Column

文星芸大付(栃木)の「キャッチ」という打撃練習法

2021.07.08

 栃木が誇る全国クラスの戦績を残す名門といえば、作新学院だろう。2016年の夏の甲子園では全国制覇を達成しており、夏の栃木大会は9連覇を達成。県内では無類の強さを発揮し、今大会も優勝候補として注目が集まる。その牙城を崩す候補の1つが、文星芸大付だ。

指揮官直伝の「キャッチ」で打撃改善

文星芸大付(栃木)の「キャッチ」という打撃練習法 | 高校野球ドットコム
ティーバッティングに打ち込む文星芸大付の選手たち

 野球部専用グラウンドとなる[stadium]秀文記念スタジアム[/stadium]の入口には、これまでの甲子園出場回数に合わせた12個の記念物が建てられている。実績は県内有数であることが十分に伝わってくるが、西武や巨人で活躍した片岡 治大さんを輩出するなど選手育成でも結果を残している。作新学院に負けず劣らずの県内の名門校だ。

 現在、チームの指揮を執っているのは2年前から監督に就任した高根澤 力氏。同校OBであり、日本大学、三菱ふそう川崎で現役を継続。特に日本大学時代には、稲葉 篤紀氏や岩瀬 仁紀氏、谷 佳知氏とともに日の丸も背負った経歴を持っている。

 そんな高根澤監督が作りたいのは打力あるチーム。元々、文星芸大付は攻撃力の高いことで昔から知られている。つまり、伝統を継承するためにも高根澤監督は社会人時代に教わった練習を、文星芸大付の土台としている。

 「基本となるキャッチと呼ばれるティーバッティングがあります。これは入学した時は全員必ず覚える基本動作で、これがあって今のバッティングがあります」(佐藤 真也主将)

 チームをまとめる佐藤主将がそこまで話すほど、チームのベースとなっているキャッチと呼ばれる練習。その目的や方法は以下の通りだ。

【目的】
バットの芯でボールを捉える感覚を覚えるため

【方法】
バットを短く持ちバットの芯にミートさせやすい状況を作ったうえで、2種類のメニューを実施する。

 1段階:しっかりと捉えるだけではなく、ライナー性の打球を飛ばすようにボールをミートさせる。この時、よりよくインパクトまでに内側からバットを出しながら、どう速く振るかを意識する。

 2段階:1段階ではミートさせるまでだったが、2段階では振り切るまではやらず、少しだけボールを押し込む。その際に押し込む際に手をこねると切れる打球、ボテボテの打球になるので、そのまま押し込むことがポイント。

 動画内でも練習方法を紹介しているので、実際に見ながら確認すれば、よりイメージしやすいだろう。そんなキャッチをやらせる意味を高根澤監督はこのように話す。

 「どんなパワーがあっても、スイングスピードが速くても、芯に当ててあげないと打球は飛びません。またどんなボールでもこねてしまうと力は伝わりません」

 「もっといえば甲子園で打ち勝つためにも、全国クラスの投手のボールに負けない正しいインパクトを覚えないといけません。正しく強いインパクトを覚えるために、教えています」

 チームの主力となっている高校通算8本塁打の福田 夢羽斗は「追い込まれてからのバッティングはウリですが、それはキャッチのおかげだと思っています」と効果を実感。また沼井も「ドアスイング気味だったスイングを修正できたこともあって、打球が切れることなく飛距離も打率も向上しました」と打撃が大きく改善されたようだった。

[page_break:準備の重要さ胸に、秋春の屈辱を夏に晴らす]

準備の重要さ胸に、秋春の屈辱を夏に晴らす

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文星芸大付のノックの模様

 こうして文星芸大付は、打撃技術を入学時から鍛えあげていく。それでスイングができたら、今度は準備だ。「監督からは、何事においても準備ができていないと、その後に影響すると指導されています」と佐藤主将が話すほどで、高根澤監督も「野性的に打つのは難しいので、頭の中でイメージをもって1つずつ準備することで打てると思うんです」と話すほど、準備は大事な要素になっている。

 では文星芸大付ではどんな準備をして、バッティングで結果を残すのだろうか。
 「ストライクゾーンに来る変化球の高さは、よく選手たちに指導しています。ストレートは遠近感もありますが、変化球はどの高さから来るとストライクなのか。逆に、どの低さはボールになるのか。そのイメージをもって打席に入り、打席の中で微調整してくれればと思っています」

 取材日は4か所でのフリーバッティングが行われたが、打席に入らずに待っている間はタイミングを合わせるようにしている様子が見受けられた。これも初球からきっちりミートさせるための準備。こうした練習時から準備する習慣、準備する姿勢を養うことで、伝統の文星芸大付の攻撃力を発揮できるように、新チーム発足時から取り組んできた。

 そんな今年のチームはスタート時、「バッティングの調子は良かった」と高根澤監督も及第点を与える攻撃力を兼ね備えていた。ただ、公式戦を戦うにつれて緊張からかバットが振れない。さらにケガ人も出始めるなど、次第に力を発揮できなくなった。そこで「いかに守備でミスをせずに戦うか」ということを佐藤主将はじめ選手たちは考えて秋季大会へ。2回戦は8対1で鹿沼商工を破ったが、3回戦の宇都宮短大附には3対5で敗戦した。沼井は「1人1人が仕事を全うできなかった」と敗因を分析。打線のつながりを欠いたことで、上位進出には至らなかった。

 だからこそ、冬場に改めて全員がキャッチの練習に取り組んだ。「野球にはこれで出来たというものはありません。反復練習が大事ですので、見直しました」という高根澤監督の意図で振り込みと並行して土台をもう一度組み立てた。

 すると春季大会では1回戦で足利を10対3で下す好スタート。「フリーバッティングを見ていても、選手の飛距離が変わった」と高根澤監督の作戦は上手くはまった。そして春季大会では1回戦で足利を10対3で下す好スタート。レベルアップした攻撃力で一気に優勝を真で駆け上がるかと思われたが、準々決勝で作新学院の前に敗れることとなった。

 「優勝を目指していたので、ベスト8でも悔しいです」と秋はケガでキャッチャーとして出場できなかった福田は悔いを残した。公式戦の空気に緊張し、気合を入れすぎてしまったことで普段通りの実力を出し切ることが出来なかったという。

 その課題をクリアするためにも、フリーバッティングのなかで各自がケースを設定してバッティング練習をするなど、試合を想定した練習をしている。日々緊張感をもってやれていることに、ケガの影響で5月から学生コーチとなった浄法寺 一輝も、「雰囲気が良くなったことで、声掛けも変わってきました。もっともっと成長すると思います」とチームメイトの変化を客観的な立場から語ってくれた。

 ケガ人が復帰してきて、「やっとスタートラインに立てるかな」と夏になってようやくベストメンバーで勝負出来ることに楽しみを感じていた高根澤監督。「どこが来ても優勝を目指すことは変わりないので、勝てる準備をします」と意気込んだが、初戦の相手は鹿沼東と決まった。

 1年生の時は夏の大会準優勝。2年生の時はコロナで甲子園を目指せない。怪我で苦しんだことを含めて、高根澤監督が就任してきて一番悔しさを味わい続けてきた。その想いを一気に夏で爆発させるため。そして2007年以来の甲子園へ。初戦から持ち前の強力打線でライバルたちを打ち破っていくか注目だ。

(取材=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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