創部110年の日体大荏原 伝統校が行う新たな取り組み【前編】
創部して110年を超える歴史を持つチームであり、東東京では上位に入る実力を持つ日体大荏原。前身の日体荏原時代にはプロ野球選手を輩出した実績を持っており、現在は都立雪谷時代に甲子園出場した相原 健志監督がチームをまとめる。
鈴木 優(現オリックス・バファローズ)を教え子に持っており、日体大荏原と校名が変わる2016年からチームの指揮を取るようになったが、5年目を迎えた2020年は転機を迎えつつあった。
グラウンド水没、活動自粛を経て迎えた夏
日体大荏原の練習に密着
2019年の秋に来た台風の影響でグラウンドが使えないまま2020年の幕開け。すると、まもなく新型コロナウイルスが蔓延し、練習は自粛となった。6月より徐々に再開をしたが、夏の大会までには万全な体制とはいかず、2回戦で東海大高輪台の前に5対7の逆転負けを喫する。
そんなところから新チームはスタートした。例年よりも夏の大会の開催が遅れたことで、新チームの発足も送れた。加えて2学期の開始が早まったことで、夏休みは必然的に短くなった。
またこういった事態が相まって「遠征に出ることが出来ませんでしたので、こちらに来てもらえるチームだけとの練習試合になりました」と実践の機会が減ったことを相原監督は語る。
一方で練習に打ち込めたことで、プラスな面もあった。
「走塁練習といった基本に関しては、しっかりと積み重ねることができました」
だが、実戦経験が不足したことが公式戦で響いた。初戦の都立農産には16対0と快勝するが、代表決定戦・日本学園戦は厳しい投手戦。日体大荏原・宇藤 武蔵と日本学園・浅井 颯斗の左腕同士が一歩も譲らぬ投げ合いの中、1対1の9回に勝ち越しを許して敗戦。日体大荏原は都大会の切符を逃す結果に終わった。
好投を見せながらも悔しい敗戦となった宇藤はこのように語る。
「1つのアウトに対してどこまで甘かったのか。1球への大切さを知る試合でした」
試合後には「変わらなければいけない」とコメントを残していた相原監督も「経験不足が大会に出てしまったと思います」と改めて大会に向けて準備が間に合わなかったことを悔いた。
「ベンチメンバーを決めるにも選手たちの能力やデータを試合の中で把握しきれなかったので、探り探りでメンバーを決める形になりました。ですので、選手も私も予選を通じて、負けを経て得たものが多かったです」
スマホを使って動作解析
スマホのカメラでプレーを撮影する日体大荏原の選手たち
今回の敗戦を糧にして、自分たちの弱さはどこにあったのか。選手それぞれが見つめ直すきっかけとなった。そしてチームは生まれ変わるべく新たな一歩を歩み出した。それはグラウンドの中に詰まっていた。
まずは掲示物。これまでにはなかったポジションごとの約束事が詰まった掲示物がネットに張られている。
「試合後にミーティングをして反省材料をたくさん出しまして、そこから何をつぶしていけばいいのかをまとめました。そこにスタッフ間で出てきた課題も追記したプリントを印刷しました。やるべきことが詰まっており、何を意識することが明確になっています」
冬の期間に向き合う課題がまとまっており、春までに克服することを目指して練習に打ち込んでいる日体大荏原。そんな掲示物の中には、日本学園との一戦の写真もあった。
「あの敗戦を忘れないようにするためにですが、特に投手陣には同じことを繰り返さないように忘れさせないために、ブルペンに掲示するようにしました」
敗戦をきっかけに始めた新たな取り組みだが、「ノック1つ、練習メニュー1つでも取り組み方が変わってきました」とチーム内の変化は徐々に始まってきた。その顕著ともいえるのが具体性のある練習だ。
まず驚きなのは、練習中にスマートフォンでチームメイトのプレーを撮影するスタイルだ。この取り組みについて「スタッフが少なかったこともありますが、今は動作解析をするところが増えてきましたので始めました」と導入のきっかけを語る。
元々、新チームでは打率や防御率をスマートフォンで共有するようにしているとのこと。宇藤は「全体で共有しやすいので、目標が決めやすいです」と効果を話す。
また、マネージャーがノック中の選手たちのエラー数をカウント。最後に集計したものを報告しているのが印象的だ。
「練習で27個のアウトをノーエラーという練習をやってみても、最後の方にミスしてしまうんです。それが日本学園戦でも最後のアウト1つが取れなかったのが敗因になりました」
他にも練習メニューの大枠を曜日ごとで作成するなど、今までになった取り組みを始めていく日体大荏原。だが、「どこまで継続できるかが大事です」と相原監督は感じている。そこに相原監督の指導の基本が詰まっている。
後編はこちらから!
日体大荏原(東京)が大切にする理念。甲子園は凡事徹底をやり切った選手へのご褒美【後編】
(取材=田中 裕毅)