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21世紀枠推薦校・山田(大阪)が履正社を破り、近畿大会に出場した裏側とは【後編】

2020.11.28

 まさにジャイアントキリング。

 2019年の夏の甲子園で悲願の優勝を果たした履正社から公立校が勝利を掴み取った。この勝利は高校野球界のみならず、SNS上でも大きな話題となった。そんな旋風を巻き起こした学校こそ、大阪山田である。

 今回はもう1つのキーワードである自主性と、秋の戦いを振り返っていきたい。

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履正社を破って近畿大会へ!旋風を巻き起こした山田(大阪)の走力は逆転の発想から生まれていた!【前編】

細やかなコミュニケーションがチームを支える

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守備練習の様子

 大阪山田を語るうえで外せないキーワードは自主性だ。今年のチームから金子恭平監督がボトムアップ、つまり選手からの意見を吸い上げる形を採用。自主性を重んじるスタイルに切り替えたのだ。

 「僕自身が現役時代にやってきたことを伝えても、僕以上の結果を残せないと思ったんです。だったら主体的にやった方が面白いですし、本格的にやることにしました」

 ただ、「直接言うのは慣れない」という選手もチームにはもちろんいる。だから決して任せっきりにするわけではない。選手から声をかけやすいようにきっかけを与えるために、指導者から話をするなど、コミュニケーションを取りながらチームを運営している。

 その最たるものが練習メニューを決めること。まずは、試合で出た課題を改善することを前提としたメニューを選手たちが日々作成。出来たものを金子監督が確認して、最終決定を下すが、指導者としてはどんなメニューが来るのか不安だ。だからこそ、金子監督はまず大枠となる部分だけを先に提示する。

 「見立てとしてチームとしての課題や補強部分は伝えておきます。その上で、どんなことをするのかは選手たちが話します。そこから意見を聞いて、こちらの考えも伝えたうえで、話し合って決めています」

 メニュー決めだけではなく、取材中も選手たちと綿密なコミュニケーションを取っていることが印象深い金子監督。特に公式戦では選手たちを鼓舞するような話をしているイメージが強い。

 「特に公式戦では、いかに選手たちが気持ちよくプレーできるか。やっぱり、選手たちがその気になった方が力を発揮するので、しっかりコミュニケーションをとっています」

 エース・坂田凛太郎も「先生の声掛けは的確ですし、何よりモチベーションが上がります」と、金子監督の鼓舞は選手たちにしっかり届いている。

[page_break:収穫と反省の秋を糧に、磨きのかかった山田野球を春に!]

収穫と反省の秋を糧に、磨きのかかった山田野球を春に!

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この秋快進撃を見せた山田ナイン

 様々な取り組みをしながら秋の大会を迎えた大阪山田。ただ「初戦からどうなるかと思いました」と余裕はなかった。実際、初戦の桃山学院戦は延長戦にもつれる接戦となる。

 それでも何とか粘って勝利すると、3回戦は不戦勝。4回戦では浪速、5回戦は上宮と対戦。そして準々決勝は大産大付と強豪私学との連戦が待っていた。

 それでも鍛え上げた守備と走力を駆使して白星を積み重ねていく。快進撃とも言っていい勝ち上がりだが、この勝因を金子監督はこう語る。

 「秋は次の試合まで1週間の期間があるので、そこで課題と向き合いながら準備できた。大会期間中に成長できたことが大きかったと思います」

 加えて粘り強く戦い、後半でひっくり返す試合展開が出来たことも大きかった。その集大成となったのが、3位決定戦の履正社戦だった。

 前日の準決勝・東海大仰星に対して、速球対策を講じるも機能せず。1対11のコールド負け。悔しい結果だったが、選手たちの切り替えは早かった。

 「大敗はしましたが接戦ではなかったので、逆にすぐ切り替えることが出来ました」(笹川大智

 「大阪桐蔭履正社とは1度はやってみたいと思っていたので、自分の力がどこまで通じるか。点数を取られるのは仕方ないので、楽しみでした」(坂田凛太郎

 金子監督も選手たちと同じ想いをもって試合当日を迎えた。そして試合前にはこんな言葉を選手たちに残した。

 「周りは99%大阪山田が負けると思っているから、ここで勝てたらこんな面白いことはないよ」

 すると、先発したエース・坂田が先に点数を許すものの、守備では大きなエラーがなく、0対1のまま終盤に入る展開。「いつも以上に上出来でした」という試合運びで進むと、8回頃から選手間でこんな言葉が飛び交ったとのこと。

 「やっと8回だ。今日も行けるで!」

 今大会、8回に逆転成功のケースが多く、大阪山田にとってはチャンスのイニングだったのだ。それほど勢いに乗っていた大阪山田は、9回にワンチャンスをモノにして勝ち越し。直後、「最終回は緊張しました」という坂田が履正社の反撃を抑え、大阪山田は近畿大会への道を切り開いた。

 金子監督は再び履正社戦を振り返り、「勝つならあの展開しかなかったです」と最高の勝ち方だったが、近畿大会は甘くなかった。

 初戦で名門・龍谷大平安と激突。「思うようなプレーができている選手が少なかった」と尾崎紀昭主将が語るように、鍛えてきた守備で3つのエラーと自分たちのペースに乗れない。エース・坂田も「履正社戦ほど集中できなかった」とピッチングに苦しみ、1対4で敗れ去った。

 しかし先日、大阪山田は大阪府の21世紀枠推薦校に選出。来春の選抜出場に望みが繋がった。金子監督は「選んでもらったのはありがたいですが、一層頑張らないといけないと思います」と気を引き締めた。

 近畿地区の推薦校となるかどうかは12月11日に発表される。最後に尾崎主将に今後の意気込みを語ってもらった。

 「やるべきことはたくさんありますが、出来ることを考えて春以降も戦っていければと思います」

 大阪山田のところに吉報は届くのか。春以降、再び旋風を巻き起こすべく、大阪山田の鍛錬の日々は続いていく。

(取材=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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