Column

大阪の公立の雄・汎愛に入った「PL学園の血」。ソフトボールの塁間を用いるなど練習は工夫だらけ

2020.10.15

 長年、大阪の実力派公立校として親しまれている汎愛高校。
2016年の春季大阪府大会ではベスト4に進出し、2017年の選手権大阪府大会ではベスト8に進出を果たすなど、市立高校でありながら毎年上位進出を狙える力を持っている。

 そんな汎愛に、この春から新しい血が入った。
4月に赴任した加納岳監督は、府内で唯一のPL学園出身の監督で今年33歳の青年監督。

 工夫した練習と選手との柔軟な関係を作り上げ、準備期間も少ない中で今夏の大阪独自大会ではベスト16に進出した。
加納監督に、汎愛での最初の夏を振り返っていただき、新チームの現在地についても伺った。

赴任したばかりの監督をすぐに受け入れた3年生

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汎愛高校野球部を訪問!

 「学校に赴任したのは今年の4月で、 練習は6月15日から。それで1ヶ月後には大会という中で、選手たちはめっちゃ頑張ってくれましたし、ほんまに選手に助けられた大会だったと思います」

 この春に赴任した指導者にとって、今年の夏は一つの試練だったかもしれない。
 加納監督も例外ではなかった。

 短い期間の中で選手の名前、ポジション、特徴を覚え、大会臨める状態まで急ピッチでチームを作っていく。
 加納監督は一対一での面談やミーティングを繰り返す中で、選手の意向や気持ちを汲み取りながら方向性を決めてきた。

 その気持ちが通じたのか、選手たちも加納監督に歩み寄ろうと努め、その結果が夏の独自大会ベスト16という結果に結びついたと振り返る。

 「3年生にどんな練習をしていきたいか尋ねると、『先生の練習メニューをお願いします』と僕を受け入れてくれました。
 『こんな練習しようと思うけどどうする』と話を聞くと、全部やりたいですと言ってくれたので、これまでのやり方を残すところは残して、その中で少し色を出しながらやっていきました」

 その流れは新チームになった現在でも続いている。
 練習の意図や求めるものを伝えつつ、選手たちの意見にも耳を傾ける。いきなり色を出していくことはせずに、あくまで選手の意向を汲み取りながら練習を進める。

 夏の炎天下での練習にも関わらず、選手たちに悲壮感は全くない。
こうした小さな人心掌握術が、チームの士気を保っているのであろう。

[page_break:ソフトボールの塁間を用いた練習で握り替えの速さを培う]

ソフトボールの塁間を用いた練習で握り替えの速さを培う

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 新チーム始動後もこれまでのやり方をベースに練習を行ってきたが、最近ではその中でも少しずつ加納監督の色も出し始めてる。
 特にこの夏は新たな取り組みもスタートし、守備力の向上に力を注いでいいる。

 その中で最も特徴的と言えるのが、ソフトボールの距離での練習を行っていることだ。
 ソフトボール専門の辻本先生が顧問にいたことで、「何かソフトボールを野球に活かせるところないか」と考えた加納監督。

 そこで考えたのが、ソフトボールの塁間でのノックでランナーもつけ、捕球から一発で投げることを目的としてた練習だ。
 選手たちは狭い塁間の中で、捕球からスローイングまでのスピードを必死に上げようと努めている。

 「ソフトボールが活かせないかと辻本先生に相談したところ、一度やってみましょうと言ってくださったので、内野手を預けますと言ってスタートしました。
 僕も今すごく勉強になっていますね、毎回違うことやるので」

 握り替えの速さを培うメニューは他にもある。
 ソフトボールの距離での練習が終わると、選手たちは5人1組になり、1人の選手を要にして扇状の形に広がる。

 そして扇の要となっている選手に向かって、その他の4人の選手は順番にボールを投げ込んでいく。ボールは次々に投げ込まれるため、要の選手は必然的に握り替えの速さが求められる。
 この動作を端から順番に往復して1分を3セットこなし、また距離も5メートルから30メートルまでを5メール刻みに伸ばしていく。

 「扇のボール回しも、どんどん次が来るので速く持ち替えないと当たってしまいます。
 通常の塁間の距離になった時には、その一歩延長で一歩ステップ入れればボールを投げることができます。今はまだがむしゃらにこの練習をやっているので、どのタイミングで次の段階にいこうかなと今考えています」

 こうした練習を行う背景には、「何か工夫をしなければ」という加納監督の思いが背景にある。
 私学のように有望な選手を集めることはなく、入学してきた選手を手塩にかけて育てていくのが汎愛のスタイル。その中で強豪校と渡り合っていくため、導いた答えの一つがソフトボールの塁間距離を用いた練習方法だったのだ。

[page_break:秋季大会敗戦で浮き彫りになった実戦経験の無さ]

秋季大会敗戦で浮き彫りになった実戦経験の無さ

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 そんな汎愛の新チームだが、選抜甲子園を目指した秋季大阪府大会はブロック予選の4回戦で近大泉州に2対4で敗退。接戦をモノにできず悔しい負けとなった。

 加納監督は秋季大会を振り返り「自分たちの野球ができなかった」と悔しさを滲ませる。
 練習に向き合う姿勢も真面目で、府内でも勝ち上がっていけるだけの戦力はあるが、試合の中で実力を発揮することが出来ずに、大会序盤から苦戦が続いた。

 打撃面では単純な打撃力はあるが、投手との駆け引きや対応が徹底できておらず、また守備面では初戦の英真学園戦で6失策を記録するなど、一度ミスが出るとズルズルと引きずってしまう脆さを露呈した。

 「実践で力を発揮できずに、経験の無さが出てしまいました。ゲームの中で力を発揮できるようにすることと、野球を勉強しないといけないなと思いました」

 敗戦を経て加納監督は、選手たちと一度目標設定を見直した。
 選手たちはチーム課題、個人の課題を明確に把握出来ていないと感じた加納監督は、ミーティングでチームの改善点を話し合い、大谷翔平選手(ロサンゼルス・エンゼルス)が使用したという目標シートを活用。

 チームの目標と個人の目標を選手たちはそれぞれ記入し、そこへ向けた課題に取り組む意識を選手たちに植え付けた。

 「まだ1年あると思うか、1年しかないと思うかです。このままでは勝つのに1年以上かかるよと選手たちには言っています。
 今はまだ自信が無いところもあると思います。実践を経験する中で成長していければと思います」

 取材の中で見た選手たちは、真面目で練習にも素直な気持ちで取り組んでいる印象だった。
 地道に経験を積み重ねていけば、ベスト16に進出した前チーム以上の成績を残すこと十分に考えられる。
 これからどんな成長を見せるの注目だ。

(記事=栗崎 祐太朗

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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