過去4度の甲子園出場を誇る古豪・県立和歌山商(和歌山)が継承する伝統と檜舞台に上がるための数字の明確化
和歌山と言うと強打の智辯和歌山や、近年甲子園出場を果たしている市立和歌山。さらには和歌山東など実力校が拮抗している。
一方で箕島と言った伝統校も復権に向けて牙を研いでいる。その伝統校のうちの1つが今回訪問した県立和歌山商である。
継承される県立和歌山商の遺伝子
練習中の様子
過去4度の甲子園出場など、和歌山県内では伝統校という位置づけられる県立和歌山商。母校でもある田中監督はその歴史の重みを感じながら、日々グラウンドで選手たちに向き合う。
「長い歴史で先輩たちが築き上げてきたことを守る必要があると思っています。ですが今は選手たちの実力が100、120%発揮できるようにあまり歴史の重みを感じさせないようにしています」
ただ、現在チームをまとめる小池陸斗に聞くと、やはり重圧を感じる部分はあるようだ。
「伝統のあるチームですのでふがいないプレーはできないですし、結果を出さないといけない重圧はあります。ですが、和商の一員であることを誇りに思い、プレッシャーも力に変えていきたいと思っています」
ただ伝統校である以上、脈々と伝えられてきた県立和歌山商のDNAは存在する。それを継承してこそ、チームの歴史は繋がれていく。では、県立和歌山商にとって繋げてきたことは何なのか。
「40数年前も私は生徒でしたが、当時言われていました『野球部員である前に和商の生徒であれ』と言うことは今の選手たちも伝えて、学校生活からきちんと出来るように指導をしています」
掃除といった環境の整備や挨拶など当たり前のことでも徹底して取り組む。取材日も生徒たちは制服のボタンを一番上まで止めたり、帰り道も大きな声であいさつをしたりと当たり前のことが徹底されているのが印象的だった。
その点に関して4番に座る宮田 樹からは「挨拶や礼儀と言ったところは1番やっていることだと思います」とやはり選手たちも意識をしている。そういったことこそが県立和歌山商が代々引き継ぎ続けてきたことであり、県立和歌山商のDNAの1つなのである。
甲子園出場のために甲子園で勝つレベルを知る
トレーニングの様子
また県立和歌山商の野球と言うと、強打というのが一番の印象だ。「強打の延長に長打があると思っています」という田中監督。その理想に近づくべく、トレーニングなどを重ねながら選手たちを鍛え、打力の強化を目指している。
新チーム発足時は夏の大会を経験している選手がいながらも、「あまり長打は出ませんので、投手を中心とした守備からのチームです」と真逆に近いような状態からスタート。理想とするだのチームを作るためにも、田中監督はケースバッティングをはじめとした実戦形式での打撃練習を中心に夏休みは練習を重ねた。
その時にポイントとしたのはミスを恐れないことだ。
「選手には『前を向いてアウトになってくれ』と伝えています。たとえアウトになっても、それを経験値に変えて同じミスをしなければいいですし、もし相手にミスが出れば1つでも多くの塁へ進めるかもしれませんので」
加えて、県立和歌山商が練習で大事にすることは、甲子園レベルのチームの具体的な数字を提示すること。例えば、二死二塁でランナーがホーム返るまでのタイム。併殺プレー完成のタイムなどを選手たちに伝え、自分たちと比較させる。そうすると、現状での自分たちの実力値をはっきりさせることで、やるべきことをはっきりとさせるのが狙いだ。
その意図を選手たちもきちんとくみ取っている。
「平均タイムを切れればほとんどがアウトになります。ですので、タイムを縮めるためにどうするか話し合って、チャージを早くしたり送球を丁寧にしたり意識は高まっています」(宮田樹)
また県立和歌山商は、甲子園レベルを肌で感じるチャンスもある。春休みには選抜で近畿に来る甲子園出場するチームと練習試合を組むことができ、グラウンドで対決することが出来る。さらに6月ごろには近畿の強豪校とも練習試合を毎年行っており、大きな経験を積んで夏の大会を迎えることが出来る。
この春は新型コロナウイルスの蔓延に伴い試合をすることはできなかったが、「やってみたいです」と宮田 率生が言うように、選手の中ではこの一戦を楽しみにしている。それは田中監督も同じことだ。
「甲子園で勝つための所作を学べますので、ターニングポイントになっていますよ。また6月にも甲子園レベルの強豪校と出来ることで、春からの成長を確認しながらも、夏への課題を明確にできる。甲子園レベルのチームの選手や監督にもアドバイスをもらえるいい機会なので、本当に大事な試合になっています」
県立和歌山商は新人戦で智辯和歌山に0対3で敗れシード権を獲得できず、一次予戦からスタート。初戦を20対0で快勝したが、3回戦で向陽に0対1で敗戦。二次予選に進めずに秋は終わった。春に巻き返すべき、県立和歌山商は今もなお鍛錬を重ねる。
(取材=田中 裕毅)