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各選手の思考力の高さが結果として現れる 星稜高校(石川)【後編】

2020.02.13

 3年連続選抜出場の星稜。前編では今年のチームに入ってからの軌跡を紹介した。後編では、選手の成長の秘密に迫った。

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代が変わっても強さを維持する星稜のチームマネジメントに迫る!【前編】

内山がチームの色を作った

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内山 壮真(星稜)

 1998年から星稜の指導者として赴任し、コーチ、部長、監督と20年以上も野球部にかかわってきた林和成監督も昔と今では選手の気質も変わってきたと語る。たとえば2007年選手権に出場したときは高木京介(巨人)、島内 宏明(東北楽天)の世代については、「我が凄い強い子が集まっていた」と振り返る。もちろん今のスタイルでは通用しないので、「厳しく接して、何度か真剣に怒ったこともあります」と語る。

 今の林監督の選手の接し方をみると、とても想像できないが、これまでの指導経験を振り返って、選手の気質、性格に合わせて指導をしなければならないと感じている。

「あの時の生徒たちの気質だからこそできた指導ともいえますし、1年1年、生徒たちの個性が変わると、チームのカラー、雰囲気も変わってきますし、そこにやっぱり合わせていかなければいけないと思います」

 選手の気質に気質に変化が出てきたのは北村 祥治(現・トヨタ自動車)が主将だった2011年頃からだ。

「非常に落ち着いたところ、性格的なところは今の内山(壮真)とよく似ていますね。やはりキャプテン、リーダーの人間性によって周りが感化されるようなところもありますし、惹きつけられるということもあります。やはりリーダーというのは大事ですよね。非常に負担のあるポジションだと思いますが、内山の場合、しっかりとチームを自分の色に染めていますね」

 また林監督は今の選手たちは昔に比べて思考力が高まったと評価する。
「各個人に課題を与えて、どうすれば解決できるのか、彼らたちはしっかり考えて導き出すことができる。
 それが結果として現れると言う事は思考力の高さは非常に大きいと考えています」

 特に近年はその傾向が高く、今年に関しては主将の内山が指導者の意図をくみ取って選手たちに伝える能力がたけているという。

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選手、指導者がしっかりと意思疎通しているから思考力が高い選手が生まれる

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伝統のトスバッティング

 また選手たちの取材を進めると、上達のために動画を見ながら、研究することは当たり前のように行う。エース・荻原吟哉は自分の投球の映像を見て振り返ったり、奥川恭伸、山岡泰輔の動画を見て投球フォームの理論を学び、また三塁手の知田爽汰森友哉のスイングを見て、打撃フォームに生かし、そして課題の三塁守備も、「捕球が苦手だったので、打球の見え方を少し変えたら、捕球も、送球もよくなった」と自ら気づいて上達を見せている。

 また、小学校時代にゴルフをしていた強打者の中田達也も自慢のフルスイングを磨くために吉田正尚(オリックス)、柳田(福岡ソフトバンク)のスイングを見て自分のものに取り入れており、また星稜伝統の押し手、引き手、両手の3種類のトスバッティングを取り入れ、星稜の打者にはないアッパー気味のスイングに進化。少ない出場機会ながら高校通算6本塁打をマークしている。林監督をはじめとした指導スタッフ陣はその姿勢を評価している。

「今はもうそんな時代ですね。やろうと思えばどんだけでもできると思いますし、我々がやっていた頃とは違いますからね。それだけうまくなりたいとか強くなりたい、勝ちたい思いが強く出ているからだと思います。
 特に甲子園決勝まで進んだ3年生は自分から考えて習得した選手が多かったので、後輩たちもその流れを引き継いでいると思います」

 

 林監督はそうした思考にできるように接し方も工夫をしている。
「もともと私は厳しく叱っていた時代もあり、それで指導者として失敗したこともありました。そういう経験から指導スタイルを変えないといけないと感じました。

 萎縮した状態を作りたくないので、生徒たちがやりやすい環境を作るというのは、指導者としての仕事の1つだと思っています。それでも彼らはまだまだ高校生なので、だらしなくなってしまうこともありますので、そういったところが見えたときにはきつく叱ることもあります。

 だけれどある程度のことには目をつぶることもありますし、そこのバランスというかあんまり一方通行にならないように生徒たちも自分たちの力でできるよう環境を創ることは考えています」

 今までは指導者、選手とのトップダウン。また我の強い選手を強く押さえつける時代もあった。今では意識と技量を兼ね備えた選手が多く入学していることもあり、指導内容はどんどんアップデートしているのだ。

 もちろん目指すのは全国制覇だ。
「昨夏、24年ぶりの決勝まで行かせていただきましたが、また近いうちに行けると思ってしまうと、また半世紀もかかってしまう。なので、決勝戦の雰囲気を味わっている彼ら(1、2年生)のうちに狙っていきたいんですよね。

 あの雰囲気は私の中でも今までとは違う雰囲気、景色がありました。まだ去年の3年生たちが甲子園で勝つにはどういうレベルに達すればいいのかを見せてくれて、それが財産になっています。それを一緒にプレーし、間近で見てきた選手たちだからこそ全国制覇を狙っていきたいと思います」

 1970年代から全国的な強豪へ成長した星稜。令和になってもいまだ甲子園制覇を狙える強豪であり続けるのは、現代の選手の気質に合わせて、指導法が変化しているからだろう。

 全国制覇を目指せるチームは、単に実力だけではない、勢いや機運も大事となる。自分たちのスタイルで全国で実績を上げた星稜の選手たちの表情は自信に満ち溢れている。またあと一歩で優勝を逃した悔しさも大きなエネルギーとなっている。

 林監督の言葉通り、全国制覇を狙うには今年のうちしかない。

(取材・河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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