九州大会ベスト8では満足しない。名将、春夏連覇経験のある投手コーチが語る興南の課題【前編】
沖縄を代表する名門・興南。
2010年には春夏連覇を果たし、夏12回、センバツ4回。我喜屋監督が2007年から監督に就任してから春夏合わせて8回の甲子園に出場しており、沖縄のトップを走るチームに君臨している。今回は興南の現在地に迫っていきたい。
エースが故障。新たに出てきた1年生左腕の存在
メディシンボールを投げる選手(興南)
この秋は九州大会ベスト8。勝利すれば、センバツへ大きく前進する九州大会ベスト4まであと一歩で敗れる結果となった。我喜屋監督はもちろん今回の結果については満足していない。
「長年、遠ざかっていた九州大会に出場できたというのは評価できます。ただ興南のファンの皆様は、九州大会出場だけで満足できるファンはいないと思っています。
あくまでも甲子園まで行って、また春夏連覇を目指せるチームで乗り込む。興南に対して、そういうイメージで待っているファンは多いと思いますから」
新チームはかなり苦しいスタートだった。エースとして期待された140キロ超え右腕・生盛亜 勇太が故障でベンチ外。その中で出てきたのが1年生左腕・平山 航多だ。
「エースが予選から故障で投げれない事情となり、おそらく無理すれば投げれたのですが、彼の将来のため、無理をさせず、しっかりと治すことにしました。
ベンチ入り投手は右投手が多く、誰か1人左がいないかなと思っていたら1年生の平山が出てきました。投げてみろって言ったら、県大会や九州大会で活躍して、そういう意味では、宮城 大弥の一年の頃と似ているところがあるので、試しですよね」
その平山は九州大会の日章学園戦で完封勝利を挙げた。一定の成果を挙げたとはいえ、現役時代、興南のエースとして春夏連覇に大きく貢献。コーチとして指導する島袋 洋奨氏は、現在の投手の総括についてこう語る。
「まず主に投げられた平山についてはたくさん課題を見つけられた大会でもありました。ただ、投手陣については、もっともっと二年生がチームを引っ張っていかないと思うので、そこはまだまだレベルアップしないといけないと思います」
島袋氏が語る投手陣の課題
禰覇 盛太郎(興南)
また島袋氏は精力的に投手へ指導していた。ブルペンでは投手の投球練習をじっくりと見つめ、適宜アドバイスを送ることもあれば、手本として投げ方のポイントとして投げることもある。島袋氏は指導のポイントを次のように語る。
「投げることに関して言えば、選手1人1人の体つきもそれぞれ違いますし、どういう動きをその人に教えたら、その投手に合うのかなと常に考えながら指導することを心がけています」
島袋氏に限らずだが、NPB、社会人などトップレベルでプレーしてきた指導者の技術的な踏み込みは凄まじいものがある。1つの動作でこんな狙い、こんな意味があるのかと…。島袋氏も取材日の練習でも噛み砕いて、投手に熱心に教えていた。
もちろんレベルアップには技術に加え、体力アップも必要だ。島袋氏もオフ期間が非常に大事だと語る。
「ようやくこの時期にトレーニングを重視して取り組めていると思います。
どうしても大会が詰まっていた時期もありましたので来年に向けて、今はフィジカル的な部分を鍛える良い時間になっていると思います」
実戦に即した練習を行いながら体力強化するのが興南流
遠投の様子(興南)
我喜屋監督はオフ期間の目的について体力アップだと語る。
「沖縄は寒さはないし、年中野球ができるイメージですが、返ってそれが体力作りを疎かにすることが多かった。
春先はシーズンへの準備。シーズン終わったらシーズンの反省、冬は体力作りとメリハリを持たせれば、技術的なこともできるし体力作りもできるし、メニュー作ってやると上手くなっていきますよね。
北海道も天気が良かったら外でやると言っていたので、強くなってきました」
興南のトレーニングは「興南アップ」を代表的に走り系、体幹系のトレーニングが非常に多い。今年は筋力トレーニングの割合が増えてきたとはいえ、走ることを重要視している。
「興南アップという名前で全国に知れ渡っていますが、やっぱり走る動作、投げる動作、走塁に関する事、守備に関する事は同じ走りでも守備走塁に関する走り方は違いますし、それをアップに取り入れれば実戦にもつながってきますし、準備運動の時から盗塁だとか二塁打とかそういうのは全部取り入れてますから、アップ終わったら練習が終わってる感じですね。
同じ1時間でもゲームをやってるイメージでやるのと単に走ってるのとは違いますね。
止まることも飛び出すことも右に曲がることも左に曲がることもできます。
外野も背走して捕る練習とか、ダッシュして送球する動作とか、そういうことはゲームじゃなくてもできる。そういう工夫が大事だと思います」
取材日で印象的だったのが、アップが終わった後、普通のキャッチボールではなく、なげ手からボールをもらった選手がステップしながら、遠投を始めたのだ。これを何度も行っていく。またはボールを転がしてもらって拾った後、遠投。実戦に即した練習ができていた。我喜屋監督は「今の時代、打つだけで守れない選手は許されない」と語るように、野球の基礎を徹底的に叩き込む姿が見られた。
(取材=河嶋 宗一)