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履正社 悲願の初優勝までの軌跡 好投手に苦しめられた苦節の春【前編】

2019.11.01

 夏の甲子園で悲願の初優勝を成し遂げた履正社関本勇輔(2年)が主将となりスタートした新チームでも順調に勝ち進み、来春のセンバツ出場をほぼ確実にした。昨夏の大阪桐蔭戦や今春の星稜戦からどのように成長して、全国制覇を掴んだのか、そして新チームの現状について迫る。

大会ナンバーワン投手に屈した選抜

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履正社・岡田龍生監督

 昨夏の大阪大会準決勝では1点リードの9回表、二死走者なしから逆転負けを喫している。この試合でスタメン出場していた野口海音(3年)が主将、井上広大(3年)と桃谷惟吹(3年)が副主将となり、全国制覇を目指して新チームが始動した。

 前チームからの経験者が数人残っていた履正社に対して、ライバルの大阪桐蔭は3年生主体のチームで春夏連覇を成し遂げていた。そのこともあり、この代は履正社優勢という前評判が立っていたが、岡田龍生監督は「全然、見通しは立っていなかったです。打つ力もそこまでの評価はしていなかったですね」と新チーム結成当時を振り返る。

 夏の甲子園では強打が光ったが、秋は打撃面で苦労した。それでも清水大成(3年)や植木佑斗(3年)といった投手陣の奮闘があり、秋の大阪大会を制した。

 近畿大会では準々決勝の福知山成美戦で清水が3安打無四球完封。「3年間で一番のベストピッチングだった」と岡田監督も絶賛する投球でセンバツ出場を大きく手繰り寄せた。

 選手たちにとっては初の甲子園となった今年のセンバツ。1回戦では奥川恭伸(3年)を擁する星稜と対戦したが、0対3の完封負け。大会ナンバーワン投手を相手に「手も足も出ずでした」(岡田監督)というほどの惨敗だった。

 優勝を目指していただけに大会初日で姿を消すことに対する悔しさは強かった。その一方で春に奥川と対戦できたのが、後にプラスになったことは間違いない。

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選手自ら考えさせる指導

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履正社 打撃練習の様子

 夏に向けては「奥川君を打たないと勝てない」(岡田監督)と奥川クラスの投手を打ち崩すために練習を重ねてきた。しかし、岡田監督はどのようにして対応する力をつけさせるかは選手自身に任せていたという。

「僕が言うのではなくて、自分で考えてやれたから対応できたと思います。だから生徒にも聞いてもらったらそれなりに課題を持ってやったのではないですかね。僕らに依存しているわけでなく、自分たちで何とか工夫してやろうという感じでした」

 岡田監督は選手の自主性を尊重する指導者と言われている。T-岡田(オリックス)や山田哲人(ヤクルト)ら多くのプロ野球選手を送り出し、今年も井上が阪神からドラフト2位で指名された。有名選手が育つ理由も高校時代から選手に自ら考えさせるようにしているからだと岡田監督は力説する。

「選手が育つためのトレーニングや練習ができる環境はあるけど、やるかやらないかは結局、本人次第です。プロは競争が激しいし、みんなが『ああしろ、こうしろ』とは言わないわけです。試合に出られるか出られないかで給料が違う世界に行くわけですからね」

 選手に考えさせるという指導は打撃強化についても例外ではなかった。打撃の課題は選手それぞれによって違う。その中で自ら工夫して練習に取り組んだ結果が夏に表れたのだ。

 例えば、4番の井上はボールを捉える位置を以前より体の近くにして、ボールを長く見られるように工夫をしていた。それにより、ボールになる低めの変化球に手を出さないようになった。実際に夏の甲子園では追い込まれてから際どいボール球を見極める場面が各打者に見られた。奥川に抑え込まれてからチームは着実に成長していた。

 こうして夏に向けて力をつけていく中で、春の大阪大会は準々決勝で大商大高に2対3で敗戦。好投手の上田大河(3年)を打ち崩すことができなかった。甲子園で勝つことを目標にしながら、大阪を勝ち抜くことの難しさを改めて実感した。岡田監督は春に勝つことが夏に繋がると考えていただけに危機感も感じていたという。

「心配はしてないですけど、より一層、自分たちの現状を見つめ直す機会では良かったと思います。ただ、春で勝たないと最近は夏に結びつかないと思っているので、あの春に上田君に抑えられたのは夏に向けてどうかなと僕は思いましたね。よくあそこまで盛り返したなと思います」

 前編はここまで。後編では夏を制した要因やこれからの目標について聞いた。

(取材・馬場 遼

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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