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リベンジを果たさないと、高校野球は終われない 花咲徳栄女子硬式野球部【後編】

2019.07.28

 第99回全国高校野球選手権大会で見事全国制覇を果たした花咲徳栄高校。その瞬間を、学校のパブリックビューイングで見守っていた同校の女子硬式野球部の選手たちが感じたことだ。誰もが、そう心に思いながらの練習が始まった。そうして今年、当時1年生だった選手たちが迎える最後の夏がやってきた。女子高校野球の歴史はまだまだ浅いが、彼女たちの野球への思いは熱い。そんな花咲徳栄女子硬式野球部を訪ねた。

夢と目標は大きく、目指すは男女そろっての日本一 花咲徳栄高校女子硬式野球部【前編】

最後の夢はみんなで日本一

リベンジを果たさないと、高校野球は終われない 花咲徳栄女子硬式野球部【後編】 | 高校野球ドットコム
花咲徳栄・前田侑里さん

 茨城県の土浦市から約2時間をかけて通学しているという前田侑里さんは捕手で副主将としてチームを引っ張る存在だ。

 小さい頃に、いつも通る道で野球をやっているのを見て、自分も野球をやってみたいというのが始めた切っ掛けだというが、その後はクラブチームに入団し男子とともにプレーしていた。中学に進んでからは、前田さんと同様に中学野球部と女子だけのクラブチームとの二足草鞋を経験し、ポジションも内野手をやったり捕手をやったりということだった。

 そして、高校進学の際には、「いくつかの体験入部を経験してみて、一番自分に雰囲気があっている」ということで、少し通学距離はあったが花咲徳栄を選択した。そして、実際に入学してみてからも、「明るくて、和気藹々としているけれども、しっかりとけじめは出来ている」というチームの雰囲気が好きだという。

 中学時代は内野手と捕手とをやっていた。高校では現在は捕手として頑張っているが、「自分で試合を動かせるので、やりがいがある」と、捕手というポジションに野球の面白さを見出している。

 そして、卒業後に関しても、前田さん同様に、「大学のチームかクラブチームになるのかはわからないけれども、野球は続けていきたい」という思いだ。

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花咲徳栄投手陣、左から出路明日香、吉岡美咲、片野坂梨音

 3人の投手にも話を聞いてみた。

 3年生でエースとしてチームを引っ張る片野坂梨音(かたのさか りね)さんは、祖父が監督をやっていたという少年野球チームに誘われて小学校3年から参加したことが野球との出合った切っ掛けだった。小学生の時は投手と三塁手だったが、その後中学へ進んでそのまま中学の野球部に入部して投手を中心としながら、他のポジションもこなすという選手だったという。

「小中学校の時は男子の中に交じってやっていたのだけれども、高校に入って初めて女子だけのチームという形で最初は少し戸惑いというか、女子同士の独特の悩みみたいなのもありました。だけど、今は最後の夏に向けて悔いの内容にやっていきたい」

 その思いは強い。特に、春は2年生ばかりの新しいチームに敗れたということもあって、その悔しさは一入だ。

「やっぱり、リベンジを果たさなくては(高校野球を)終われません。そのためには、その相手と当るまでは負けるわけにはいかないんです」

 しなやかなオーバーハンドで、流れるようなフォームは、日々の練習でさらに精度を上げていっている。チームの柱として「頼れるエース」となっていくためにも、努力は怠らない。

「まずは、高校でやり切って、その先のことは、その後に考えたい」と言うが、「何らかの形でスポーツとは関わっていきたい」という将来も見据えている。

 2年生の吉岡美咲さんは、「姉が野球をやっていて、小学校1年の時に、その練習についていったのが切っ掛けで、いつの間にか始めていた」という。

 そんな野球だが、「アニメなどを見ているうちに、カッコいいなぁと思うようになって、本格的に始めていきたいと思った」という。そして、中学ではやっていたのだが、花咲徳栄へは実は当初はマネージャーとして入部している。

「中学の時に、正直、あんまり楽しいと思ったことがなかったので…。だけど、中学3年の時に花咲徳栄が甲子園で全国制覇して、ここに入りたいと思いました。そして、1年生の大会の後に、やはり選手としてやらせてもらいたいということを阿部先生にもお願いして、それで選手という形になりました」

 そんな経緯で現在は投手を務めている吉岡さんだが、「最後の夢は、みんなで日本一です」ときっぱりと言い切る。

 出路明日香(でじ あすか)さんは、「小学校1年の時に、何かスポーツを始めたいと思っていた時に、体験クラブチームで野球を経験して、面白いなと思ったので始めた」というのが切っ掛けだった。

 そして、中学では花咲徳栄のグラウンドを借りて練習することもあるという地元のクラブチームに所属していた。そんなこともあって、自然な形で花咲徳栄を選択した。たまたま、中学3年の時に花咲徳栄の全国制覇を見たということもあり、「身近にすごい選手がいるのは、とても刺激になるし楽しみ」という思いでもあった。

 投手としては、「今年のチームで優勝したいというのが今の目標」と言う。そして、自分自身に関しては、「将来的にはJAPANに選ばれるような選手になっていきたい。そのためには、自分のいいところは伸ばしていきながら、上の投手に追いついていかれるように頑張りたい」と、高い意識で前を向いている。

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歴史の浅い女子野球について

リベンジを果たさないと、高校野球は終われない 花咲徳栄女子硬式野球部【後編】 | 高校野球ドットコム
女子高校野球への思いを語る、阿部監督

リベンジを果たさないと、高校野球は終われない 花咲徳栄女子硬式野球部【後編】 | 高校野球ドットコム編集後記

 日本高校野球連盟の管轄下ではない女子高校野球である。それだけに、高校野球のような様々な規定や縛りはない。女子野球全体が以前に比べたら格段に普及してきたということもあって、最近では“女子硬式野球専用”というバットなども出てきている。

 基本的には、重さや長さなどは中学硬式用に近いのだが、ピンクやライトパープルだったりという、見た目も華やかな感じのものになっている。「バットやバッティンググローブから、ポシェットまで全部ピンクで統一している子もいますよ」などと、明るく語っていた。

 とはいえ、かなり普及してきたとはいえまだまだ歴史の浅い女子高校野球である。全国でも女子野球部のある学校は限られている。それだけに、受け入れ側としては、希望する生徒は積極的に受け入れられるように対応していきたいという姿勢である。

 阿部監督も、「長年関わっていますと、やはり思いはどんどん強くなっていきます。もっと普及して欲しいという気持ちもあります。その一方で、野球をやってきた子たちのその後のことも考えてあげなくてはいけません。そうした受け皿も、もっと充実していってほしいし、そうさせていかなくてはいけません」

 まだまだ船出したばかりの女子野球である。

 指導者たちも試行錯誤しながら、それでももっと華やかなものにしていこう、もっと夢のあるものにしていこうという思いは強く感じられた。そして、選手たちは、男子の高校野球に負けないだけの熱い思いとこだわりと、ほとばしる情熱を持っている。そこには、間違いなく、教室だけでは学べない、青春のもう一つの素晴らしさを実感することもできるはずだ。

(取材・手束 仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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