Column

強豪私学とも渡り合う兵庫の公立進学校。長田に宿る「文武両道」を地で行く精神

2020.09.01

 2016年の選抜甲子園大会に21世紀枠として出場し、チームとして初めて甲子園の土を踏んだ兵庫県立長田高等学校。
 偏差値は70を超える県下屈指の進学校として名を馳せているが、近年は野球でも大いに存在感を見せている。

 2018年には橋本達弥投手(現慶應大)がドラフト候補として注目を浴び、昨年も秋季兵庫県大会でベスト4に進出。甲子園出場後も、好選手の輩出やチームとしての実績を積み上げ続けている。

 そんな「文武両道」を地で行くような長田高校野球部は、新チームが発足した現在も、先輩たちが残した伝統を必死に守ろうと日々奮闘している。

入学前から選手に宿る文武両道の理念

強豪私学とも渡り合う兵庫の公立進学校。長田に宿る「文武両道」を地で行く精神 | 高校野球ドットコム
大西健太郎主将

 「長田高校が21世紀枠で甲子園に出たのをテレビで見て、応援席が盛り上がる様子やプレーする姿が格好いいなと思いました。中学時代もずっと成績が足りませんでしたが、ずっと意識して勉強しました」

 長田の新チームの大西健太郎主将は、甲子園で堂々とプレーする長田の選手たちがずっと頭から離れず、大きな憧れを持っていたことを振り返る。

 大西主将だけではない。
 現在の選手の多くは、甲子園の舞台で輝いた進学校「NAGATA」のユニホーム、注目選手として躍動する大先輩の姿に憧れ、長田高校野球部の門を叩いた。

 文武両道で、野球も勉強も常に高いレベルを目指し続ける理念は、今となっては入学前から育まれているのだ。

 「進学校でもここまでできるんだ、強豪校相手にも戦えるんだというところを、やっぱりチーム作りの根幹に据えています。
 ただ、劣っているところもたくさんあるので、基本の部分だけは負けないようにして、強豪の学校と戦えるようなチーム作りをしたいと思っています」

 そう語るのは、母校を率いて今年で14年目を迎えた永井伸哉監督だ。部員のほとんどが軟式野球上がりで、中学時代に硬式野球を経験した選手はごく少数。当然ながらスポーツ推薦も一人もおらず、加えて帰宅後の勉強時間も確保する必要がある。

 1日2、3時間という限られた練習時間の中で効率的に上達するためには、基礎体力、基礎練習に絞って徹底してやり込むことが、強豪校と渡り合う秘訣なのだ。

[page_break:厳しい戦いを予想した新チームの実践力]

厳しい戦いを予想した新チームの実践力

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ミーティング中の長田の選手たち

 そんな長田高校は、夏の兵庫県独自大会ではブロック2回戦で強豪の育英を破るなど存在感を見せたが、5回戦で三田松聖に10対2で敗れてベスト16で夏を終えた(大会は5回戦までで打ち切り)。

 翌日の8月8日から新チームは始動したが、実力のある選手が多かった前チームと比べると、苦しい船出であったことを永井監督は明かす。

 「なかなか練習も積めていない中で、レギュラーはおろか、ベンチ入りを経験した選手もほとんどいない状況でした。厳しい戦いになるかなと感じていました」

 大西主将も同じであった。

 前チームは例年と比べて選手の体格も大きく、捕手の竜波駿平が兵庫県選抜に選ばれるなど軸となる選手もいた。経験も実力もあった先輩たちが一気に抜けて、当初は不安な中での練習が続いていた。

 「自分は、先輩たちに引っ張ってもらっていた立場でした。先輩たちのようにできるかふあんでした。体格の面でも僕たちの代はそんな(大きな)選手がいないので、守り勝つ野球を目指そうと思いました」

 その言葉からも不安な心境は伝わってくるが、いざ練習試合がスタートすると意外にもチームは機能して、永井監督が思っていた以上の勝率を残すことになる。
 選手たちの実践の強さには思わず永井監督も「思っていた以上だった」と口にし、チームとしての形も少しずつ見えてきたことを明かす。

 「試合のスコアや失点も悪くなく、予想以上のスタートが切れました。もちろん、まだまだ不安ことも多いので、あとその部分を詰めていきたいと思っています」

 実戦で結果を残せた要因の一つが投手陣だ。
 投手陣の中心である三木佑投手が、想定していた以上の投球をしたことで、試合が崩れることがなかったのだ。

 「決して良い訳ではない」と辛口の永井監督だが、主戦となる候補が見つかったことには安堵の表情を見せる。

 「まだまだ課題は多いです。それでも四球を多く出すとか、そういったことが無かったのは良かったです。仮のエースみたいなものですが」

 少しづつ、新チームの形が固まりつつある長田高校。
 迎えた秋季兵庫県大会では、ブロック予選の初戦で兵庫科学技術に8対5で勝利したが、代表決定戦の神戸学院大附との試合では、惜しくも3対4で惜敗。敗者復活戦へ回ったが、何とか勝ち上がり県大会にへの出場権をつかみ取った。

 これまで地道な選手育成によって実績を残してきただけに、今後の成長も楽しみなチームである。「文武両道」を地で行く選手たちの、伸びしろに注目だ。

(取材=栗崎 祐太朗)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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