鞍手(福岡) 18人の野球部が強豪に勝つために必要な3つの伝統【後編】
全国でも屈指の激戦区の1つである福岡県。そんな福岡県内で文武両道を貫き、甲子園を目指す公立校・鞍手。前編では鞍手を取り巻く環境から迫っていったが、後編ではチームの強さの秘密に迫った。
前編はこちら!
◆鞍手(福岡) 県内屈指の進学校を取り囲む壁、そしてカギを握る高い理解力【前編】
受け継いできたミーティング、そして粘りと繋ぎがチームの核
粘りの野球こそが鞍手野球部の伝統
選手たちが自発的に行うミーティングでチーム全体の意思を統一することで、短い練習時間でも効率を上げることができる。これが鞍手の1つの練習スタイルでもある。
短い時間をフルで活用するために甲斐監督が練習で大事にしているのは、実践練習に重きを置くことだ。
「反復練習をしている時間があまりなので、限られた時間の中で無駄のない練習をしないといけないので」
そういう甲斐監督は、取材日にゲームノックを実施。18人という少ない人数ではあるが、かなりのハイペースでノックを打っていく。これも練習時間の短さが関係しているかと思ったが、それは違っていた。
「ミスをしてしまう時や、上手くいかない時はテンポが悪いんです。かといってテンポを速くしすぎても空回りをしてしまうので、プラス思考で考えられるような『自分たちにとってのいいリズム』を理解することが大事です。そのために実践の中で経験を増やして、理解させたいんです」
鞍手らしい試合運び、戦い方を見つけるために、実践練習をこなしていく。こうやって少しずつチームを強化しているが、吉野輝彩副主将はこの練習について、
「ゆっくりやっていても私立みたいに練習時間が沢山あるわけではない。勉強もやらないといけないので、自分たちのにとってのいいリズムを大事にして練習しています」と語る。
しかし、ミーティングやリズムだけでは、強豪私立には勝てない。鞍手が大事にしている最後の1つが粘りと繋ぎだ。甲斐監督は、
「先輩たちが後輩たちにしっかりと繋いでくれているんですが、公立校は1人の力では勝てない。前のチームでも『とにかく粘りなさい、繋ぎなさい』と言ってきました。
この秋も真颯館と対戦し、初回に得点しましたが、すぐに取られて。それでも粘って追いついて延長に入って、最後は相手のエラーから畳みかけて点数を奪って逃げ切れました」
こうした粘りと繋ぎの野球がしっかりできれば、18人でも戦える。真面目な選手が多い伝統校・鞍手らしいスタイルだが、その陰には効率化を求めたミーティング同様、伝統の2文字が関係しているのだ。
鞍手が野球で筑豊を熱くする
筑豊地区を盛り上げる鞍手野球部の新たな歴史をつくりたい
とはいえチームは4回戦で敗退し、ブロックを突破できずに2019年の公式戦をすべて終えた。秋を振り返り、甲斐監督は、「チームが出来上がる前で試行錯誤をしている段階でしたが、実戦でのミスが多かった」と語る。
しかし大会を通じて「試合の進め方や考え方。単純に打つとか守る、走るではなく、繋ぐという部分がわかってきました。チームにまとまりが出てきて、チームや組織が成長したと思います」と鞍手らしさが徐々に出てきたことに手ごたえを感じている。
そして冬場は、「選手それぞれの体が出来ていないので、体づくりです。回数をこなしてそれぞれが力を付ける。個人の能力を開花、成長させて繋いでいけるようにしたい」と底上げをテーマにしている。
2年生同士のつながりを強めて、チームを引っ張ってきた村上恵一郎主将は「秋はバッティングが良かったですが、一冬超えると私立の投手は良くなるので、そういった投手を打てるようにしたい」とチームカラーになりつつあるバッティングの強化を課題に挙げた。
吉野副将は、「バッティングはこの調子でいけばさらに強化できそうですが、秋はエラーが多かったので、守備と投手が課題です」と弱点克服も挙げた。
たしかに、強みを伸ばすのも、弱点克服もどちらも重要だ。それに加えて、鞍手野球の伝統でもある「粘り」と「繋がり」を引き継ぎ続ければ、鞍手はさらに強いチームへと育っていけるはずだ。過疎化で寂しくなってきている筑豊地区を鞍手が野球で盛り上げる。そんな夏になることを心から楽しみにしたい。
(取材・編集部)