「甲子園は毎年行かなければならない」を実現するために夏連覇に挑む 益田東【後編】
県内では2011年の開星が達成して以来の夏連覇に挑む益田東。そのためにどのような取り組みを行っているのか。益田東の練習を覗いてみた。
前編はこちら!
野球部は大きなファミリー!母校を率いる指揮官の熱い思い 益田東(島根)【前編】
“行かなくてもいい場所”から“行かなければならない場所”に
学校からグラウンドへと続く急勾配の坂。「甲子園坂」の愛称で親しまれる
「格好つけた言い方になってしまいますが、『今のまま甲子園に行ってはならない』という気持ちがあったのかもしれません」
就任以降、甲子園に近づきながらも届かなかった時期の心境を、こう表現した大庭監督。そして、こう続けた。
「極端な話、『甲子園に行かなくてもいい』と思っていたんです。高校野球で一番大切なのは、『ここに来てよかった。お父ちゃん、お母ちゃんありがとう!』という思いを持って引退することだと思っています。そう思ってもらえるように指導すること、感謝の思いを持てる人間を育てていくこと。それの妨げになるくらいなら、甲子園に出なくても構わないと本気で思っていたんです」
決して強がりではなく、「人間力を育てることが、甲子園出場の一番の近道」という信念もあった。しかし、昨年聖地を踏みしめたことで、その考えを改めたという。
「昨年出場させていただいて、『甲子園は出ないといけない場所だ』と実感しました。あれだけ選手たちが輝いて、成長できる場所、応援してくださる方々、学校関係者を含めて、みんなの心をひとつにする場所は他にありません。『甲子園に出なくてもいい』は出てから言わないといけなかったな…と反省しています(苦笑)。技術よりも“人”を育てていく、という方針は変わりませんが、その先で甲子園出場を目指していく。それも時々ではなく、毎年本気で狙っていく。そうするべきだと考えが変わりました」
「来てよかった」と思ってもらえる野球部に
打撃練習をする選手たち(益田東)
冒頭でも紹介したように、ここ数年は部員100人越えがコンスタントに続いている益田東。今年も3学年で総勢126名の部員が、日々汗を流している。ともすれば、レギュラー陣と控えのメンバーの溝が広がっていてもおかしくない人数だが、練習中の和気藹々とした雰囲気や誰ひとりとして腐らず、ひたむきに練習に打ち込んでいる姿が印象的だ。
「場所や時間を工夫して、選手全員が平等に練習できるように、というのは常に考えています。ベンチ入りメンバーに絞っての練習に切り替えるのも、大会が迫ったタイミングだけ。それも、かなりギリギリまで通常練習の形を続けます。彼らは『益田東で野球がしたい』と入学してきてくれているので、その思いを可能な限り尊重していきたいですし、最後の最後までレギュラー、ベンチ入りを目指して競争させていきたいんです」
現在は選手を4グループに分けて、練習を行っている。かつては、1軍、2軍といった呼び方をしていたが、現在はベンチ入りメンバーのグループを「ヤンキース」、控え相当の3グループをプロ野球のチーム名に変えて、班分けをしている。この意図を大庭監督が語る。
「1軍、2軍などの呼び方では無機質かな、と思っていました。それと、以前は4軍の選手が1軍に上がろうと思うと、『4軍から3軍、3軍から2軍…』といったように段階を踏まなければならなかったんです。そのルールを廃止して、間を飛ばして1番上のグループに上がれる制度に変更しました。その意味でも、呼び方を変えた方がいいかな、と」
また、グループの入れ替えは部員間の投票で決定される。練習試合、公式戦での大庭監督の起用を選手たちも見ているため、レギュラー陣は自ずと定まっていくが、控え選手の入れ替えは「毎週入れ替わっていますよ」と指揮官が語るほど、活発に行われるという。
「普段の練習での様子、取り組み方などを選手たちは本当によく見ています。こちらが『入ってくるかな』と思っていた選手が漏れたり、その逆もある。監督の一存で決まるわけではないので、選手たちも納得しますし、仲間たちに認められようと努力することできるんです」
そして、大庭監督はこう補足した。
「野球をすることだけを考えたら、1学年20人前後、全部で60人くらいが理想的だと思います。でも、多くの人数がいる野球部で3年間がんばったら、それだけ多くの“繋がり”を持って卒業できるじゃないですか。益田東の場合は、100人以上の仲間、友達を持って巣立っていける。そういった人の繋がりこそが財産だと思うので、ここは譲れない部分なんです」
毎年、同じチームから続けて選手が進学したり、前チームの首藤のように兄弟で益田東野球部に所属するケースも多い。これは現役選手やOBが「益田東に来てよかった」と周囲に話している何よりの証だろう。大庭監督が言う。
「来てよかったと周囲に言ってくれるのは、本当にありがたいですし、そう思わせられないなら受け入れてはならないとも思っています。今在籍している選手たちに全力で向き合うことを最優先に、これからもやっていきたい」
夏連覇に向けて
現チーム発足後の公式戦は、秋は3回戦で矢上に、春は西部地区予選を突破したが、県大会初戦で大社に12対1のコールド負けを喫するなど、今ひとつ結果が出ていない。
「現チームを見ていると、昨年と比べて“遊び”がないのかな、と感じます。昨年は二塁手の藤本涼太(現・京都先端科学大)が自分のことを『ボス』と呼んだり、やんちゃっくれが多くてね(笑)。主将の安田を見ても、少し遠慮がちというか、もっと枠からはみ出ても…と思ったりもしますね。私を含め、ここからが勝負だと思っています」
夏に向けて、「大幅に変わる可能性もありますよ」と下級生を含めた競争を示唆した大庭監督。強調していた「甲子園は毎年行かなければならない」を実現するため、「関わってくれた方々に『元気をもらえた』と言ってもらえる野球部」でありつづけるために。令和最初の夏、県内では2011年の開星が達成して以来の夏連覇に挑む。
(取材・井上幸太)
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