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センバツで学んだ「勝負根性」の重要さ 仙台育英【後編】

2021.07.17

 令和最初の選抜王者に輝いたのは、東海大相模だった。エース・石田 隼都の安定感抜群の投球を軸にした野球で頂点に上り詰めた。ただ今大会は注目選手が勢ぞろいとなり、優勝候補はいくつかに割れた。その候補のなかの1つが仙台育英だった。

 エース・伊藤 樹という大黒柱があり、打線は主砲・吉野 蓮秋山 俊、さらに準々決勝・天理戦でホームランを放った八巻真也やチームをまとめる島貫 丞主将がいる。指揮官・須江 航監督が率いるタレント揃いのチームは、悲願の東北勢初の優勝の期待が高まっていた。

 周囲からの期待を背に受け、仙台育英の選手たちは、聖地・甲子園でどんな思いをもって過ごしたのか。今回は2回戦・神戸国際大附と準々決勝・天理戦の振り返り。そして夏への思いを聞かせてもらった。

足を生かした自分たちの野球ができた神戸国際大附戦

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ロングティーを行う八巻真也

 手に汗握る投手戦を制した仙台育英。2回戦では地元・兵庫の強豪・神戸国際大附が立ちふさがった。相手は開幕戦でサヨナラ勝ちを収めて勢いづいているだけに油断できない相手だったが、仙台育英には関係なかった。

 5回までに8得点を奪う攻撃で神戸国際大附を攻略すると、守っては安定感光る松田 隆之介のテンポの良い投球で1点しか与えない試合運び。後半はメンバーを代えて守備の乱れが出るシーンもありながら、13対5というスコアでベスト8入り一番乗り。明徳義塾戦では発揮しきれなかった本来の力を出す結果だった。

 島貫主将も「序盤に点数が取れたことが勝因です」と振り返っていたが、いかにして立ち上がりから猛攻を見せることが出来たのか。

 「180センチ後半でサウスポーの千葉 倖生がいるんですが、彼が相手投手のフォームや癖を真似してくれたんです。そのおかげである程度のイメージを事前にもって、準備不足なく打席の中に入れました。だから違和感なく対戦ができて、序盤で点数が取れました」

 また、今年のチームの持ち味である走塁でも攻撃できたことが大きいと4番・吉野は感じている。

 「試合前から須江監督からは『仙台育英の走塁を絡めた野球をすれば点数は入る』と言ってもらえたので、しっかりと走塁に目を向けて戦えたので、点差を離すことが出来ました」

 島貫主将も「何時も大事にしている走塁がハマった一戦でした」と振り返る一方で、準々決勝に向けては一抹の不安があった。

 「後半に甲子園初出場の選手が多く、目に見えるミスはもちろん、細かいところや、目に見えないところで守備が乱れました。緊張感ある中で思うようなプレーができなかったからですが、最後は耐えきって勝つ形になりました。

 周りの人たちからは良い野球に見えたかもしれませんが、戦っていた自分たちは悪いところが出てしまったと思います」

 試合後には須江監督からも『勝った気になるな』と厳しい言葉をかけてもらうなど、準々決勝に向けて再び気を引き締めた仙台育英ナイン。ただ、準々決勝・天理戦ではこれまでとは違う展開となった。

[page_break:センバツで「勝負根性」の重要さ痛感の島貫主将]

センバツで「勝負根性」の重要さ痛感の島貫主将

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島貫丞

 準々決勝・天理戦の勝利の鍵は、世代屈指の大型投手・達 孝太の攻略は避けて通れなかった。須江監督の指導の下、常に用意周到に準備を重ねることが当たり前の仙台育英は、達への対策を講じていた。

 「守備と走塁にはこだわりをもっていこうと話したうえで、攻撃では高めの真っすぐに手を出すことなく出塁しようと決めていました」(島貫)

 作戦通り、仙台育英は初回二死から四死球3つ。続く2回には四死球2つをもぎ取るなど球数48球を投じさせた。相手に2点先取されたことは想定外だったが、3回に3番・八巻 真也のホームランなどで同点。ペースは仙台育英に傾くかと思われたが、4回に守備の乱れから一気に4失点。流れを天理に渡してしまい、そのまま3対10と点差を離される形で仙台育英は選抜を終えることとなった。

 この試合も島貫に振り返ってもらったが、ポイントとしてあげたのが2回の攻撃だった。

 「あの場面が2点で終わらずに3点目が取れていたら、流れは違っていたと思います。せっかく序盤で追いつくことが出来ても、そのまま勝ち越しまでできなかったことが大きかったです」

 加えて守備では勝ち越しに繋がるエラーはもちろんだが、「ポジショニングの確認など細かい部分でミスをしてしまった」と徹底しきれなかったことを悔やんでした島貫。しかし守備に関して言えば、2番手で登板したエース・伊藤の方が悔しさを感じていた。

「相手は細かなところがしっかりしていて、瀬君をはじめとして上位に調子の良い打者が揃っている。だからある程度点数は取られると思っていましたが、気持ちだけが先走って厳しく攻めるべきところで失投をしてしまいました。味方のミスをカバーしきれませんでした」

 一方の攻撃陣。好投手・達の前に3点に封じ込められた。4番に座った吉野は、「前半はチームでの徹底事項を守れていました。ですが、後半から『追い込まれる前に打ちたい』と思って焦りが生じてしまいました」とコメント。速めに勝負を仕掛けてしまい、細かな部分でミスが続いてしまった。

 そうした細かな部分をいかに徹底しきれるか。徹底力を課題に挙げながらも、「自分たちが『勝つんだ』という気持ちの面や、野球の質をさらに理解しながら練習をしています」と島貫主将は現状を語りだす。

 「天理さんを見ていると、気持ちの強さや勝負所での集中力が高かったかと思います。だから二死からの失点が増えてしまったと感じているので、気持ちの部分が自分たちには必要だと考えています」

 勝負根性という言葉を島貫主将は用いたが、夏は全国のみならず、宮城県内のライバルたちが、打倒・仙台育英を掲げて勝負を挑んでくる。厳しい試合が続くことが予想されるだけに、気持ちの部分は勝敗を分ける大事な要素になるだろう。

 最後に「大会を開いてもらったことには感謝ですし、甲子園で経験できたことは大きかったです。今の期間を大事にして、甲子園で感じたことや勝利のために必要なことを話し合いながら練習をやっていきたい」と語った島貫主将。夏は古川黎明との一戦から始まった。今度こそ東北勢悲願の全国制覇へ。東北の獅子は再び牙を研ぎながら勝利への執念を燃やし、夏の甲子園を目指す。

(取材:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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