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力強さとしなやかさを備えた選手を作り上げる常総学院の練習メソッド【前編】

2020.07.16

 2001年センバツ、2003年夏の甲子園優勝経験があり、その後も甲子園に何度も出場し、茨城きっての名門・常総学院。新型コロナウイルス感染拡大の影響による緊急事態宣言が全国に拡大されたことで、まとまった全体練習ができない日々が続いた。5月18日から全体練習が再開され、夏の独自大会に向けて調整する日々である。現在は強豪校との練習試合が続き、総仕上げに入っているが、ここに至るまで細部までこだわった練習内容があるといっても過言ではない。

 今回は常総学院の強さを知るべく練習を徹底潜入。着実に技量を高める常総学院の練習メソッドをお伝えしたい。

食育、故障を防ぐためのメニューにこだわる

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ハードルトレーニングの様子

 常総学院の選手といえば、強さの中にしなやかさを持ち、さらに野球の基礎がしっかりとした選手が多い。野手でいえば、攻守ともに高く、肩も強い選手が多い、投手は球速、変化球、コントロールだけではなく、フィールディングといった細かな技術力も高い。そんな選手たちはどう育て上げることができるのか。

 まず体づくりの面から沿って説明をしていきたい。常総学院は83人中、71人が寮通いで、朝食は学内の食堂でしっかりと摂る。現在は密にならないよう、学年別に分けながら、工夫をして朝食を食べている。

 必ず昼食は学内の食堂でバランスよく食べ、休日練習の時は女子マネージャーが手作りで丼もので食事を作る。練習日では牛丼をふるまっていたが、他にはカレー、五目ご飯など高校球児にはうれしいボリュームたっぷりのメニューを作成しており、常総学院の選手たちの体づくりを支えている。

 その中で大きく増量したのが、3年生の石川光。一冬で75キロから12キロ増量の87キロに成功。食事や睡眠時間を工夫したことが大きいようだ。

 そして7月5日の水戸葵陵との練習試合では決勝の満塁本塁打を放ち、パワーアップに成功。ダブルエースの一角・一條力真も184センチ67キロから189センチ82キロまでサイズアップしているように常総学院の選手はこの3年間で大きくパワーアップを遂げる。

 常総学院は見た目のサイズアップだけではなく、故障を防ぐためのメニューもこだわっている。朝9時から始まった取材日の練習では、種類豊富なランメニュー、肩甲骨の柔軟性、手首の柔軟性を鍛えるためにペットボトルを使ったトレーニング、全身をほぐすストレッチと、入念に行っている。

 佐々木監督は「実戦でどれだけパフォーマンスが出るのか大事なテーマだと思います。それと同じくらい怪我をしない体作りも大事だと思いますし、ストレッチ、インナーマッスルを鍛えるトレーニングも行います。野球部としては全体練習が5月18日からスタートしたのですが、どうしても日にちを重ねると、疲れが出てしまう時期があります。そこでなんとなく練習をするのではなく、ストレッチをすることで、きちっと丁寧に疲れを取る意味でやっています」

 その後、実戦練習に入り、シートノック、打撃練習が行われた。シートノックでは短い時間ながら、中継プレー、タッチプレーをきっちりと行う。特に3年生になるとその完成度の高さは素晴らしく、ほとんどミスがない。佐々木監督も「3年生の完成度は高いです」と評価する。さらにシートノックの横では投手ノック。いろいろな打球を転がし、投手はフィールディングを磨く。長身右腕・一條も入学当時、フィールディングが非常に苦手だったが、常総学院の3年間でノックを受け続けた結果、正面に転がった打球に対して、素早いターンで二塁に送球ができており、鍛錬の成果が伺えた。

[page_break:やらされる練習にさせないことが、選手の仕上がりをよくする]

やらされる練習にさせないことが、選手の仕上がりをよくする

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ティー打撃の様子

 そして打撃練習を見ていくと、3年生は木製バットで練習。ほとんどの選手が進学でプレーすることを臨んでおり、練習試合以外では木製バットで練習することが多いが、多くの選手が快音を響かせており、木製バットに対応している様子が見える。

 午後の練習ではトレーニングに入る。

 メディシンボール投げ、切り返しの練習、グラウンドでのインターバル走、器具を使ったトレーニングや、連ティー、捕球練習などハードなトレーニングを1分刻みのトレーニングが行われている。取材日だった6月の土日でもこの練習が行われていたのは、選手の要望によるものだったと佐々木監督は語る。

 「選手の要望として、自粛明けから体力が落ちているという声がほとんどだったんです。
やはり自主的に色々トレーニングをしていても、やはり制限がある中での練習ですから」

 聞くと、エースの菊地は取手シニアの仲間とグラウンドで実戦練習などあいまにトレーニングをしたが、グラウンドでスパイクを履いて、長い時間を練習する機会は少ない。自分のペースで練習ができていた自主練習と違って全体で緊張感を持って練習するのでは、疲労感が違って当然だ。

 例年、5、6月ならば、追い込み期間で、合宿、対外試合、早朝練習をするという常総学院。
「例年と同じことをやっていれば、怪我をするリスクも増えていきます」ということで、冬のトレーニングを取り入れながら、コンディションを取り戻す方式をとっている。

 ひたむきに取り組む選手たちを見て、「自粛期間が長く、どうしても気分が落ちてしまいますが、それでも選手たちはしっかりとこなしていますね」と選手の動きの良さと取り組みぶりを称えていた。

 また佐々木監督をはじめとした首脳陣は選手に余計な干渉はしない。エース・菊地は練習日で、投球練習を行わない日だったが、自分のペースでトレーニングを行っており、グラウンドで打撃練習を行っている最中で、サブグラウンドで切り返しのトレーニング、今、プロ野球選手の流行りであるジャベリックスローを行いながら、調整をしていた。菊地は「新任した島田コーチが投手の状態をヒアリングして、調整は任せてくれるので、非常にやりやすいです」と語る。

 こうしてグラウンド全体で細分なく使って、密度の濃い練習が終わったのは14時過ぎ。時間的に余裕があり、まだやれるという選手は自主練習に明け暮れていた。「やらされる、やらせる」のではなく、選手から自主的に「やる」。常総学院の練習内容、練習の進め方などは、非常に参考になるものがあるはず。

 常総学院は対外試合が再開してからほぼ土日で練習試合を行ったが、故障者を多く出さず、本番まで仕上げることができた。

 昨秋は県大会優勝した常総学院ナイン。最後は勝って終わりたいと語る常総学院の注目選手については後編で紹介をしていきたい。(後編を読む)

(取材=河嶋宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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