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大学で活躍する選手を次々と輩出する福知山成美の短時間練習の方針【前編】

2021.02.03

 春夏合わせて7度の甲子園出場経験を誇る福知山成美。OBでは島本 浩也(阪神)と桑原 将志(DeNA)が現役のプロ野球選手として活躍している。

 現在は新型コロナウイルスの影響で練習を制限されている高校が多いが、福知山成美も例外ではない。練習時間は1日2時間以内という制約があり、取材日はいくつかの班に分かれて練習を行っていた。

 だが、福知山成美は元から練習時間が比較的短いチームであり、授業のない日でも全体練習が半日で終わることが多い。コロナ禍において比較的影響を受けなかったチームであるとも言えるだろう。

練習を省くという決断

大学で活躍する選手を次々と輩出する福知山成美の短時間練習の方針【前編】 | 高校野球ドットコム
ランメニューに打ち込む選手たち

 チームを率いるのは2014年に就任した井本 自宣監督。同校(当時の校名は福知山商)のOBで1997年から指導に携わっている。田所 孝二前監督(現・岐阜第一監督)の指導方針を引き継いでいる井本監督は「練習は増やすことよりも省くことも多いですね」と話す。

 京都府北部にある福知山成美は気温が低くなる冬に雨や雪が降ると、グラウンドの回復に時間がかかる。こうした事情もあり、冬場はノックを一切行わない。野手はキャッチボールさえ省いて、打撃練習と体力強化に注力する日も珍しくないという。大胆な練習内容にも思えるが、短い練習時間で強化をするためには割り切りが必要だと井本監督は話す。

 「高校生は技術的に足りない部分が多いので、どうしても色んな事をしたくなるんですけど、割り切るようにしています。伸ばさないといけない部分を重点的にやって、足りないけど目を瞑るところもあります」

 近年では長時間の練習が問題に挙がることが多いが、それは「やらない」という選択をする勇気がないからではないだろうか。井本監督は「まだまだ足りない」という現実を受け入れた上で練習を省くという決断を行っている。全体練習だけで足りない部分は各々が自主練習で補っているため、春先になって守備の勘が鈍ることということもないそうだ。

[page_break:先入観をなくし、地域に愛されるチームを作る]

先入観をなくし、地域に愛されるチームを作る

大学で活躍する選手を次々と輩出する福知山成美の短時間練習の方針【前編】 | 高校野球ドットコム
室内練習場で打撃練習をする選手たち

 また、福知山成美の特徴として挙げられるのが卒業後に活躍する選手が多いということである。昨年は笹原大虎が京産大の主将としてチームを牽引、深尾哲平は関西国際大の正捕手としてリーグ優勝に大きく貢献した。大学野球では全体練習が2~3時間で残りは自主練習というチームも少なくないが、福知山成美はこれに限りなく近い。だからこそ大学野球という環境に順応しやすいのだろう。

 「僕らはそういう感覚はないんですけど、卒業生が帰ってきた時に『大学に行ったら終わった後に自分で練習するやつはほとんどいないんですけど、そういうのに慣れていたので、自分は練習できています』と言うんです。そういうところは大学の指導者は評価されているんじゃないですかね。うちは高校で精一杯やらせていないし、型にはめることもしていません。行ったところのチームに染まっていくので、どこに行っても上手く順応できるのだと思います」(井本監督)

 福知山成美では細かいサインプレーの練習をすることもない。その分、余計な先入観がないため、次のステージに進んでも適応しやすいという一面もあるようだ。

 そして、井本監督には高校生活を野球一色にしたくないという想いもあるという。

 「高校生なので勉強もしないといけないし、学校行事も積極的に参加させる雰囲気にさせてあげたい。野球だけじゃなくて色んな事にチャレンジすることで、周りの人にも応援されると思うので、そういうチーム作りが大切だと思っています。勝つことも大事なんですけど、それだけじゃなくて、勝つに相応しいチームを作っていこうと思っています」

 福知山成美は地元住民の応援も熱心で、新型コロナウイルスが流行する前は練習の見学に来る人も多くいたそうだ。地域に愛されるチームになったのは、野球をすれば良いという考えではなく、周囲との関りを大切にしてきたことの証でもある。

 そんな福知山成美には頼りになる支援者もいる。福知山市で「スポーツジム・アトラス」を経営する松嶋 幸一さんだ。福知山成美では30年以上前からジムに通い、松嶋さんからウエイトトレーニングの指導を受けてきた。

 松嶋さんは選手の測定数値に沿って、個々に合ったウエイトトレーニングのメニューを作成。専門家から適切な指導を受けられるのも福知山成美の強みである。

(取材=馬場 遼

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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