「私たちも続かなくては」男子の全国制覇を見届け、固めた決意 花咲徳栄高校女子硬式野球部【前編】
「私たちも、それに続かなくては」
第99回全国高校野球選手権大会で見事全国制覇を果たした花咲徳栄高校。その瞬間を、学校のパブリックビューイングで見守っていた同校の女子硬式野球部の選手たちが感じたことだ。誰もが、そう心に思いながらの練習が始まった。そうして今年、当時1年生だった選手たちが迎える最後の夏がやってきた。女子高校野球の歴史はまだまだ浅いが、彼女たちの野球への思いは熱い。そんな花咲徳栄女子硬式野球部を訪ねた。
一部活、一施設の恵まれた環境
ピッチング練習をする吉岡美咲さん
埼玉県を中心として一大学園を築いている佐藤栄学園(さとえがくえん)。グループとしては、幾多のオリンピック選手などを輩出している埼玉栄はじめ、近年進学校としての実績も著しい栄東に栄北、その上には関甲新学生野球連盟の中核として活躍している平成国際大もある。また、北海道にも甲子園出場実績もある北海道栄を有している。
東武伊勢崎線の花崎駅から徒歩10分くらいのところに位置する花咲徳栄は、「一部活、一施設」ということをモットーとしている。だから、各部とも環境には恵まれているといえる。駅から学校へ向かっていくと、まずは広大な佐藤照子メモリアルスタジアムと称されている先代理事長の名を冠したグラウンドが目に入ってくる。そして、そのスタジアムを左手に見ながらさらに歩いていくと、花咲徳栄の校門にたどり着く。
校門をくぐるとすぐに全国でも上位と言われている女子ソフトボール部の元気のいい掛け声が聞こえてくる。そのグラウンドを通り過ぎると「徳栄ドーム」と称する野球部の雨天練習場がある。そして、その向こうに、2017年夏に全国制覇を果たした野球部専用グラウンドがあるが、女子硬式野球部のグラウンドはその左翼後方、つまり徳栄ドームに隣接した形で設けられている。
男子のそれに比べると広さもないし、いささか見劣りすることは否めないが、それでも校舎のあるキャンパスに専用グラウンドを有しているというだけでも、恵まれた環境と言っていいであろう。そこへ向かう間にも、すれ違った生徒たちが「こんにちは」と、歯切れよく挨拶の声をかけてくれる。そんな雰囲気も心地いいと思えるものだ。
女子野球部専用球場では3年生26人とマネージャー2人、2年生13人、1年生8人とマネージャー2人という、合わせて51人の女子野球部員が練習に励んでいる。
部員数が、学年で減少しているようだが、そのあたりに関して、女子野球部の創成期から指導している阿部清一監督は、「一つは3年生が多かったということで、野球をやりたいという女子生徒が、他へ流れたということがあったと思います。それに、ここへきて女子野球部を有するところが、全国的にも増えてきていますから、野球をやりたい女子生徒にとって選択肢が増えたということもあるのではないでしょうか」と分析していた。
花咲徳栄としては、女子プロ野球の寺部歩美捕手(愛知フローラ主将)など、多くの女子プロ野球選手を輩出している。埼玉アストライヤの大山唯監督も地元の尚美学園大を経ているが花咲徳栄出身である。また、ヴィーナスリーグ1部所属のアサヒトラスト女子硬式野球部の姫野真由、落合彩伽などもいる。
女子高校野球部を有する学校は、女子高校野球がスタートした2000年当初、鹿児島県の神村学園と東京都の蒲田女子と駒沢学園女子、そして埼玉県の埼玉栄と花咲徳栄の5校しか存在していなかった。そんな時代が久しく続いていたが、約20年を経て毎年のように創部する学校が増えてきて全国で30校を超えるようになってきた。
高校で野球をやりたいという女子生徒たちは、そうした中で、学校のある場所を考慮したり体験入部などを経て学校を選んで入学してくるという。女子高校野球の老舗でもある花咲徳栄だけに、たまたま今年は新入生が少なかったとはいえ、野球をやれる環境を求めて全国から志望してくる生徒は少なくない。
学校としては、特待生枠などを設けているわけではないので、あくまでも入学してきた生徒たちでチームを作っていくという方針だ。しかし、遠隔地の生徒たちを迎え入れる態勢は整えられている。現在も、北は青森や秋田から野球環境を求めて入学してきたという生徒が頑張っている。
男子野球部の活躍が刺激に
陽が落ちるまで練習は続けられる
現在、チームの主将を務める斎藤玲さんも秋田県の由利本荘市出身で、本荘南中時代は野球部に所属していた。卒業後も野球を継続したという思いで全国から探して花咲徳栄に入学した。
父親が本荘時代に甲子園出場も果たしており、兄も本荘で野球をやっていたという野球一家で育っている。それだけに、「自分も高校で野球を続けたい」という思いは強かった。そして、選んだのが環境も恵まれている花咲徳栄だった。
入学した年には隣で練習している野球部が全国制覇。
「もちろん、刺激になりました。私たちも、もっと頑張らなくては…。一生懸命やろうと思いました」
と、その思いを語っている。そうして主将として迎えた3年生の夏である。
「最初は、私に主将なんて無理だと思っていたのですけれども、みんなが協力してくれました。それまでは自分のことだけで精いっぱいだったのに、最近は周囲を見ながら、自分も成長出来ているのだなと感じることがあります」
主将としては、日々の練習では五十嵐眞石(しんじ)コーチに相談しながら、練習メニューを進めていっている。
また、高校生としての自分自身に関しては、こう言っている。
「寮生活を含めて、独りで生活していくことで自立する気持ちが出来たと思います」
花咲徳栄女子野球部での生活に充実感を感じている。将来に関しても、「子どもが好きなんで、保育士とか、そういう道には進みたいけれども、大学に進学してもどこかで野球が出来ればいい」と語ってくれた。その瞳はキラキラと輝いていた。
小学校2年生の時に、親戚の影響で兄と一緒に野球を始めて、以来野球の面白さにハマっていったという小櫃莉央(おびつ りお)さんは、中学時代には学校の野球部で男子生徒と一緒にプレーするとともに、女子のクラブチームにも所属していた。そして、高校でも野球が続けられるところということで花咲徳栄に進学した。
「女子野球部のある学校の、いろいろな体験入部にも行ったんですけれども、その中から、一番雰囲気が良くて、自分に合うのかなと思ったので選んだのが花咲徳栄でした。実際に入部してみて、チーム全体で明るいし、学年を越えて仲がいいので、今は、楽しくてしょうがないです」
野球のことを話すのが嬉しくて仕方ないという表情だった。
前編はここまで!後編では、守りの要、捕手の前田侑里さん、エースを争う3人に話を伺いました。
【後編を読む】リベンジを果たさないと、高校野球は終われない 花咲徳栄女子硬式野球部【後編】
(取材・手束 仁)
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