脱坊主に週末合宿?!38年ぶりの甲子園を目指す、瀬田工(滋賀)の取り組みの狙い【前編】
1980年夏に滋賀県勢初の甲子園準決勝進出を果たした瀬田工。プロ野球の日本ハムと西武で活躍した西崎幸広を擁した1982年春以来は甲子園から遠ざかっているが、昨秋は8強入りして復活の気配を感じさせた。
エースで4番の小辻鷹仁(2年)はスリークォーターから最速146キロの速球を投げるプロ注目選手。彼以外にもポテンシャルの高い選手が多く、春以降の躍進を予感させる。
取材を進めていくとその強化策はとても興味深いものだった。
野球人口の減少に歯止めをかけるべく脱坊主
小椋和也監督
瀬田工は大津市に所在する県立の工業高校で機械科、電気科、化学工業科の3学科がある。滋賀県南部には大手企業の工場が多く、就職には非常に強い学校だ。野球部員も大半がパナソニックや日本精工といった一流企業に就職する。
野球部での活動を通じて人間性を磨いた卒業生の職場での評価はすこぶる高いようで、ある企業からは「今年も野球部から人材を送って下さい」と言われることがあるそうだ。主将の三原滉平(2年)や小辻も卒業後の就職を見据えて瀬田工への進学を決めている。
チームを率いるのは20年前に同校を卒業した小椋和也監督。西日本工業大を卒業した後に教員となり、2005年春には安曇川の部長として近畿大会準優勝を経験した。2014年に工業科の教諭として瀬田工に赴任し、翌年の夏の大会終了後に監督となった。母校に戻った時の印象をこう振り返る。
「ちょっとこぢんまりとした印象がありましたね。1学年10人前後と人数も少なかったです。ウチは軟式野球部もあるので、そっちに流れる生徒もいました。まずは人数を集めないといけないと思って、中学校を回りましたね」
積極的に勧誘を行ったことでそれ以降は各学年20人前後の部員を確保できるようになった。また、野球人口の減少に危機感を抱いていた小椋監督は一昨年の秋には丸刈りを廃止するという改革も行っている。
「坊主頭が嫌で高校野球をやらない子どもは少なくないので、野球人口の減少に歯止めをかけたいというので坊主頭を辞めたんです」
だが、丸刈りを辞めると伝えた時の選手たちの反応は思わしくなかった。当時の最上級生には「高校野球=丸刈り」というイメージがあり、「大会だけでも坊主頭で行かせてください」という声も出ていたという。
しかし、小椋監督はその意見を受け入れなかった。
「『ウチが先頭を切って坊主頭を辞めることで、野球人口の減少に歯止めをかけるぞ』ということで生徒には納得してもらいました。坊主頭にしなくてもいいからという理由でウチに流れてきているのは間違いないですね」
現在は丸刈り頭の選手は皆無。校則に従って、髪の毛を伸ばしている。選手たちには好評で、練習試合に行くと他校の選手から羨ましいと言われることもあるそうだ。
[page_break:強豪に負けない体を作るべく、週末は選抜13名で合宿生活]強豪に負けない体を作るべく、週末は選抜13名で合宿生活
集合する瀬田工ナイン
また、一昨年の冬からは週末に選抜メンバー13人を学校のセミナーハウスに宿泊させ、合宿生活を行うようになった。その理由は十分な食事と睡眠を摂らせて、強豪校に負けない体作りを行うためだ。
保護者の協力もあり、合宿メンバーの選手は1食で約3合のご飯を平らげる。さらに通学の時間を省くことで時間に余裕ができ、十分な睡眠時間を確保できるというメリットもある。
それに加え、共同生活をすることで選手同士のコミュニケーションをとることができる。「みんなといる時間が長くなったので、一人ひとりの性格や生活がわかって理解することができました」と三原は合宿生活を通じてチームメイトの理解をより深められたようだ。
小椋監督の理想としては選手全員を宿泊させたいと考えているが、セミナーハウスのキャパシティや食事を作る指導者、保護者の負担を考慮して人数を絞っているという。合宿生活を送る選抜メンバーにも入れ替えがあり、選手たちは日頃から競争を繰り広げている。
この合宿生活で成長を遂げたのが、チームの大黒柱である小辻だ。入学時の体重は65㎏で最速は122キロと際立つ存在ではなかったが、食事量が増えたことで今では体重が81キロまで増えた。それに比例して球速も伸びるようになり、昨年末には滋賀選抜のオーストラリア遠征で146キロを計測して、プロ注目の投手となった。
今回はここまで。次回は38年ぶりの甲子園出場に向け、突き進む瀬田工の現在地に迫ります。次回もお楽しみに!
(取材=馬場遼)
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