鞍手(福岡) 県内屈指の進学校を取り囲む壁、そしてカギを握る高い理解力【前編】
全国屈指の激戦区の1つである福岡県。今夏は春の選抜出場に続いて、筑陽学園が連続で甲子園に出場したが、1回戦で栃木代表・作新学院に敗れた。そして新チームとなった秋季大会では、福岡第一が優勝した。
他にも、私立勢では九州国際大付に東福岡、福岡大大濠、西日本短大付。公立では東筑に秋の大会4強入りの八幡南に宗像が昨今の福岡の高校野球をけん引しているが、今回は、そんな福岡県内で文武両道を貫き、甲子園を目指す公立校・鞍手のグラウンドへ足を運んだ。
野球人口が減少する厳しい現実
短い練習時間の中で野球も勉強も両立しながら取り組む鞍手野球部
2018年の福岡県の21世紀枠の推薦校に選出された鞍手は、筑豊地区にあたる福岡県直方市の山間に学校を構える。創立は100年を超える伝統校で、野球部は甲子園に出場経験がないが、文武両道のなかで日々の練習に打ち込んでいる。
学校の敷地内にグラウンドがあり、広さも十分確保された立派なグラウンドなのだが、現在の部員数は2学年で18名。人数は少し寂しいのが鞍手の現実である。
現在、鞍手の指揮を取る甲斐義啓監督は、「野球経験者でも、『鞍手では勉強をしたい』とか、『野球は中学までで良いです』という生徒も中にはいます」と少し苦笑いをしながら厳しい状況を語る。
この問題は鞍手だけではなく、筑豊地域全体が人口の過疎化の影響で野球部員も減っている、という社会問題の余波を受けてのものだ。
鞍手では「学校説明会の時に試合結果のチラシを配ったりしてアピールしていますが、少ない人数を取り合う形になっていますね」と現場の現状を語る。
選手はもちろん、保護者も一緒になって、チラシに書かれた結果を興味深く見てくれるそうだが、野球よりも、進学結果も重視する家庭のほうが多いという。そのため、鞍手野球部では、野球と勉強のこの2つの両立を求められているのだ。
そんな中で昨秋は県大会ベスト16入りし、21世紀枠の推薦校に選出。そして新チームも秋の大会はAブロックの4回戦まで勝ち抜いた。公立校であるため、長期休みでは当たり前のように課題が出て、日々の練習でも完全下校時間が19時と決められている。
人数も少なく、練習時間は2時間半と限りがある中で、結果を残す鞍手の強さの秘密はどこにあるのか。甲斐監督や、チームの中心選手にフォーカスしていくことで紐解いていきたい。
理解力の高さを生かしたミーティングがチームを支えてきた
自分たちで課題を持つことを大事にし、ミーティングを行う鞍手野球部
甲斐監督は今年で39歳になる。4年前に現在の鞍手高校に着任した。グラウンドで選手たちと日々練習をしているが、鞍手高校の第一印象をこう語る。
「理解力の高い生徒たちだと思いました。やっている練習を理解したうえで、考えて行動ができる。そういった意味では指導しやすいです」
これがチームに大きな利点となっている。
「ミーティングではいつも答えをこちらから言うことはないです。議題だけ出してあげれば、選手たちで話を進めながら考えてくれます。それで最低限、理解をしてもらっています」
ミーティングは、「自分たちで課題を持つこと」を新チームから大切にしてきた。チーム全体はもちろん、ポジションや学年ごとなど小さなミーティングも頻繁に行うようにしてきた。
そこで配球であったり、走塁であったり技術的な部分を話し合うこともあれば、練習方法も話し合う。ただミーティングをするのではなく、しっかり意見を出し合うことを甲斐監督は大事にしている。
「1人がずっと話すんじゃなくて、学年関係なく意見を出し合うようにさせています。僕は外から見て、話が逸れたら修正をしています」
副主将の吉野輝彩は、鞍手のミーティングについて、「監督からも『自分たちでやれ』って話が出ます。そこで『わからないことがあれば聞け』とか『間違っていたら言うから』といってもらえているので、伸び伸びミーティングをしています」と語る。
そしてミーティングで、最も注目すべくは選手間で自主的にできるという伝統にある。
「上級生が下級生たちに代々伝えていくんです。『時間がない中で効率的に練習をやらないといけない』と選手たちが言っています。
短い時間でいかに効果の高い練習ができるのか。もしダメなら選手同士で話し合って考えています」
現在のチームの主将である村上恵一郎も、「先輩方は元気がない時や集中できない時に集まることが多かったです。それで意識を変えることで効率を上げていたので見習っています」とコメントを残している。
こうした先輩たちから受け継いできた鞍手の姿勢がチームを1つにして、大会でも勝ちあがる1つの要因となっているのだ。
前編はここまで。後編もお楽しみに!