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春夏通算14回の甲子園出場 119年継承される茨城の伝統校・水戸商イズム【前編】

2021.12.07

 秋季関東大会を制したのは、茨城県の明秀日立だった。重量打線を中心に春先も茨城の高校野球をリードしていくのは間違いないだろう。

 ただ茨城といえば春10回、夏16回と県内トップの出場回数を誇る常総学院が、第一勢力として昔から今もなおリードとしているのも事実だ。2020年の選抜でも躍進を見せたが、その常総学院に次いで、春4回、夏10回の甲子園出場実績を持つのが、水戸商だ。

伝統校であり続けるために、やるしかなかった負けない野球

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ミーティングの模様

 2022年で創立120年を迎える水戸商。野球部は甲子園のみならず、大久保 博元さんや井川 慶さんといったプロ野球選手も高校野球3年間を過ごしてきた。歴史と実績を併せ持つ学校であることは「中学生の時に進路を調べる際に、詳しい実績は知っていました」という鯨岡 遼雅主将や、「入学前から伝統校であることは知っていました」というエース・平山 颯士を筆頭に、2008年選抜以来、甲子園から離れていても、選手たちのイメージの中には刷り込まれている。

 チームを指揮するのは2年目の古山監督だ。
 自身も水戸商出身で、現役時代には選抜甲子園に出場した輝かしい実績を持つが、監督就任の話を聞いた時はプレッシャーはもちろん、驚きを隠せなかったと振り返る。

「将来、水戸商で指導者になるであろう選手には、当時監督だった橋本先生が、それなりの話や接し方をされるんです。だから誰が指導者になるのか見当できるんですけど、その路線に僕はいませんでした。だからお話をいただいた時は、驚きました」

 しかし、自分の周りを見渡すと、ちょうどできる方がいないことに気が付き、「橋本先生の野球をここで切るわけにはいかない」と腹をくくり、母校の指揮官になることを引き受けた。

 伝統校の指揮官は容易ではない。勝って当たり前とされるチームで指揮官となった以上、求められるのは勝利。負けることは許されないチーム状況は古山監督の中で戸惑いは隠せなかった。

 前任だった小瀬は部員10人で1勝するのが大変なチーム。水戸商と比較すれば、真逆と言っても過言ではない。「別物でしたので、高校時代の経験を生かすしかなかったです」と図らずも恩師・橋本先生に指導された負けない野球、守備からリズムを作る野球を、継承せざるを得ない状況だった。

[page_break:3秒に1球に打たれる超速ノックが水戸商を支える]

3秒に1球に打たれる超速ノックが水戸商を支える

春夏通算14回の甲子園出場 119年継承される茨城の伝統校・水戸商イズム【前編】 | 高校野球ドットコム
水戸商・鯨岡 遼雅

 野球の技術面でいえば、守備力を磨くために、古山監督は自身も経験した「全員ノック」を今の選手たちにも課している。
 ノッカーがランダムに内野へ5分間ひたすら打球を飛ばす。そのスピードが凄まじく、手動で計測したところ約3秒に1球は打ち込まれていた。野手は休む間もなく目まぐるしく動き回り、見ているだけでも大変そうなメニューだ。

 しかしこの練習が甲子園のような大舞台では必要だと、古山監督は自身の経験から感じている。
「あれくらいの早いので高い集中力を持って、いかに正確にプレーをしながら動き方を覚えたり、判断ができるようになるか。それができると県内の上位校との試合や、全国の舞台でも通じます」

 鯨岡主将も「あの中で丁寧にプレーできれば、試合で焦らずに対処することができます」と話せば、平山も続けて「いろんなところに目線を配る必要があるので、視野が広がって、ピンチの場面でも冷静に相手打者を見られます」とノックの効果を話す。

 選手育成については、主体性を大事にしているという。
「今の選手たちは、周りの人たちにいろんなことをやってもらって、与えられることが多いと思うんです。それが野球でも同じなんですが、個性があるので、言われたことだけやる選手では勝てないです。だから指導するときは、答えを言わないようにして選手には考えてもらっています」

 恩師・橋本先生が、自分にしてくれたことを、今度は令和の選手たちへ。水戸商の伝統は脈々と受け継がれているが、古山監督はこう言った。

「本当の意味での主体性、自律を理解できたのはここ最近です」

 橋本先生の教えを昇華させる。主体性の定義をグレードアップさせる出来事が、2019年の茨城国体でやってきた。

(取材:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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