回選手権大会への出場を果たすと、昨夏も監督として2度目の甲子園出場を決めた。
現在は2学年で63人の部員を抱え、九州でも指折りの古豪を率いるが、今年はチーム力は決して高くないと素直に思いを口にする。
「福岡や宮崎の強豪校と試合をさせていただいても、やっぱり相手の方が1ランク上かなと感じます。秋の大会も、正直どうなるだろうという思いで見ていましたし、春も投手の出来一つでどう転ぶかわかりません」
九州大会出場の原動力となったのは、前チームからレギュラーとして出場する3人の野手だ。
主将を務める前高 翔太内野手(2年)は、広角への強い打球が持ち味で3番打者に座る。夏の選手権大会でも2番打者として先発出場し、高いキャプテンシーや勝負強さなど、精神的な面でもチームを支えており、まさにチームの屋台骨を支える選手だ。
「自分の叔父は、熊本工が甲子園で準優勝した時の部員で、自分も熊本工に入って上を目指したいと思って進学を決めました。甲子園出場は自信につながったので、選手としても、キャプテンとしても、さらにチームを引っ張っていきたいなと思っています」
また長打力が武器の増見 優吏外野手(2年)は、前チームから4番を任され、田島監督も「一番信頼できる選手」と期待を寄せる。兵庫夢前ヤング出身の米田 雄大内野手(2年)は、熊本工出身の父の影響から自身も進学を志し越境入学。スピード感あふれる遊撃の守備を持ち味とし、また打撃でも俊足を活かして1番打者に座り、リードオフマンとして打線を牽引している。
[page_break:鍵を握る投手陣の成長]鍵を握る投手陣の成長
松波勲典(熊本工)3
打線では計算できる選手がいる一方で、田島監督が奮起を促すのが投手陣だ。右腕の松波 勲典投手(2年)は、夏には甲子園のマウンドにも立つなど新チームではエースとして期待されたが、秋季大会では実力を発揮することができずになかなか試合を作ることができなかった。変化球が定まらず、甘く入った直球を痛打されるケースが目立ち、代わりに2番手の山下 陽生投手(2年)がリリーフとして存在感をみせた。
準決勝の東海大熊本星翔戦、5点を先行されて劣勢に立たされたが、リリーフのマウンドに上がった山下が見事に試合を立て直し、後半の逆転勝ちにつなげた。球威向上などまだまだ課題もあるが、山下のさらなる成長、そして松波の復活が春に向けての大きな課題となる。
「山下は体は決して大きくなく、球速も130キロくらいですが、小気味良くスライダーやツーシーム系のボールを使って抑えてくれました。熊本県大会の準々決勝、準決勝、決勝、そして九州大会は彼が本当に頑張ったなという感じです」
オフシーズンでは、投打共にさらなるパワーアップを図るため、様々なトレーニングメニューをサイクルで回す姿があった。ゴムバンドや丸太、タイヤにハンマーといった器具を用いて、選手たちは体全身をくまなく鍛え上げていた。
甲子園出場へ残されたチャンスはあと1回。まずはその試金石となる春季大会を制すため、主将の前高は並々ならぬ思いを口にする。
「選抜甲子園にはもう出場できませんが、気持ちはもう夏に向かっています。守備でリズムを作って、バッティングにつなげていくのが自分たちのモットーなので、まずは守備をしっかりと鍛えて、自信を持って夏を迎えることができるようにしたいと思います」
熊本工野球部は今年、節目となる創部100年目を迎える。最後に田島監督は「古豪から強豪に」と思いを口にし、新たな時代へ気持ちを引き締めた。悲願である初優勝に向けた戦いがもうすぐ始まろうとしている。
(取材=栗崎 祐太朗)