Column

昨夏甲子園ベスト8から1年。どんな時でも「関東一野球」は生き続けている

2020.07.26

 昨夏甲子園ベスト8まで勝ち上がった関東一関東一といえば、抜け目のない走塁、状況判断が優れた守備。いわゆる試合巧者な野球で着実に勝利をつかむ野球だ。特に接戦の強さは定評がある。今年は新型コロナ感染拡大の影響で、長い自粛期間があったが、それでも今年の選手たちは限られた練習、対外試合の中で、「関東一野球」を実践しようと日々、練習に取り組んでいる。取材日の練習でもその意識の高さが垣間見えていた。

緻密な守備、接戦の強さは日々の練習から形作られる

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実戦形式の守備練習に取り組む関東一ナイン

 関東一の練習はとにかく緊張感が伝わる。
次のプレーを想定した声だし、キビキビとした身のこなし、丁寧なグラウンド整備、草むしり。グラウンドの1つ1つの所作を見ても強いチームということが分かる。

 取材日の練習では、実戦形式の練習が繰り返し行われていた。常に走者がいる状況で、打者は打席に立ち、マシン相手に打者は右、左に打ち分ける。この実戦練習を見ていくと、関東一の守備陣の動きの良さが分かる。たとえばランナー二塁の場面でバントを試みた時、エース左腕・今村拓哉が軽快にボールを処理し、封殺する場面が見られ、また内野手の併殺処理。外野手の動きを見ても肩の強さ、ボールを追うまでのスピード。すべてにおいて「レベルの高さが感じられる。

 この練習で見逃せないのは「次のプレー」を予測した連携や声があることだ。たとえば、走者二塁でヒット性の打球を転がったとき、バックホームに入ったとき、捕手はタッチして終わりではなく、打者走者をさすためにすかさず二塁、三塁へ投げる。また、次のプレーに移行できるために外野手もなるべく低い返球を心掛け、もしバックホームしても無理と判断したとき、関東一の捕手はすぐに送球に入る。こうした一連のプレーに、選手たちは「サード!ホーム!」など次のプレーを予測した声が飛び交う。

 関東一の主将であり、正捕手の渡辺 貴斗はこうした意識づけこそ大事だと語る。

 「やはり目の前のバックホームだけアウトにすることを目指すのではなくて、先の進塁を防ぐためにこうした声かけは関東一ではとても大事にしています」
 関東一の野球はミスを防ぐことはもちろんだが、ミスが起きた時にダメージを最小限に抑えるために常に先のプレーを見据えて、観察力を養う。

 

 常日頃から行うゲーム形式の練習から「関東一野球」は培われており、接戦に強いチームを作り上げているのだ。

 ただ関東一の選手たち、首脳陣によると、ようやく取り戻してきているレベルだという。新チームがスタートしたとき、堅い守備が光った前チームと比較してもミスが多く、センターの重政拓夢は「声、連携となる部分ができていなくて、それでフライを落としたりするミスがあった」と振り返るように、冬場では個人のトレーニングに明け暮れながら、実戦形式の練習で積み上げていった。しかし新型コロナ感染拡大の影響で、活動が自粛となり、全体練習が再開したのは6月ごろ。米澤監督によると、最初は連携や実戦感覚が遠ざかっておりミスも多かったという。

[page_break:「3年生で戦いたい」という思いで多くの3年生がレベルアップ]

「3年生で戦いたい」という思いで多くの3年生がレベルアップ

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関東一の練習風景

 ミスも多ければ、やはり数をこなして戻していきたいところだが、今年はそうもいかない。長い期間の自粛があったことで一番怖いのは体力不足によるケガである。
「やはり一番怖いのはケガで、それをさせないことに一番気を配っています。また暑さに耐えられるかというところもありますので、例年より少し練習の強度を落としていますね」
 ただ米澤監督をはじめとした首脳陣は選手の体力や状態には配慮しながらも、メンタル的なこと、取り組み面については厳しい視線を注いでいる。

 甲子園という大きな大会が中止になったことで、どうしてもスイッチが入っていない選手が見受けられたという。
「やはり目標というものがなくなると、ここまで成長が鈍るものなのかと実感しましたね。やはり甲子園がなくなっても、今回、優勝を争う独自大会があるわけですから、我々としては勝利を目指す姿勢は大事にしていきたいと思います。やはり意識高く取り組んでもらうために、発破をかけたりしてきました」

 そうした甲斐もあり、主将の渡辺は「夏が近づいているということもあり、少しずつ選手たちの気持ちも燃えてきています」と大会へ向けて気持ちが向かっている。

 また、今年の大会で話題になるのは3年生主体になるのか、1,2年生も入れて、実力主義に徹するかだ。もちろん主将・渡辺含め3年生は3年生全員で戦いたいと思っている。ただ3年生の姿勢を見ながら、米澤監督はぎりぎりまで見極めるという。
「やはり3年生の姿勢を見ながらですね。3年生たちに姿勢の面で甘えがあれば、やはりチームとして勝利を目指していくのでメンバー選考は実力主義でいくと」

 今年の関東一の2年生には昨夏甲子園を経験した大型右腕・市川 祐、レギュラーとして試合に出場した中距離打者・初谷 健心がいる。市川は速球が140キロを超えただけではなく、メンタル、コントロールもハイレベルな投手。さらに初谷は攻守の中心で、主将・渡辺も「打てて守れる初谷がいればチームに大きな勢いが乗りますので、かなりの戦力」と語るように、来年には投打の中心がすでにいるのだ。

 渡辺は「やはり3年生で戦いたいと思いますし、また下級生たちがベンチに入ることがあれば、今の3年生にしか分からない感情というのを一緒に戦いながら知ってほしいです。それを次のチームになって生かしてほしい」と今年の大会には特別な思いがある。

 今の3年生たちは昨秋の帝京戦の敗退から立ち上がったチームだった。特に懸念材料だった投手陣は取り組み面から改め、最速137キロ左腕・今村拓哉、チームでは最も威力あるストレートを投げる右腕・領家佑馬、大型右腕・石澤真樹、秋ベンチ外だったが、成長を見せている[stadium]菊地 レハン[/stadium]など粒ぞろい。

 また、打線では高校通算23本塁打の重政を中心に各打者が成長を見せている。その中で注目したいのが外野手・小野寺勇輝だ。亜細亜大で活躍する小野寺大輝(健大高崎出身)の弟で、兄と同じく俊足で、さらに2年秋まで投手を務めていたということもあって、かなりの強肩。取材日の練習でも大学生と思わせるような強肩を披露していた。ただ本人は今でも投手のこだわりが強く、全体練習後は投手陣とともに投手の守備練習に取り組むなど、練習を重ねていた。

 投打ともに役者がそろってきた。主将の渡辺はこう意気込んだ。
「1人1人がプレーするのではなく、チーム全体で戦うのがプレースタイルだと思うので全員で声援を送ったり、1つ1つのことに対し、全員が意識して、

またベンチに入っていない選手のためにも戦う。夏の大会では関東一の野球を発揮したいです」

 米澤監督は「これからも選手、チームが成長し続けることを期待したいです」と語るように、まだ夏の期間も伸び盛り。そして大会終盤で、「関東一野球」を最大限に発揮し、2年連続の東東京王者を目指す。

(取材=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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