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履正社を破って近畿大会へ!旋風を巻き起こした山田(大阪)の走力は逆転の発想から生まれていた!【前編】

2020.11.27

 まさにジャイアントキリング。

 2019年の夏の甲子園で悲願の優勝を果たした履正社から公立校が勝利を掴み取った。この勝利は高校野球界のみならず、SNS上でも大きな話題となった。そんな旋風を巻き起こした学校こそ、大阪山田である。

自分たちから崩れない野球を目指して

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この秋旋風を巻き起こした山田の選手

 部員数33名と決して多いわけではない。また練習場所は65メートル×90メートルの学校の校庭と、どこにでもある公立校だ。ただ、多い時は校庭を7つの部活動が同時に使う時があるとのこと。

 取材日も奥では陸上部とソフトボール部が使っており、全面を使って練習するには早朝にやるなど工夫を要する。そんな山田が、全国クラスの履正社を破ったのだ。

 履正社からの勝利について、チームをまとめる尾崎 紀昭主将はこのように振り返った。

 「考えても仕方なかったので、勢いでやるしかないと。あの試合は全員が一丸となって戦えた試合だったと思います」

 この勝利で近畿大会に出場。初戦の龍谷大平安には1対4で敗れたが、大阪府の21世紀枠推薦校に選出されるなど、充実の秋を過ごしている大阪山田。しかし新チームスタート時は「こうなることは想像していませんでした」と尾崎主将は話す。

 指揮官である金子恭平監督も尾崎主将と同意見だった。

 「例年通りという感じでした。一冬超えたら面白いと思っていましたので、秋にここまでの結果を出せたのは驚きです」

 今夏、大阪山田は初戦・太成学院大高に敗れて、秋に向けて新チームを始動させた。今年のチーム、特に2年生全員が中学時代は軟式出身であることから「フィジカルには不安があった」と尾崎主将は感じながらも、選手間の中の良さを活かしたチームワークには、自信を持っていた。

 そんな新チームを秋に向けて仕上げていくために、金子監督が目指したのは崩れないチームだ。

 「秋は最低限、自分たちから崩れないチームになるために守備を鍛える。そのうえで、小技や足技を使って相手を引っ掻き回せるようなチームを目指すことを選手たちに伝えました」

 しかしそれは今のチームだからというわけではなく、この環境だからこその戦い方なのだ。

[page_break:守備の視点で走塁を磨き上げる]

守備の視点で走塁を磨き上げる

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走塁練習の様子

 大阪山田に赴任して5年目となる金子監督は、前任では寝屋川に学校を構える北かわち皐が丘にいた。北かわち皐が丘も練習環境や山田に近いもので、あまりグラウンドが広くなかったとのこと。だからこそ、出来ることといえば、足技と小技を磨く。つまり走塁とバントを鍛えることだった。

 どのような練習がいいのか。当時考えたことを、現在の山田でもそのまま活かしているとのことだが、キーワードとなるのが根拠だ。

 「失敗をしても構わないから、どうしてそんなプレーをしたのか。どんなことを考えていたのか。そういう根拠、意図をもってやる。何となくやるとことはないように、きちんと準備させることだけはやらせています」

 根拠を持たせるべく、金子監督はそのために多くの情報を集めたうえで、一歩目を切れるように日ごろから指導をし続けるが、大事になっているのはシートノックだ。

 シートノックは守備の練習というイメージを持つ方がほとんどだろう。だが、大阪山田のなかでは走塁強化の一面も持っている。それは細かな状況設定と、ランダムに打ち分けるからだ。

 ランダムに打つことで「緊張感があります」と1年生・笹川大智が語るが、いつ打球が来るのかわからない。加えて、細かな場面設定があるため、打球の質や方向によって起こりうるプレーは必然的に変化する。

 そうすると、打球を受ける前にきちんと想像を働かせて、様々なパターンを考える必要が出てくる。また「試合で起こりうることはすべてつぶしておきたい」ということで、金子監督から練習を止めても確認するなど、準備の声掛けをできるようにしている。

 それと同時に伝えるのが、どこに隙が生まれやすいか。例えば外野との中継プレーなどでどこに隙が生じるのか。そのポイントを伝えることで、無駄な進塁を防ごうという意識を高める。その発想を逆転させて、走塁に活かすのだ。

 「どこに隙が生まれるのかノックで伝えますが、その逆で、どこで隙が生まれて、走塁で突けるのか。守備でも走塁でもそういった発想を活かせるようにしています」

 1年生ながら3番に座る笹川に話を聞いても、その理論はきちんと浸透している。

 「守備の時はランナーの動きを想定していますが、その発想が逆に自分が走塁する時に役立っています」

 ノックを通じて、いかにして次の塁へ行かせないか。その反対で、走塁ではどうやって次の塁へ進むのか。強豪私学が想っていない意表を突く走塁を守備の観点から磨いたことで、大阪山田の強力な武器となった。

履正社を破って近畿大会へ!旋風を巻き起こした山田(大阪)の走力は逆転の発想から生まれていた!【前編】 | 高校野球ドットコム後編はこちらから!
21世紀枠推薦校・山田(大阪)が履正社を破り、近畿大会に出場した裏側とは【後編】

(取材=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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