春の公式戦なしで夏に挑む西東京のジャイキリ候補【後編】
4月から始まった春季東京都大会だが、例年とは少し形が違う。ブロック予選が新型コロナウイルスによって中止となり、出場校が64チームに絞られた。都内の多くのチームが春を戦うことなく終える形なった。
ただ、なかには春の大会に出場すれば間違いなく躍進が期待されたチームもいる。その筆頭格が聖パウロだった。
打撃練習は少ない本数で集中力高める
集合する聖パウロの選手たち
機械ではなく人がプレーする以上、そうして目に見えない部分が大事な要素になってくる。どんな学校で、どういった野球をするではなく、どんな人がプレーをするのか。理論や理屈ではない部分を勝俣監督は選手たちへ指導して見極め、選手たちの可能性を最大限引き延ばそうとしている。
その一環として聖パウロが取り組んでいるのは、あえてバッティング練習の本数を減らし、少ない本数で打席内の集中力を高めると言った取り組みだ。この練習自体は勝俣監督がひらめきで出来たメニューだが、選手たちの中では効果は大きいようだ。
「勝負強さといいますか、打席の中の集中力が高まりましたし、ここぞの場面でのヒットを出せるようになってきました」(新妻 凜)
「どんなに泥臭くてもヒットを出そうと思えるようになったので、今はチーム打率が上がっていて練習試合でも打ち勝つことが増えてきました」(深沢 龍士)
こうした練習を含めて冬場のスイング量のノルマは1000スイング。ティーバッティング等を含めていいのであれば、決して達成できない数字ではない。むしろ選手によっては物足りないと感じてしまう人もなかにはいるだろう。逆に、勝俣監督はそこを狙って数字を設定していると話す。
「元々、選手たちには『春には自信を持ってバットを振れるような練習をしていこう』と話をしていました。ただ辛いとか、やらされてバットを振るんじゃなくて、春から先を見据えて何か手ごたえを感じる。何かをつかみ取るような練習をやろうとしてきたので、意欲をもって自主的に増やしたことは良かったと思っています」
ただ、ここまでの取り組みについて勝俣監督に総評をもらうと「まだまだ全然です。甘いと思いますよ」と少し苦笑いを浮かべながら評価する。あくまで求めるものは高いところにあり、合格点は与えることはなかった。
[page_break:秋の敗戦、春予選中止の悔しさを胸に]秋の敗戦、春予選中止の悔しさを胸に
練習に励む聖パウロの選手たち
そんな聖パウロは、今春の公式戦は戦えなかった。新型コロナウイルスの蔓延に伴って、ブロック予選の中止が下されたためだ。これには勝俣監督も「残念です」と話したのち、その理由をこのように説明する。
「頑張っているつもりになっているところもありましたけど、それでも大会を通じて得られる経験は大きいですし、冬場の成果を発揮できずに、どれだけ帝京との差を縮められたのか。それを実感することが出来ませんでしたから」
選手たちからも「周りのチームがどれだけ強くなっていて、比較ができない」と話が出ていたとのことで、自分たちの成長度合いが見えないまま夏に入らなければならなくなった。だからこそ、練習試合を通じて見えない成長度合いを見ようとしているそうだ。
「練習試合で手ごたえを感じながらやるしかないですが、スコアなどの記録には残らないミスにもしっかり見るようにして、結果だけではない奥行き、先を見据えて夏を迎えようと思っています」(勝俣監督)
選手同様、チームも見えないところに目を光らせ、可能な限り強くする。このマインドを持ち続けていることが、聖パウロが激戦区・西東京で毎年実力校として注目される大きな要因なのではないだろうか。
秋の敗戦、春の公式戦を戦えなかった悔しさ。2季分の想いをぶつけるべく、夏に向けて準備を続ける聖パウロ。秋山 丈慈主将は意気込みとして大きな目標を掲げた。
「春の大会がなかったことをプラスに捉えて、聖パウロらしい全員野球で、ベスト4以上の結果を残したいと思います」
勝俣監督も「ベスト4以上の成績を残せるように、ビシビシ鍛えて伸ばせるだけ伸ばしてあげたいと思いますよ」と最後にはコメントを残した。自分たちを見つめ、可能性を最大限伸ばし続けている聖パウロ。秋とは一味も二味も違うチームに生まれ変わり、西東京に衝撃を与える快進撃をもたらすことを楽しみにしたい。
(取材=田中 裕毅)