もう一度緻密な「修徳野球」を。8年ぶりの夏の甲子園出場を狙う「0勝監督」の挑戦【前編】
これまで計8度の甲子園出場実績を誇り、高橋尚成氏(元巨人など)や中日ドラゴンズの三ツ俣大樹選手など計13名のプロ野球選手も輩出する東東京の名門・修徳高校。
2018年冬に前任の阿保暢彦監督(松山城南監督)から引き継ぎ、これまでコーチ、部長としてチームを支えた荒井高志氏が監督に就任し、間もなく新体制となって3年目を迎える。
昨年は夏の東東京大会でベスト8、秋季東京都大会でもベスト8に進出し、修徳の伝統を堅実に受け継いでいるように見えるが、荒井監督は自らを「0勝監督」と語り危機感を強める。その言葉の背景、そして秋季東京都大会1回戦で敗れた新チームの現状を伺った。
早稲田実業戦で浮き彫りになった実戦力の低さ
山本将太郎コーチの指導を聞く修徳の選手たち
東京都葛飾区に学校を構える修徳。野球部は、埼玉県八潮市・中川沿いにあるグラウンドで日々活動を行っており、東京都のブロック予選の会場にも使用されている。また来年には新グラウンドも完成の予定で、ライトフェンスの横断幕にも掲げられた「集中・徹底・不動心」の言葉の下、2013年夏以来の甲子園出場を目指している。
「私は自分のことを0勝監督と呼んでいます。去年は夏、秋とベスト8に残っていますが、前監督の阿保先生の財産と生徒の力で勝たせていただいたと解釈しています」
そう語るのは、チームを率いて間もなく3年目を迎える荒井監督だ。
これまでコーチ・部長としてチームを支え、監督に就任して初めて迎えた2019年の夏は二松学舎大附を破りベスト8に進出。個性の強い選手たちをまとめ上げ、昨秋も当時1年生だった現2年生の主力選手の持ち味を引き出しベスト8に導くなど、周囲から見ればしっかりとチームを作り上げているように感じられた。
だが、荒井監督自身、このままではうまく行かないと感じていた。危惧していた通り、夏は都立小岩に1対2で惜敗し、初戦敗退。5年連続の夏のベスト8が途切れ、またこの秋はブロック予選を勝ち抜き都大会まで勝ち進むも、1回戦でこの秋8強の早稲田実業に2対9と力の差を見せつけられて大差で敗れた。
「今年はここまで箸にも棒にも掛からないレベルでやられてしまって。しっかりと考えなくてはいけない転換期にきていると感じました」
この2つの負けは自身の指導を根本から見つめ直すきっかけとなった。
シートバッティングの様子
まず大きく変更したのは秋季大会敗退後の11月の過ごし方だ。例年であれば、11月頃からオフシーズンを見据えたトレーニングメニューも多くなり、選手たちは体作りや体力作りに励むが、今年はあえて実戦練習を継続して行うことにした。
「早稲田実業戦では、『野球』で負けているなという印象でした。うちが目指しているのは状況を読んで、相手を見て戦う野球ですが、早稲田実業さんの方が一枚上手でまだまだやりきれていないところがあるなと感じました。
細かいプレーでできていない部分はたくさんありますし、11月いっぱいは練習試合もできます。今、ここですぐ冬の練習に入るよりも、継続して『野球の戦い方』をレベルアップさせることに注力していこうと考えました」
秋季東京都大会の早稲田実業戦を振り返ると、立ち上がりは決して本調子で無かった相手エース・田和廉に対し、単調な攻撃で助けてしまい、立ち直らせるきっかけを作ってしまった。
また田和の持ち味である「スライダーを捨てる」指示を出していたが、中軸打者がスライダーで空振り三振を喫し、さらに守備面でもミスが目立った。相手に流れを渡すプレーが所々で出てしまい、結果、ズルズルと相手のペースで試合は進んでいったのだ。
状況を読めていないが故に起こったミスを無くしていき、より野球力の高いチームを荒井監督は目指している。取材の伺った日の練習でも、ウォーミングアップが終わるといきなりランナーをつけたシートバッティングを行い、守備練習でもランナーをつけたゲーム形式のノックばかり。11月いっぱいは徹底して実践力を高めていくつもりだ。
(記事=栗崎 祐太朗)