「上手さ」を「強さ」に。國學院栃木(栃木)が夏を突破するためのキーワード
これまで計5度の甲子園出場実績がある國學院栃木。過去には小関竜也氏(元西武など)や渡辺俊介氏(元ロッテなど)など4名のプロ野球選手も輩出しており、この秋は秋季栃木県大会優勝を果たした。
秋季関東地区大会でも準々決勝に進出し選抜甲子園出場の可能性を残すが、柄目直人監督は「今のままでは夏に勝つことはできない」と危機感を強める。國學院栃木もご多分にもれず、活動自粛期間の影響で十分に練習が積めていなかったためだ。
練習不足の中でも負けなかったことは評価
監督の話に耳を傾ける選手たち
活動自粛期間が全国の高校に大きな影響を与えたことは言うまでもないが、國學院栃木にとってことさら大きなものとなった。学校が再開したのは6月1日で、一学期の終了は8月10日までずれ込んだ。夏休みは8月11日から19日までの8日間しかなく、20日からは二学期がスタート。練習不足は明らかだった。
「このような状況になってしまったのはもうしょうがないことので、選手にも質を上げるしかないよねと話をして、あれこれやるのではなく、足し算はせずに引き算にならないようにやることを決めました。それが結果的にとても良かったのかなと思います」
秋季栃木県大会の序盤は接戦が多かったが、柄目監督は「単純にあれがうちの力だった」と冷静に分析する。1回戦の鹿沼戦では8対6と打撃戦を何とか制し、2回戦の那須拓陽戦も4対2と接戦になった。3回戦は小山と5対4と激戦を演じたが、苦しみながらも何とか勝利を掴んだことでチームに徐々に自信が生まれていった。
「力を出し切る中での接戦でしたが、評価できるのは負けなかったことです。特に1、2回戦は負ける展開でしたが、負けなかったことで勢いがついたと思います。結果的にノーシードだったこともプラスに働き、本当の意味で100%チャレンジャーとなって試合に臨めたことも彼らの不安を緩めたと思います」
これで勢いに乗った國學院栃木は準々決勝では佐野日大を相手に14対7と押し切り、準決勝でも青藍泰斗を9対4で撃破。決勝戦では石橋と接戦になったが、見事なサヨナラ勝ちで3年ぶり6度目の優勝を手にした。
「彼ら自身では成長を感じていないみたいでしたが、自信にはなっていると言っていました。客観視できる人間がいれば実感もできたと思いますが、彼らは成長したと思います。日に日に不安の風船が小さくなっていき、表情や顔つきも良くなっていきましたね」
今年のチームの中心は、4番で遊撃手最上 太陽に、5番・二塁手を任される関 凜斗だ。共にチャンスに強い打撃が持ち味で、特に最上は決勝の石橋戦でサヨナラ打を放つなど非常に勝負強い打者だ。秋季大会は打順が固定できなかった中で、最上と関は中軸に座り続けた。春以降も中心選手として期待されるだろう。
[page_break:一番大事な練習は一番最初にやる]一番大事な練習は一番最初にやる
守備位置に就く選手たち
取材に伺ったのは関東大会を控えた10月の中旬。選抜甲子園を懸けた重要な大会を控えていたが、練習には「國學院栃木らしさ」が至る所にあった。
ウォーミングアップが終わり、まず最初に行うメニューが走塁練習だ。「大事な練習は最初にやる」という柄目監督の方針の下、チームにとって最も大事な走塁練習を一番に行い、走塁への意識を高めているのだ。
「野球はボールがどこに飛ぶかでは無く、人がどれだけベースを踏むかのスポーツなのでその原点を大事にしたい思いがあります。少ない人でも効果的に塁を取ることが相手よりも多く点を取ることに繋がると思います。その意識付けとテクニックと重要性をチームに浸透させるために最初に行います」
また守備練習でも大きなこだわりが見えた。ノックではいきなりボールを使うのでは無く、まずはシャドーで形の確認。また捕球のみに特化してスローイングはシャドーで行うなど、守備の形を作り上げるための工夫があった。
「ノックは打球を追う、捕る、投げると色んな作業がありますが、一度にすべてをやろうとするとどれか一つがぼやけてしまいます。あえて投げないことで、打球を捕ることに特化させて練習することもありますし、逆にボールを最初から持たせておいて捕らずに送球することだけを練習することもあります。つまり目的をはっきりさせることで、スキルを高める狙いで練習をしています」
秋季栃木県大会では優勝を果たしたが、関東大会では準々決勝で健大高崎に8対1と7点差をつけられて敗戦。力の差は歴然としており、このままでは選抜はおろか、夏の大会も勝ち抜くことは出来ないと柄目監督は危機感を強く持つ。
「仮に選抜甲子園に行けたとしても、そこで勝つ、そして夏の大会で優勝するということは今のままでは無理です。これまでにも夏に何度も跳ね返されているので。上手さはありますが、強さがありません。今年はどの高校もそうだと思いますが、間違いなく練習量が足りていないので、単純なことですが打撃力や走塁、技術面もまだまだ上げていかないと無理だと思います」
県内のライバル校では石橋が21世紀枠の最終候補に残り、9年連続で夏の甲子園に出場中の作新学院もこのまま終わる訳が無い。その他にも、青藍泰斗に白鷗大足利、佐野日大など実力校が虎視眈々と夏の聖地を狙っており、栃木県がこれまで以上に激戦となることは必至だ。
「来年の1年生は粒ぞろいです」とリクルーティングの成功も思わず口にする柄目監督。だが2021年の躍進には上級生の力は必要不可欠だ。
「上手さ」を「強さ」に変えることができるか。國學院栃木の成長に注目したい。
(取材=栗崎 祐太朗)