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強い公立校を実現していく市立川越 新たな思いでスタートした新チーム【前編】

2020.09.03

 誰もが経験したことのない特別な夏を経験することになった2020年夏の高校野球。埼玉県で公立の雄として毎年好チームを作り上げていき浦和学院春日部共栄花咲徳栄聖望学園といった甲子園で実績のある私学の強豪校を脅かしてきた市立川越も、“特別な夏”は同じだった。

新たな思いでスタートした新チーム

強い公立校を実現していく市立川越 新たな思いでスタートした新チーム【前編】 | 高校野球ドットコム
道具を体の一部として扱うために一人一本バットを持ってアップを行う

 「今年は、たまたま3年生がちょうど20人でマネージャーが1人だったんだよね。だから、夏の甲子園が中止になって、埼玉県で独自大会をやるっていうことになった時に、夏は3年生だけで戦うということを宣言しちゃったんだよね。本当は、チームとしては、下級生(2年生)が何人か入っていて、それが刺激になってチーム力が上がっていくという形がいいんだけれども…。そうもいかない状況になっちゃったからね」

 新井清司監督のこの夏の埼玉県独自大会へ臨む思いだった。
 結果としては、3回戦で武蔵越生に敗退してしまった。当初の目論見としては、西部地区決勝、そしてあわよくば4強対決のメットライフドームでの戦いまで進みたかったというのは本音だが、そうもいかない状況だったという。

 また、7回制での戦いという点でも、「序盤でリードされて、早めに追いつけなかったら、5回過ぎたらもう終盤だもんねぇ。負けている方は、焦りますよ」
 結局そんな戦いで夏は敗れ去ることになったのだった。

 この夏は、オール3年生で戦わざるを得なかったということでの影響は、新チームをスタートした時にも多少なりともあったという。

 「毎年、秋の新チームっていうのは、何人かの夏の経験者を核にしてチームを作っていくんだけれども、今年はそれが誰もいないからねぇ。だから、チームとしての柱という価格ができていないんですよ。(多少のイメージは出来てはいるけれども)まったくゼロの状態ですよ。

 それに、チームそのもののスタートだって、(夏の独自大会開催が8月からということになったこともあって)例年に比べて遅くなっているからね。しかも、夏休みも短くなっていて2週間くらいしかなくて、もう25日からは二学期が始まりましたからね。

 チームとしての練習試合なんかも、県外のチームの遠征がままならない状態でもあるから、予定していた試合も中止になったりもしていますから、夏休み中には2~3試合しかやれていない状況ですよ。その上に、5月~6月での身体づくりも出来ていないからねぇ、どうしたってけが人も出てしまうし…。投手陣だって、大事なところで投げ込んで作っていっていないからね」

 そんな、新井監督の嘆き節は止まらない。

[page_break:「公立校としては恵まれている方ですから」打撃練習では投手陣フル活用でカウント設定]

「公立校としては恵まれている方」打撃練習では投手陣フル活用でカウント設定

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インタビューを受ける新井清司監督

 とはいえ、それでも現状の中で戦っていかなくてはいけないのはどこも同じである。
「まあ、それでもウチなんかは、公立校では野球部含めて部活環境としては恵まれている方ですからね。もっとも、私学の強豪に比べてしまったらなんだけれどもね(苦笑)。嘆いてばっかりじゃいけないよね。こういう中で何が出来るかということですよ」

 そうした試行錯誤の中で見出したのが、打撃練習でフリー打撃では「常に2―2のカウントという条件で、粘りながらフォアボールでもいいから、球筋を見極めること」を主眼とした、ちょっとユニークな打撃練習だ。

 「フォアボールを選ぶ練習って言っちゃあ変だけれども、要は追い込まれて高めのストレート、もしくは外へのスライダーといった誘い球にいかに手を出さないか、ということですよ。そういう選球眼を作っていくという練習ですね。
 結局追い込まれて、自信がないから釣り球を振らされて三振か引っ掛けての内野フライということになるんだよね。それを避けるだけで、だいぶ違うと思うし、(ファウルなどで)相手投手に球数投げさせるというのも今の野球では大事な戦術の一つになってきちゃったからね」

 そうした新井監督の考えで、フリー打撃は常に2-2で、ボール球2球選んだら、それでもOKという発想だ。「フツーにフリーバッティングやらせて、ただ打つだけじゃしょうがない」という考え方である。見逃しもしくは空振りでストライクとなったら、そこで打席交代。それを繰り返していき、1球に対する選球眼を磨いていくのだ。

 さらには、投手も常に何人かが待機していて、交代しながら投げていくという状況を設定している。このあたりは、ある程度投げられる駒を豊富に有している市立川越だからこそやれているというところもありそうだが、そうした層の厚さは「地域からは温かく支援されている」という背景もある。

 今回はここまで。後編では地域に根差した市立川越野球部の受け継がれる伝統について紹介していきます!後編もお楽しみに!

(取材=手束 仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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