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浦和学院へ挑むライバル・聖望学園(埼玉) 上位に食い込み続ける組織ができるまで

2021.07.11

 全国各地で2年ぶりの夏の大会が始まっている。全国屈指の埼玉県も9日より開幕した。今大会は、7年連続で甲子園に行けるか期待のかかる花咲徳栄に、春の県大会王者である浦和学院の2強が優勝候補として大会をリードしつつある。その浦和学院と初戦で激突するのは、県内屈指の強豪・聖望学園だ。

育成の肝はしゃべくりをしっかりやること

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アップ中の聖望学園の選手たち

 今大会最注目カードの実現となり、「初戦から山場だから、そこにピークを作らなあかん」と聖望学園の名将・岡本監督は話す。聖望学園といえば千葉ロッテで活躍する鳥谷 敬さんをはじめ数多くの選手を輩出している。それだけではなく、選抜での準優勝と全国での実績もある名門校で知られている。

 だが今年は苦戦を強いられている。秋は県大会まで勝ち進んだが2回戦で敗れ去った。そして春の大会は西部地区予選で入間向陽に負ける悔しい結果に終わっている。そんな今年のチームを岡本監督は真剣なまなざしと口調で、「メンタルが弱い」と一言で表現する。ただその理由は、不可抗力によるものだった。

 「今の3年生は、今年と一昨年の冬を経験できていないんですよ。昨夏の大会も3年生主体で戦ったから経験者がいないんです。本来なら夏を経験しているメンバーがいるはずなのに、その選手が今年はいない。だから卒業した3年生が可哀そうだと思っていましたけど、今の選手たちは、違う意味でもっと大変だと感じています」

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聖望学園・岡本監督

 秋の大会で2回戦・埼玉川口の前に敗れた聖望学園は、逆襲の春へ本来であれば練習に打ち込むことで、技術だけではなく精神力も磨くはずだった。だが、新型コロナウイルスの蔓延に伴い、年明けから3月まで活動自粛を余儀なくされた。

 加えて学校生活はリモート授業を実施していたため、登校することがなく結果として選手たちの集まる場がなかった。「自主練習になるなど思ったような練習は出来なかったですし、チームワークという面でもマイナスでした」と小林 蒼汰主将も自粛生活に戸惑いを感じていた。だが、岡本監督はそれ以上に選手指導という面において、活動自粛が障壁となっていた。

 「リモートで学校に選手たちが来ないから、ミーティングはもちろん全く選手たちと会話ができなかった。そんな状態で春の大会までチームを作って入ったけど中途半端なままで自信を持つどころか不安があって。だから春は最終回に7点も取られんねん」

 岡本監督は選手への指導で大切にしていたのが、会話のキャッチボールをすること。つまり対面でのコミュニケーションをとることなのだ。

 「中学時に比べて自由なところが多いので、やりやすい」と山本が話せば、小林主将は「指導者とのコミュニケーションは中学の時より増えました」と岡本監督の距離の近さを感じている様子だった。

[page_break:自分たちのギアで浦和学院に挑む]

自分たちのギアで浦和学院に挑む

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バッティング練習に打ち込む聖望学園の選手たち

 そんな岡本監督も、ただ漠然と対話をするわけではない。冗談を交える時もあれば、間違った方向に進みつつあれば、ハッキリ指導する。そしてしかるべきことがあれば言う。2年3ヶ月の短い期間で目標である甲子園出場のためには、こうしたきめ細かい対話が選手を育てるために今は必要なのだ。

 ただ、最近の選手たちは「怒られることに慣れていないので、顔色を見ながらしゃべくりをしっかりしてあげて、その後の様子をしっかり見てあげないといけない」と岡本監督は長年の経験からアフターフォローもきちんとしているという。

 甲子園出場のためだけに、岡本監督は選手たちに叱咤激励をしているわけではない。
 「選手には『怒られ上手になれ』とよく言っているんです。人によっては怒られると表情が変わって、余計に叱りたくなってしまう人もいます。けどそれは社会に出たときに損をします。
 だから『目上の人に怒られるのは自分の肥やしだから。怒られるのは何かやらかしたと思わないといけないぞ』と話して、怒られる中でも学ぶように話しています」

 このことについては主砲・佐々木 海斗も「意見をぶつけて叱られたときは『そういった考え方もあるのか』と勉強になっています」と岡本監督の考えを理解している。また山本涼貴も「怒られてなんぼだと思っているので、怒られながらも覚えていくようにしています」と叱られ続けて伸びてきたことを話す。

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小林 蒼汰主将

 春の大会は、入間向陽にサヨナラ負け。「最後に結束力と集中力が足りませんでした」と小林主将は敗因を挙げる。この課題をクリアすべく、選手間のミーティングを重ねてチームワークを高めてきた。

 こうしたなかで、徐々にチームは力を付けてきたが、夏の大会は初戦で浦和学院と対戦することが決まった。「遅かれ早かれ、いつかは対戦する相手です」と山本はライバル相手に気合は十分だ。佐々木も「対戦出来ることに嬉しさもあります」と話すと、小林主将は「チーム全体的に浦和学院さんを倒そうといい雰囲気で練習できています」とチーム全体の様子を語る。

 岡本監督もチームを仕上げるべく、ギリギリまで選手たちを追い込み、しゃべくりをしながらチームを仕上げてきた。2年ぶりの夏は、ここまでの悔しさを晴らすために。「初回から集中してロースコアに持ち込めば勝てると思うので、自分たちの野球をしたいです」と最後に意気込みを語った小林主将。岡本監督も「勝つことばかりを考えると空回りするので、自分たちのギアでチームを高めていきたい」と話しており、まずは聖望学園の野球を貫く姿勢を示した。

 埼玉大会屈指の好カードを制することが出来るか。聖望学園の挑戦が始まる。

(取材:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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