Column

8人の主将が率いる日体大柏 元営業マン監督の画期的な制度

2021.07.03

 アマチュア野球界において、投手育成において長けているといっていいのが日本体育大学。近年であれば松本 航明石商出身)、吉田 大喜大冠出身)などを輩出し、現在は矢澤 宏太藤嶺藤沢出身)が3年生ながら高い注目を集めている。そんな日体大の系列校である千葉の日体大柏は、投手力という要素において他の姉妹校と比較すると、最も母体である日体大に近い。

日体大柏が採用する驚きの制度の数々

8人の主将が率いる日体大柏 元営業マン監督の画期的な制度 | 高校野球ドットコム
日体大柏のミーティングの模様

 岡田 凛太郎川口 珠璃といった好投手たちを多く擁し、投手力の高さが光る。それが今年の日体大柏の印象だ。母体である日体大のDNAをもっとも色濃く継承しているといっていいチームだからこそ、投手陣に対する指導はきめ細かくされているのではないか。そんな仮説を指揮官である伊藤 太一監督にぶつけるも、回答は想定外だった。

 「土日は70、80球くらい投げますが、平日は投げても大体20、30球くらい。選手たちに任せるようにしています」

 あくまで選手たちの主体性を尊重している伊藤監督。実際に取材当日の練習を見ていくと、選手たちのみでミーティングを主体的に進めている姿が見受けられた。「僕が行くと、本音で話せない選手もいるので、あえていきませんし、聞いていません」ということだが、あくまで試合も選手たちの意志でプレーを選択して進めていく以上、主体性が必要だから伊藤監督は選手たちの意志を尊重しているのだという。

 さらに伊藤監督に取材していくと、現在の日体大柏は月2回ほど土日で1日オフを設定。代わりに平日は休みを設けていないが、実に驚きの体制を敷いている。「社会人野球でもあることですし、トレーナーとも相談して体力面でもプラスだろう」ということで採用しているそうだ。

 驚きの体制を採用し続けている伊藤監督だが、監督となったのは2年前。それまでは部長としてチームのサポートに回る立場で、「自分は監督をやれるようなカリスマ性はないので、就任した時はまさかでした」と話すほどだ。

 現役時代は、同じ千葉のなかでも有数の進学校・市川学園で3年間を過ごし、日本体育大へ進んだ。その後、軟式野球で社会人野球を継続する道のりを歩んだ。その時に経験した後悔を、選手たちにさせないように指導しているとのことだが、一番気を付けているのが選手との会話だという。

 「いい意味で先生っぽくなりたくないんですよね。社会人野球の時は社業と野球を両立していましたが、その時に人とのコミュニケーションの取り方、言葉のかけ方や距離の縮め方を学ぶことが出来て、それが今に凄く活きています。
 選手たちには本音で話してもらえるように、営業マン時代に培った相手のことをよく考えて、端的かつ具体的に会話をして心を開いてもらっています。また野球以上に組織とは、どんなものなのか、どれだけ連携が大事なのか、と言うことも話します。だから、今年のチームは組織力を武器にしてくれている分、僕にとってやりやすさしかないです。毎日グラウンドに来ることが楽しみで仕方ないです」

[page_break:磨いてきた組織力で甲子園を狙う]

磨いてきた組織力で甲子園を狙う

8人の主将が率いる日体大柏 元営業マン監督の画期的な制度 | 高校野球ドットコム
コッシーオアダムカツ(日体大柏)

 元営業マンという経歴を持っていた伊藤監督が率いる日体大柏。ここまで驚きの取り組みを紹介してきたが、最も凄いのは主将だ。何と今年主将に8人の選手を抜擢している。公式戦でも主将として登録されているコッシーオ アダムカツは知っている人もいるだろうが、さらに川崎海斗蓮本 稜といった選手たちが主将に任命されている。

 その中の1人であるコッシーオは「これまで8人主将がいたことはないですし、『多いな』とは思いました」とやはりこれまでの野球人生でも未経験のことだった。ただ「主将1人に任せるのは良くない」と考えていたコッシーオにとっては、8人の主将がいることをプラスに捉えていた。

 伊藤監督のなかでは「主将らしい主将がいなかったのですが、候補だった選手それぞれに良いところがあったので、まずは8人から回していこう」ということで始まったそうだが、今年のチームにおいて主将選びは非常に大事なファクターになっていた。

 というのも、今年のチームは前のチームと比較すると、個々の能力では劣っている部分があった。しかし、組織力や精神面だけで言えば今年のチームが優れているところがあったと伊藤監督は分析する。だからこそ、必然的に今年のチームはチーム力を武器に戦っていくことが大事であり、そんなチームをまとめるためにも主将選びは重要だった。

 こうして8人の主将が選ばれ、現在は当番制の日替わりで主将が代わっている。この体制に対して蓮本は「1人だと頼ってしまうところがありますが、8人もいれば全員が自覚をもって出来ると思います」と話せば、瀧野 歩夢も「チーム全体が責任感をもって練習ができる」と1人の選手としても1日の練習を大事に過ごせていると語る。さらに川崎は「雰囲気が毎日変わるのでマンネリ化しないです」と8人の主将制度がチームにプラスをもたらしていると感じていた。

 組織のリーダーが決まれば、次は組織そのものの強化。本格的にチーム力を磨くためには、ミーティングがポイントになってくる。そこでいかにして意思疎通を図りつつ、チームとしての課題を明確にするか。取材当日も練習後に選手全員で集まり、ミーティングを開いていたが、この時間を有意義にできるかがカギを握る。

[page_break:夏はとにかく「ベストパフォーマンスを」]

夏はとにかく「ベストパフォーマンスを」

8人の主将が率いる日体大柏 元営業マン監督の画期的な制度 | 高校野球ドットコム
日体大柏の練習模様

 そういった点で考えると、新チーム発足時は「意見を出す人は限られていましたし、話の内容も薄い。あまりいい時間を過ごせていなかった」とコッシーオは振り返る。伊藤監督も同じく、「最初のころは5分くらいで終わったので、選手たちに内容を聞くと薄いものでしたので、僕の方でもう一度意見を聞くようにしました」と上手くミーティングができていなかったという。

 「忘れてしまうんだから、ミーティングでしっかり自問自答したうえで、全員で確認をしなさい」と何度も選手たちに指導し続けたことで、秋の段階ではそれなりに組織力が身につき、県大会に無事出場できた。県大会も順調に勝ち進み、成田に負けたもののベスト16。伊藤監督もこの結果に少し納得している部分があったが、「そこで満足してしまった」と同時に反省も口にする。

 元々、個々の能力が低いチームが県大会ベスト16まで勝ち進んだことで、ちょっとした過信をしてしまい、その後のチームの雰囲気が緩んでしまったという。すると、11月に東農大三と練習試合では「やる気が感じられませんでした」と試合内容も含めて伊藤監督のなかでは危機感を覚えた。そこで選手たちには「1週間は僕の考えたメニューをひたすらやらせました」と主体性を大事にしている伊藤監督だったが、その時だけは半ば無理やり選手たちに練習をやらせる形をとった。

 ただ結果として、「目標である甲子園出場を再認識することが出来ました」とコッシーオは話し、チーム全体として進むべき道を改めて確認したうえで、冬場の練習に入っていけたという。

 こうして日体大柏は、一冬超えて迎えた春の県大会でもベスト16入り。夏の大会はCシードとして大会を迎えることになった。ただ、「選手それぞれが自分の成績を意識したプレーをしてしまった」と大事にしてきた組織力を発揮しきれずに習志野の前に敗れた。伊藤監督も「本来の半分のほどの力しか発揮できず反省です」と一言。悔しさを残す結果となった。

 その後、チームとして着実に成長し続けていることに手ごたえを感じている伊藤監督。夏は「ベストパフォーマンスを出せるようにさせていきたい」と、勝敗を強く拘らないようにしたいと話す。一方でコッシーオは「大会期間中も成長していきたい」と自身のさらなる成長に余念がなかった。

 千葉東長狭の勝者と初戦を戦う日体大柏。1年間通じて磨いた組織力で、夏を勝ち上がっていけるか注目したい。

(取材=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.26

【センバツ】26日は天候不良のため2試合実施。27日は2回戦4試合実施

2024.03.26

【ボーイズリーグ】春の全国大会開幕! 福岡志免ボーイズはジャイアンツカップスタメン4人の経験値がウリ

2024.03.27

【福岡】飯塚、鞍手、北筑などがベスト16入り<春季大会の結果>

2024.03.26

【長崎】清峰と佐世保工が激戦制して初戦を突破<春季大会の結果>

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.24

【神奈川】桐光学園、慶應義塾、横浜、東海大相模らが初戦白星<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.23

【東京】日本学園、堀越などが都大会に進出<春季都大会1次予選>

2024.03.22

報徳学園が延長10回タイブレークで逆転サヨナラ勝ち、愛工大名電・伊東の粘投も報われず

2024.03.22

大阪桐蔭が快勝、西谷監督が甲子園68勝で歴代最多タイ、北海は13年ぶり春勝利ならず

2024.03.08

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.02.26

ポニーリーグの球春告げる関東大会が開幕! HARTY氏の大熱唱で協会創立50周年が華々しくスタート! 「まさにプロ野球さながら」

2024.03.17

【東京】帝京はコールド発進 東亜学園も44得点の快勝<春季都大会1次予選>

2024.03.11

立教大が卒業生の進路を発表!智弁和歌山出身のエースは三菱重工Eastへ、明石商出身のスラッガーは証券マンに!

2024.02.26

北陸の雄・金沢学院大学の新入生の経歴がすごい!U-18代表一次候補右腕、甲子園ベスト4の主将、甲子園ベスト8捕手などが入部!