Column

大阪桐蔭から漫画でも書けない勝利 近江ベスト4までの軌跡

2021.10.16

 今夏の甲子園では強豪校を次々と下して、20年ぶりの4強入りを果たした近江。新チームでも投打で活躍を見せた山田陽翔(2年)を筆頭に滋賀県勢初の全国制覇を狙えるメンバーが揃っている。今回は大躍進となった夏の甲子園の振り返りと新チームの展望について取材した。

「負けて元々」とチャレンジャー精神で挑んだ大阪桐蔭戦

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近江 守備練習の様子

 今年の夏の甲子園は長雨に苦しめられた。近江の初戦は8月13日に予定されていたが、初めて試合ができたのは19日。その試合も5回途中でノーゲームとなり、20日にようやく1回戦を戦い終えることができた。

 難しい調整を強いられたが、「体調を壊す者もなく、ストレスを溜めることもなかった」(多賀章仁監督)と選手たちはいつも通りプレーすることができていた。

 日大東北との初戦では正捕手の島瀧悠真(3年)が本塁打を含む5打数3安打4打点の大活躍。「甲子園という球場でホームランを打ったことが、彼のキャッチャーとしてのリードにも非常に良い意味でプラスに働いた」と多賀監督は振り返る。島瀧は2回戦以降、打撃で苦しんだが、山田と岩佐直哉(3年)のダブルエースを上手くリードしていた。初戦で彼に当たりが出たことが、チームとしてもノッていける要因になっていたようだ。

 2回戦では春の近畿大会を制した大阪桐蔭との対決となった。「負けて元々」とチャレンジャー精神で挑んだが、先発の山田が捕まり、2回までに4失点。「ちょっと一方的なゲームになるのかな」と多賀監督も流石に弱気になっていた。

 しかし、山田が3回以降に立ち直りを見せると、3回裏に2番・西山嵐大(3年)のスクイズでまず1点を返す。4点差が3点差になっただけだが、この1点がチームに流れをもたらす1点になったと多賀監督は回想する。

 「なかなか難しいボールだったんですけど、よく決めてくれましたよね。その1点で、『よし、まだまだここからやな!』という感じにチームがなってくれました」

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揺るぎない自信を付けた勝利

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津田基

 その後も小刻みに得点を重ね、7回裏に新野翔大(3年)の適時打で同点に追いついた。さらに8回裏には二死満塁から途中出場の山口蓮太朗(3年)の2点適時二塁打で勝ち越しに成功する。山口はこの試合で5回裏に3番・津田基(2年)の代打で出場していたが、その起用の意図を多賀監督は次のように話してくれた。

 「山口が新野のホームランであったり、チームメイトの活躍を自分のことのように喜んでいるんですよね。その姿を見て、僕の心は動いたんですよ。ああいう姿を見てなかったら、3番の津田のところに代打を出せないですよね。津田が2年生であったからこそ、そこで3年生の山口を送れたこともあるんですけど、結局、そういう巡り合わせであの場面ですよね。漫画でも書けないくらいのストーリーです。僕もビックリしましたよ」

 自分がスタメンに選ばれなくても献身的に声を出している姿が指揮官の心を動かした。彼のこうした姿が勝利の女神を引き寄せたのかもしれない。

 初めてリードして迎えた9回表の守備も7回からリリーフした岩佐が3人で抑え、見事に逆転勝利。これまで終盤に弱さを露呈していたチームが、大舞台で成長した姿を見せた。

 「『9回は特別な回やぞ』ということは、何度も選手たちにはずっと話してきました。特に終盤でやられる試合が新チーム結成時から多かったので、『お前らはホンマにもろい、すぐ息切れする、精神的にもそういう状況になればなるほど弱さが出る』と言っていた中で、追いついてから気持ち的な強さを発揮してくれましたよね。9回も強烈なピッチャーライナーが偶然入ったと言わんばかりでしたけど、本当に見事にキャッチしたと思いますよね。8回裏に逆転して、9回を3人でピシャッと切ったというのは本当に見事だったと思いますね」(多賀監督)

 多賀監督の言葉を借りれば、大金星を飾った近江。これまでの経験上、このような試合をした後は、満足感から次の試合でアッサリ負けてしまうことも懸念していたが、「揺るぎない自信というか、よりチームがドシっとしてきました」と杞憂だった。

 3回戦では強打の盛岡大附に打ち勝って7対4で勝利、準々決勝では神戸国際大附に9回表二死から4点差を追いつかれるも、その裏に春山陽生主将(3年)の一打でサヨナラ勝ちを収めた。

 今回はここまで。次回は準決勝、そして滋賀県大会までの振り返りを聞かせていただきました。次回もお楽しみに。

(取材:馬場遼

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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