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育成から支配下になった西武若手右腕を輩出 元サラリーマン監督が帝京三で起こした改革

2021.12.12

 山梨学院の優勝で秋季山梨県大会は幕を下ろした。山梨学院は関東大会でも準優勝を飾り、来春の選抜をほぼ確実にした。同時に、県内では追いかけられる立場となるが、その先頭に立つ存在の1つが、帝京三だ。

 甲子園の出場実績はまだないが、西武の若手右腕・水上 由伸投手をはじめ3名の現役選手が帝京三で過ごした。

 新チームは秋季県大会で準優勝し、関東大会に山梨代表で出場。初戦で木更津総合(千葉)に0対3で惜敗と、22年ぶりだった秋季関東大会で爪痕を残した。

サラリーマンから監督に転身した大牧氏が就任から始まった

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大牧監督

 22年ぶりの快進撃が始まるという予感は、秋季大会の初戦から醸し出されていた。
 初戦の塩山戦で、15対0の5回コールド勝ちによる参考記録だが、完全試合を達成。エース・三上 大貴投手(2年)の好投と、強力打線が見事に噛み合った試合運びで達成した。

 攻守でバランスの取れた戦いぶりは、元サラリーマンの若き新指揮官が取り組んできたことが形になって表れた結果だが、同時にこれは快進撃の序章に過ぎなかった。

 帝京三は夏の大会をキッカケに、コーチとして母校の指導に尽力していた大牧先生が新監督に就任した。大牧新監督は帝京三を卒業後、東北福祉大へ進学して硬式野球を継続。その後は営業マンとして社会人生活をはじめながら、クラブチームで継続する形で野球とのかかわりを持っていた。

 しかしある日、恩師からの連絡で大牧監督の人生が変わった。
 帝京三時代の恩師である輿石監督から連絡を受け、明桜のコーチとして高校野球に携わることになった。当時は会社でも結果を残し生活も安定していたが、恩師からの頼みを断われるわけもなく、転職して明桜のコーチに就任。

 その後は教職免許を取得するために、再び山梨に戻り通信制の大学に通いつつ、ガソリンスタンドのアルバイト、そして外部コーチという形で帝京三の指導をして生活をしてきた。既に結婚していた大牧監督にとってはかなり厳しい時期であったが、この経験が、現在の選手育成の土台になったと振り返る。

 「アルバイトで指導される側に回ったことはもちろん大変だったのですが、指導を受けている間に気づいたんです。『大人だって、話を聞かずに怒ってばかりいるとミスを連発する』ってことに。そこを改善するためには互いが聞く耳を持って話し合いをしないと、いくらやる気があっても関係性は悪化しますので」

 それに気が付いた大牧監督は、現在は選手たちの能力や性格を注意深く観察して、その子にあった話し方をする。高いモチベーションを保って目標に向かっていけるように、言葉を選びながら教育することの大切さを、身をもって学び、2021年、満を持して稲元先生と交代して大牧監督が指揮を執ることになった。

 だからこそ、選手育成で重きを置いたのは野球以外の部分だった。

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細かな野球ができるように

育成から支配下になった西武若手右腕を輩出 元サラリーマン監督が帝京三で起こした改革 | 高校野球ドットコム
中村 将湖

 新監督になったことで何が変わったのか。選手たちに聞くと、口をそろえて2つの要素が出てきた。

「挨拶はもちろんですが、他部活よりもメリハリを持って行動したり、当たり前のことをしっかりやったりと、私生活も学校生活も凄く大事にするようになりました」(中村将湖

「牽制やカットプレーなど細かな野球が大事になりました」(中橋 慶

 細かな野球と人間性の指導。この2つを大牧新監督は指導してきたが、その背景には社会人経験と、稲元先生が築き上げた野球が関係していた。

「営業マンとして社会を生きていく中で、『目配り・気配り・心配り』が大事だということに気が付いたんです。だから、選手たちにも社会に出てから当たり前にできるように、野球を通じて身に付けてほしいんです。また稲元監督は打ち勝つ野球を作り上げてくださったので、それを継承しながら守備や走塁を鍛えようと。そうすると状況判断能力が大事になりますので、細かいところへの気づきが大切です。だから、『目配り・気配り・心配り』は必要なセンスで、それらを磨くには普段の生活からが大事なんです」

 ガソリンスタンドでのアルバイト時代の経験を通じて、一方的に話すのではなく、お互いに話し合うことの大切さを大牧監督は知っていた。だからこそちょっとした目配り・気配り・心配りを持って相手に接することが社会で生きることの必要なスキルであり、同時に自身のやりたい野球に求められている要素だと話すのだ。

 そんな大牧監督の『目配り・気配り・心配り』の指導を受けて、「ゴミや石が落ちていることに気が付き、拾う機会が増えました」と星野 聖稀主将は自身の中での変化を語る。

 続けて、監督の交代に伴って野球観の変化があったことを話す。
「守備にも力を注ぐようになったので、されたら嫌なことに気が付けましたし、逆に攻撃の時に何をすると相手が嫌がるのか。攻撃の幅を広がって、チームとしてレベルを1つ上げることができたと思います」

 普段の生活から細かい点に気づく目を養う。それが戦術、ゆくゆくは将来に繋がる。ノックではほんの些細なことにも確認の声が飛び交っていたが、大牧監督なりの指導方法が浸透しているのが、垣間見えた。

 こうして攻守のバランスが整いつつあった新チームだったからこそ、秋季大会で快進撃が続いた。
 初戦・塩山戦では15対0で快勝。しかも参考記録ながら完全試合というおまけつき。エース・三上は「いつも通りできたことが良かった」と淡々と振り返ったが、その後も順調に勝ち上がり、準優勝。県大会5試合で39得点12失点。しかも3試合がコールド勝ちと盤石の戦いぶりだ。

 関東大会・木更津総合戦ではエラー2つを記録するなど初戦敗退したが、守った8イニング中、5度得点圏に走者を置くピンチを背負いながら、粘り強い守備でアウトを積み重ね続けた。できることを確実にやり続け、大牧監督が数か月間で指導してきたことを関東大会でも見せ、木更津総合に食らいついた。

 山梨学院を追いかける第一勢力の一角であると同時に、秋の快進撃が本物だったのか。春の大会は元サラリーマン監督の手腕、帝京三の真価が問われるだろう。周りからの期待、重圧、厳しいマークを乗り越えて結果を出した時、帝京三は他校から驚異の存在となるはずだ。

 そういった観点からも、冬場をどうやって過ごすのか。一冬超えた帝京三を楽しみにしたい。

(取材:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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