初芝立命館(大阪)が3位に入れたワケ。1つの事件と1人のコーチの存在がチームを強くした【後編】
前回に続いて、今回は新チーム結成時から近畿大会出場までの軌跡。そして今春以降の意気込みについて迫っていきます。
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昨秋大阪3位はL字に並んで練習する?初芝立命館(大阪)の強さの秘密に迫る!【前編】
大きな溝をキッカケに結束を強くした
トレーニングをする初芝立命館の選手たち
昨夏はベスト8で姿を消した初芝立命館。しかし「エースの森(瑠惟斗)が残っていたので、『彼を中心に守って、点数を積み重ねる。堅実的なチームになる』ことを考えていました」と当時の構想を語る楠本雄亮監督。
エースの森は新チームスタート時「先輩方が抜けて自分たちが引っ張る立場になったことで緊張や不安がありました」という中でスタートすると、チームは意外な方向に進んでいくことに。
「夏の疲れがあったのか、森の調子がいまいちでしたので、点数が獲られる展開になってしまったんです。けど、打線が思っていた以上に繋がってくれたので練習試合でも逆転できるので、負けなかったんです。 得点も失点も多いので、思っていた感じのチームではなかったですね」(楠本監督)
そんなチームに「本気で近畿大会に行く、絶対行くと思ってやろう」と言葉をかけて夏を過ごす。「取り組み方は甘かったですね」と楠本監督は感じながらも主将に毛利伽央主を指名して秋季大会へ向かった。
しかし、9月に入るとチーム内で最大の事件が起きた。それは練習を休止するという驚きの行動だった。
「組み合わせを見て、どこにピークを持ってくるか考えながら調整をしていたのですが、選手たちが惰性で練習をやっていたんです。それを見て『負けてもええわ』と思ってしまったんです。選手たちに対しても『本気でやっていない、近畿に行けないなら負けてもええやん。楽しくやれればええやん』って言って3日間は練習をやりませんでした」
初芝立命館で指揮を執る、楠本雄亮監督
大会期間中の非常事態。当時のことを坂元宏行は、「最初は選手間でも分かれていて、良い雰囲気ではなかったです」とチームの雰囲気があまり良くなかったことを語る。また、山上以頼も「大変な時期でした。あの時はみんなでミーティングをして、本気でぶつかり合いました」と振り返る。
チームがバラバラになったまま大会は進んでいき、4回戦の関大北陽の前に転機が訪れた。楠本監督が学校行事で3日間学校を離れる必要があり、チームが全く見られないタイミングで選手たちへ「本当に近畿に行きたかったら、帰ってきたときに別のチームになっとけ」と楠本監督は伝えた。
すると戻って楠本監督は「これだったら行けるかも」と思えるようなチームに生まれ変わっていた。
毛利主将は「練習ができないというミスをして、大会までの残り少ない日にちでどうするのか。1人1人が真剣になって取り組めたのが良かったんだと思います」と改めて心を1つにして大会を勝ち抜き、大阪3位入賞。新チームスタート時に立てた「近畿大会出場」を達成したのだ。
今まで以上に本気になって甲子園を狙う
打撃コーチとして初芝立命館を支える澤田コーチ
「秋勝って選抜に出場するしか、甲子園に行く方法はない」を合言葉にしてきた初芝立命館。紆余曲折ありながら、選抜の切符を残り2勝でほぼ確実のところまで来たが、初戦の智辯和歌山に3対8で敗戦。選抜への道は閉ざされることとなった。
しかし自信も掴んだ。智辯和歌山のエース・小林樹斗からホームランを放つなどの攻撃で3回ノックアウト。自慢の攻撃力が近畿でも通じた瞬間だ。
「伸びるストレートに対しての対策はOBの澤田コーチにちょっとしたことを教わって、調整をしていきました。ただ、智辯和歌山や大阪桐蔭レベルを倒すつもりで練習をしないといけないことを感じました」
その澤田コーチは8月からチームの打撃の指導に入った。
「大会中でしたので、しっかり振らせつつ個人的に注意点を伝えながら改善をしたくらいです。ただ振る力も弱く、踵重心になっていたり、バットが遠回りして出ていたり。またバットが体から離れる選手が多かったです。けど最終的には後ろを小さく、前を大きくしながら個性を活かせるように指導しました」
左から毛利伽央主、山上以頼、坂元宏行、森瑠惟斗
そして小林投手対策として、「バットの出し方を肩口からしっかり出して上から叩く」ようにして好投手攻略に繋げた。
澤田コーチの指導を小林投手からホームランを放った山上は「上から被せて打つことを教わったことで、一発撃てたので大きかったです」と話す。また坂元も「澤田コーチがいなければ打撃向上できず、近畿も届かなった」と振り返る。
だが智辯和歌山戦では2番手の矢田真那斗を攻略できなかった。澤田コーチは矢田投手と打線の相性を見てこう語った。
「ビデオを見てもコントロール良かったので、その通りにボールが来ると簡単には点数取れないかなと思っていました。けど、今後は対応できないといけないですね」
夏の甲子園へ。まずは春の大阪大会を勝ち抜いて勢いを付けたい初芝立命館。坂元選手は「春は近畿、夏は甲子園を目指してやっていきたい」と意気込みを語る。するとエースの森は「昨秋はエースでしたが信頼をしてもらえなかったので、この冬を春以降に繋げて夏は甲子園に行きます」と強い覚悟を示した。
また山上は「冬を残り超えて甲子園に出場ができればと思います」と語る。そして主将の毛利は「秋は3位でしたが、春以降に上に行けるわけではないので、体と心を冬に鍛えて夏の甲子園に行ければと思います」と意気込みを口にする。
チームを指揮する楠本監督は「足りないことが分かった秋でした。今まで以上に本気で甲子園を目指して練習に取り組んでいければと思います」とビジョンを明確に見据えた。限られた環境で勝ち抜くチームが聖地に辿り着くができるのか。楽しみに待ちたい。
(取材=田中 裕毅)
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