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激戦区・兵庫県の雄・市立西宮(兵庫)。3度の甲子園出場の歴史持つ、学業と両立するチームの強さの秘密

2020.03.17

 夏の甲子園での勝利数、そして優勝回数ともに全国3位の成績を誇っている兵庫県。全国でも屈指の激戦区には名門・報徳学園に、名将・狭間善徳監督がチームを率いている明石商。そして神戸国際大付などがひしめく地区で、春2回夏1回の甲子園出場経験を持つのが市立西宮

 公立校でありながら県内で存在感を示し、中日ドラゴンズでブレークが待たれる高卒2年目・山本拓実を輩出。昨秋は県大会でベスト8まで進出し、兵庫県の21世紀枠推薦校へ選出された。そんな市立西宮の強さの秘密を知るためにグラウンドへ向かった。

改革の根底にあったのはバスケットボール

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ティーバッティングをする市立西宮の選手たち

 グラウンドに到着すると、校庭の奥の方で野球部が練習をしている。手前ではサッカー部が練習をしており、校庭を他の部活動と共用で使っているのが市立西宮の現状。
 「センターではアメフト部とかも練習をしているので、普段使えるのは内野とレフトだけなんです」

 そう語るのは、市立西宮を率いる吉田俊介監督。チームに就任をされてから10年が経過した吉田監督は、決して恵まれているとは言えない環境の中で、選手たちをいかにして育成してきたのか。
 「最初は自身の経験してきたことを選手たちに伝えるのが早いので、それを伝えていきました。しかし、選手たちは自分ではないので、同じ練習でも感覚が違うんですよね」

 自分の経験を活かしたメニューでは選手たちがなかなか育たない。ではどうすればチームが育つのか。また、どうすれば自分の伝えたい技術を選手たちにわかってもらえるのか。選手たちを伸ばすため、試行錯誤をしている吉田監督の下に転機が訪れた。

 それはバスケットボールの練習を見ることだった。
 「全国大会にも監督として出場した経験を持つ人なんですが、面白い人なんです。バッティングとかノックってどこの学校でも同じだと思うんですが、『それって意味あるの。待ち時間も長いし、効率も悪い。そのプレーは試合に繋がるのか?』と言われたんです。正直答えるのに困ってしまい、バスケットボール部の練習を見に行きました」

 野球一筋だった吉田監督にとって、選手たちにやらせてきた練習は当たり前であって、普通なことだった。しかし、他競技の先生からの一言が吉田監督の心に響き、練習方法を変えることに繋がった。

 「できるだけ全員が動けるようにするのが、現在の理想ですね。アップの時でもバスケットからヒントをもらって、イメージを膨らませてエアーでノックを受ける動きを入れるようにすることで、想像した打球を捕る方法を考えるきっかけになると思っています」

 また練習できる時間は2時間程度と、場所だけではなく時間も限られている中で3学年60名ほど練習する市立西宮。すると全員で同じ練習するのは非効率だった。そこで吉田監督はグループに分けて入れ替えるようにすることで、少しでも多くの練習をできるように工夫した。

 「出来るだけ多くのボールに触れたり、打ったりする機会を増やす。また、自分が伝えたいことを選手たちにわかってもらうために、いろんな練習を経験させる。その上で、自分たちで考えさせるようにしています」

[page_break:強豪私学を超えるために必要な自分たちの野球を信じること]

強豪私学を超えるために必要な自分たちの野球を信じること

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吉田俊介監督

 監督に就任して2、3年はなかなか勝つことができなかった。しかし4年目から公式戦でも勝てるようになり、練習方法も含めて自信を持ち始めた吉田監督。

 だが、どうして考えて練習をすることを大事にさせているのか。それは、市立西宮は野球が強いだけではなく、進学校としても県内では有名な公立校であるところも関係している。

 実際に1年生の丸本拓弥も「全員が賢いですし、難しいことでも全員で教え合ったり助け合ったりしています」と選手間で考えながら練習をしていることを語る。

 市立西宮の部員の中には部活動終わりに塾に通う選手もいる。丸本は半日練習の日には最低1~2時間の勉強している。また平日でも同じくらい勉強に時間を費やすなど、丸本をはじめ文武両道を貫く選手が多くいる市立西宮。こうした日々の学習で培った理解力こそ、チームの武器になっているから考えて練習をするのだ。

 「選手たちは賢く理解力がありますので、それを活かすということで1つのプレーに反省点があれば、話し合いをする。ノックの前にもポジションごとに15分くらい話し合って、課題を消化させています」

 今年のチームは『限界突破』をテーマに掲げて練習を重ねてきた。豊富な投手陣を活かしつつ、粘り強い試合運びで兵庫県を勝ち抜いた。その中でポイントだったのが打撃だ。
 「守備はある程度計算ができましたので、去年のチームより打力は落ちました。そこでファールで粘ったり、逆方向に打ったり。シングルヒットで繋ぐ、野手の間を抜くバッティングをやらせていきました。いい方向に結果が出て良かったです」

 秋季県大会では報徳学園にコールドで負けたが、兵庫県の21世紀枠の推薦校に選出された。吉田監督はこの選出を受けて、「取り組み方、練習への意識が高まり、身が引き締まりました」と選手たちの変化を感じ取っていた。

 惜しくも近畿地区の21世紀枠推薦校には選ばれなかったが、夏に向けて気持ちを切り替えて高い意識をもって練習に打ち込んでいる。春の県大会は開催されるか不透明となっているが、市立西宮を引っ張るのは、兵庫県選抜のメンバーだった太田薫。そして元気の良さでチームを明るくする三浦泰正の2人だ。

 この2人を軸に強豪私学勢の壁を超えていく市立西宮。最後に私学の厚い壁を超えるために必要なことが何なのか。吉田監督に語ってもらった。
 「『自分たちも強いんだぞ』という気にさせるか。最後の最後で勝ち切るための自信を付けさせることができるか。自分たちの野球を信じられるかだと思います」

 相手に合わせて様々な戦い方を展開して勝つ、水のような試合運びを理想に掲げた吉田監督。試合の勝負所で自信を持つために、創意工夫を重ねていく市立西宮。考え、鍛え抜いた先に春夏合わせて4度目の甲子園が待っているのではないだろうか。

(取材=田中 裕毅

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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