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目指すは高校野球界の福岡ソフトバンクホークス。愛工大名電の名将が打ち出した革新的な育成システム

2021.06.04

 「高校野球界における福岡ソフトバンクホークスでありたい」

 昨年12月の取材、愛工大名電の名将・倉野 光生監督が強く主張していたメッセージだ。愛工大名電は、12年ぶりの春の愛知県大会を制して頂の景色を見た。東海大会ではベスト4まで勝ち進んだ高校野球の超名門校・愛工大名電

 では、冒頭で書き記した「福岡ソフトバンクホークスでありたい」とは一体どういうことなのか。その答えは勝利と育成の両立だ。

時代のニーズに即した育成プラン

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キャッチボールを行う愛工大名電の選手たち

 勝利と育成を両立させたいと願うのは愛工大名電だけではない。多くの学校が甲子園を目指しつつも、選手個々の能力をはじめ人間性を磨く。この両立は指導者にとっては永遠のテーマかもしれない。

 愛工大名電といえば、甲子園で数々の実績を残し、工藤 公康や山崎 武司といったプロ野球選手。そしてイチローという野球界のスター選手も輩出した高校野球界の超名門。

 ではなぜ、超名門・愛工大名電がこの問題に挑んでいるのか。
 「甲子園という夢をもってウチに入学する選手もいますが、3年間で終わるわけではない選手もいます。ですので、先を見据えて高校野球をステップにしっかりと選手を育成する。だから高校野球界のホークスになれればと思っているんです」

 この育成方針を可能にするだけの練習施設は十分に整っている。[stadium]後藤淳記念球場[/stadium]には、球速はもちろん打球速度などを計測することが可能な機器が4か所に設置。近くにある野球部専用の寮には初動負荷トレーニングができる器具も備え付けられている。

 さらに、プロ野球のキャンプでは当たり前のように使われる、撮影した映像が遅れて再生される撮影器具もあるなど、充実の練習環境が愛工大名電にはある。

 その環境を存分に活かしながら、倉野監督は選手たちと日々向き合い、全国制覇を目指しつつも、高校野球以降でも活躍できる人材を育てている。その取り組みの一環がUCLBと呼ばれるプログラムである。

 これは夏の大会を最後に引退する3年生が対象。引退後も次のステージで即戦力として活躍できるよう、現役選手たちと時間を分けながら練習を行う。さらに土日になれば、木製バットを使い、大学や社会人を相手に練習試合も実施するプログラムである。

 実際に取材当日も、3年生はグラウンドで木製バットを使った1ヶ所バッティングをしている姿があった。スイングや打球を見ていると、木製バットを苦にしている様子はなく、上手く対応しているように見えた。

 大会の結果はもちろんだが、卒業後の活躍や進路と言った指標も高校野球界においては重要視されるようになってきた。こうした視点から見ても、愛工大名電のUCLBは、時代のニーズに合ったものであり、同時に他校にはない一歩先を行く取り組みだと言えるのではないだろうか。

[page_break:強打者を次々と輩出する愛工大名電のティーバッティングを紹介]

強打者を次々と輩出する愛工大名電のティーバッティングを紹介

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トスバッティングを行う愛工大名電・宮崎海

 3年生の進路まで考えた取り組みをここまで紹介してきたが、現役球児たちが取り組む練習も素晴らしい内容となっていた。取材当日は、投手と野手が別メニューで動いていたこともあるため、整理する意味でも野手の方から、練習メニューや育成方針を紹介していきたい。

 まずは育成方針。野手に関しては3年間の長期プランでバッティングを磨くのが、倉野監督なりの方法だ。
 「バッティングに関しては、1年生のうちは、スイングの力をつけさせるようにします。それから2年生に上がれば、打球方向の打ち分け。実戦の中での対応力を覚えさせていきます。そして3年生になれば総決算で、どれだけ試合で結果を残せるか。この3年間の育成サイクルをもって、野手を育てるようにしています」

 現在のチームの主砲・宮崎海は、「1年生の間はとにかく振って、2年生に進級したくらいで、対応力を磨こうと思って練習をしていました」と話していたが、倉野監督の指導にとって宮崎は典型例だと言える。
 「振る力はあったので、1年生のうちはとにかく飛ばせ。強い打球を打て。引っ張って良いぞと言ってきました。ただ逆方向へのバッティングや変化球へ対応。結果を残すためにはその辺りの対応が大事なので、そこに気づき始めたんだと思います」

 新型コロナウイルスの影響で、宮崎が対応力に磨きをかけたのは今オフになったが、結果として春の県大会ではホームランを放つなど打率.407、7打点の好成績を残している。倉野監督の育成が実を結んだといっていい成果だろう。

 このプランをベースに、愛工大名電では打者を育てるため、トスバッティングとティーバッティングの2つを大事にして、バッティングの土台を作っている。
 「トスには投げる、捕る、打つ、のすべてがあるので、毎日必ず100球はやります。6種類くらいに分けていろんな形でボールを見ますが、いかに短い距離でもしっかりとボールを捉えられるか。

 ティーバッティングは12、13種目位ありますが、打球スピードを測るようにしています。そうすれば、どれくらい打球スピードが速くなっているのか。どうすれば打球スピードが上がるのか。こうやって技術を高めるために、選手が色んなことを考えて取り組めるようにしています」

 主将の田村 俊介も計測出来ることには「数字が出ると、自分の調子がいいのか。それとも悪いのか判断できるので、ありがたいです」と語っていた。数字の可視化は選手間でも効果を発揮しているようだ。

 ではここで、トスバッティングについて、4番・宮崎に代表して3種目を解説してもらったことを紹介したい。どの学校でもできる練習メニューだけに、是非参考にしてもらえればと思う。

・足を開いた状態でのトスバッティング
ワンバウンドでピッチャーへ打ち返すことはもちろんだが、センターから逆方向へ打ち返すことをイメージしながら、トスバッティングの中で実践する。

・逆手で持った状態でのトスバッティング
バットのヘッドを寝かせることなく、しっかりと立てた状態でボールをミートさせる。

・ノーバンで打ち返すトスバッティング
ライナーで打つ癖を付けるために実施。大きい当たりを打つのであれば、ボールをこすって弾道を上げるイメージでボールを捉える。

 種目で変化を付けながらも、基本的にはどういった形であれジャストミートさせる。これが、愛工大名電のトスバッティングにおける徹底事項。そしてバッティングの土台を作る基礎となっているのだ。

 また毎日取り組むトスバッティングと違い、フリーバッティングは大会前にならなければあまりやらないという。「室内練習場で打ち込むことは出来るので、全体練習では1ヶ所バッティングをやります。打撃と併せて走塁なんかも確認したいので」という理由もあるそうだが、それでも春季大会6試合で打率.350、36得点という結果が残っている。この数字からも、トスバッティングの積み重ねや1ヶ所バッティングの重要性が見えてくるのではないだろうか。

(取材=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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