Column

埼玉最大のジャイキリを起こした細田学園「やっぱり強かった」と思われるチームに

2020.12.20

 秋季埼玉県大会で、最大のサプライズを起こした高校が細田学園だ。3回戦で延長12回の末、浦和実業にサヨナラ勝ちを収めると、続く準々決勝では花咲徳栄を4対3で破り大金星。最終的に準優勝を果たし秋季関東地区大会出場を果たした。

 細田学園は前身は女子校で、1999年に男女共学となった。野球部は2014年4月に創部され、富士見、大井などの県内公立校を指導した経験を持つ丸山 桂之介監督が就任。創部当初は河川敷の空き地や橋の下といったスペースで練習を行うこともあったが、2017年に念願の専用グラウンドが完成。
チームも年々実力をつけていき、2016年の秋季大会で初の地区予選を突破するとこの秋は遂に関東大会出場を果たした。

浦和実、花咲徳栄撃破でチームの士気は最高潮に

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アップの様子

 「不思議なのですが、あまり負けないチームです。彼らが1年生の年はBチームで練習試合にも行くこともありましたが、意外といい試合するし負けない。ピッチャーもそこそこ投げることができて、派手さは無いけど下手でもない。1年生の頃から自滅しないチームで、まさしく今年の秋の戦いがそれでした」

 チームには県を代表するような選手や、一芸に秀でた選手がいる訳ではない。だが持てる力の8割、9割を常に出せたことが関東地区大会出場に繋がったと丸山監督は語る。

 また勝負所で会心の勝利を挙げたことも、チームの勢いを加速させた。
2回戦の浦和実戦、序盤に4番・吉野 壮真の本塁打などで4対1とリードするも、その後同点となり試合は延長戦へ。一進一退の攻防が続いたが、延長12回に3番・瀬戸尾 侑宏のサヨナラ2ラン本塁打が飛び出し劇的な勝利を挙げた。エースの松本 悠希も197球を投げ抜いての完投勝利だった。

 「1年生の頃は勝負できるボールと技術が無く、ただ投げているだけの状態でした。課題を潰していくのが精一杯だったように思います。活動自粛の期間で自分なりにトレーニングを積んで、そこで体も変わって安定感も出てきたなと感じています」(エース・松本 悠希

 実力校の浦和実撃破で勢いに乗る細田学園だったが、続く3回戦では全国屈指の強豪校・花咲徳栄と対戦となった。全国クラスの選手が並び、また疲労のあるエースの松本長いイニングを投げさせることもできない。
2番手以降の投手の中から先発を決めることになるが、丸山監督が白羽の矢を立てたのが背番号18の飯吉 陽来だった。

 飯吉は、大会直前までは投手では無く外野手。ストレートの最速は115キロ程で、これまで公式戦の登板も無く、練習試合の結果も芳しくなかった。それでも丸山監督は飯吉の投げるカーブの独特な変化に着目し、「ひょっとしたら」という思いがあったと振り返る。

 「面白いボールを投げるんですよ。試合前日のブルペンを見ていると、飯吉のカーブは手元でピュッと落ちる、かなりの落差のあるボールでした。このカーブはなかなか打てないだろうと思い、これはひょっとしたらひょっとするなと」

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「やっぱり細田学園は強かった」と思わせるチームに

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花咲徳栄戦で先発のマウンドに上った飯吉 陽来

 実際、丸山監督の予感はズバリと的中した。

 常時110キロ前後のストレートと80キロ台のカーブに花咲徳栄打線は全くタイミングが合わず、飯吉は5回まで僅か1安打に抑え好機を一切作らせない。後半に入るとさすがに花咲徳栄打線も少しずつタイミングが合ってきたが、良い当たりも外野手真正面やフェンスギリギリに止まったりと大量得点には繋がらない。9回途中を投げて被安打4、2失点と大仕事をやってのけた。

 最終的に細田学園は3対2で逃げ切り、花咲徳栄を相手に大金星。試合を振り返り飯吉は、捕手・吉野の変化球中心の配球のお陰だと笑顔で語る。

 「試合が始まると何かを考える余裕もなくて、目の前の一人一人の打者を抑えることだけに集中していました。周りの声もあまり聞こえず、正直余裕は全くなかったですね。継投の話も事前に聞いていましたが、まさかあんな終盤まで投げると思っていませんでした。
キャッチャー吉野の、ストレート見せ球にして変化球勝負という配球が良かったのだと思います」

 準決勝進出を決めて、選手たちの士気は最高潮に達した細田学園。続く準決勝の大宮東戦でも3対2と競り合いを制し、さらに決勝でも昌平を相手に5対6と大接戦を演じた。初出場となった秋季関東地区大会では、東海大甲府に実力の差を見せつけられたが、県大会を勝ち上がった経験は来春に向けての大きなエネルギーになっていると丸山監督は話す。

 「勝つことができた経験は本当に大きいです。このチームの選手たちは今までシニアやボーイズでも控えだった選手が多いので、細田学園なら試合にも出場できて好きな野球をそれなりにできるかなと思って来た子がほとんどだと思います。
そういった選手たちが、試合に出て勝ち進んだことは財産になりますし、今後の大きなモチベーションになります。実際、2年生たちはほっといても練習をやりますよ」

 だが、丸山監督はさらに大きな課題を選手たちに課す。来春は間違いなく細田学園は各校からマークされ、また強い思いを持ってリベンジに臨むチームも出てくる。そういった中でも「やっぱり細田学園は強かった」と相手に思わせることが、甲子園出場に繋がってくると丸山監督は考えている。

 「一番は彼らにも言いましたが、この秋は周りの学校はみんな満足していません。なんで細田学園が関東大会に行ってしまうんだよって、どのチームも思ってるはずです。
でも細田学園に負けたならしょうがないね、やっぱり細田学園は気が強かったねと納得せざるを得ないチームになってほしいですね」

 細田学園に敗れた花咲徳栄浦和実はもちろん、秋を制した昌平もプロ注目打者・吉野 創士を中心に虎視眈々と夏を狙っている。春日部共栄浦和学院大宮東といった実力校も潜在能力は高く、春もどこが優勝するのか全く読めない。

 打撃寮、投手力、守備力、様々な面でまだまだ課題は多い。細田学園はまずは春に進化を見せるか注目だ。

(取材=栗崎 佑太朗

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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