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復権を狙う「前商」。強豪私学に触発された走塁改革で狙うは11年ぶり甲子園

2020.09.24

 群馬の高校野球といえば、長らく公立校が牽引してきた。甲子園準優勝2回経験ある桐生、さらに「タカタカ」と愛称で親しまれた高崎。そして前橋商も長く、群馬を牽引してきた公立校だ。
 2010年から前橋育英健大高崎の2強時代が長く続いたが、今年は1999年、群馬県勢甲子園初優勝の桐生第一も加わり、まさに戦国時代へと化した。

 その中にあって、前橋商は私学3強相手に健闘を見せている。
 昨夏は読売ジャイアンツの有望株である井上温大投手を擁して、決勝進出と甲子園まであと一歩のところまで迫り、今夏も準決勝進出と奮闘。私学勢にも引けを取らぬ実績を残している。

 だが前橋商が目指すのは、あくまで強豪私学を打ち破り甲子園出場を果たすことだ。打倒・私学への取り組みを追った。

打撃練習と連動した走塁練習で1点をもぎ取る意識を植え付ける

復権を狙う「前商」。強豪私学に触発された走塁改革で狙うは11年ぶり甲子園 | 高校野球ドットコム
滋賀学園の練習風景

 2019年3月に前橋市上佐鳥町に新グラウンドが完成し、新たなスタートを切った前橋商
 5人の投手が同時にピッチングができるブルペンは、住吉信篤監督たっての希望で作られたもので、投手力アップへの追い風になっている。
 水はけも良いこのグラウンドは環境面においても強豪私学に負けていない。

 近年は、甲子園でその名を大きく上げた前橋育英健大高崎、そして夏の群馬県独自大会を制した桐生第一に行く手を何度も阻まれてきたが、その一方でその3強に次ぐ存在として虎視眈々と聖地を狙っている。

 そしてその練習内容も、県内のライバル校を大きく意識したものだ。フリーバッティングでは、ただ気持ちよくバットを振るのではなく、3か所のゲージうち2か所はランナーを想定した打撃練習を行う。

 真ん中のゲージではランナー三塁を想定して、ゴロが転がった瞬間ランナーがスタートする「ゴロGO」を行うために、徹底してボールを転がす練習をする。

 そしてマウンドから向かって左側のゲージでは、ランナー二塁を想定して、相手のウイニングショットを捉えて得点を奪う練習を行っている。ここではマシンではなく、チームの投手が打撃投手として立ち、自らのウイニングショットをどんどん投げ込んでいくのだ。

 この打撃練習では、二塁と三塁にはランナーがついて走塁練習も兼ねており、三塁ランナーは「ゴロGO」の、二塁ランナーは1本でホームへ帰るための練習を繰り返し行っている。
 そしてこれは打撃練習の打球と連動しており、打球がホームへ返れるものでなければ帰塁や状況判断を行う。

 ホーム付近では、住吉監督が駆け抜けるタイムを毎回計測しており、選手たちは0コンマ1秒の戦いを日々繰り返す。中には、三塁からホームまでの距離で3.10秒を切ってくる選手もおり、こうした練習を続けることで選手たち走塁への意識、1点をもぎ取る意識を高めているのだ。

[page_break:機動力を強化したことによってもたされた打撃力向上]

機動力を強化したことによってもたされた打撃力向上

復権を狙う「前商」。強豪私学に触発された走塁改革で狙うは11年ぶり甲子園 | 高校野球ドットコム
滋賀学園の練習風景

 こうした走塁への意識を高める練習を行う背景には、県内のライバル校への対抗意識がある。
 住吉監督は、スモールベースボールが主流になった県内のトレンドを踏まえながら、高い走塁意識の重要性を力説する。

 「近年、群馬県は野球のレベルが上がってきましたが、その一つの要因が健大高崎の『機動破壊』です。それに対してどのように対応していくかを群馬県の指導者は考えて、その中で他の私学もどんどん力をつけてきました。
 その中で戦っていくためには、やはり走塁、そして走塁を想定したディフェンスが大事だなと感じました」

 こうした考えの下、攻守で走塁を意識した練習を行うことで、走塁力、走塁に対する守備力が向上したのはもちろんのこと、思わぬ副産物もついてきた。

 得点圏にランナーを置いたの打撃が、格段に良くなったのだ。
 「ランナーを得点圏に置くと、少なからずバッターはプレッシャーが懸かると思いますが、様々な攻撃ができることが余裕に繋がり、得点圏での打撃が良くなってきました。
 追い込まれてからも、ヒットだけでなく、ゴロや色んな形で点を取れることが自信になったのだと思います」

 走塁への意識を高く持ち、1点をもぎ取る野球を目指してきたが、結果として打撃力も向上。今夏の群馬県独自大会でも5試合で計35得点を記録し、チームとしても打撃力への自信を深めたのだった。

 現在開催中の秋季関東地区高校野球大会群馬県予選では、準々決勝まで進出しており27日に樹徳と対戦の予定だ。
 まずはこの秋、どこまで進むことができるか注目だ。

(記事=栗崎祐太朗

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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