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お前たちが変わるために俺が動いた 元プロ監督の挑戦  東大阪大柏原【前編】

2019.06.27

 2011年に初の甲子園出場を成し遂げた東大阪大柏原。以降も上位進出を果たし、大阪を代表する強豪校として君臨している。
 昨年11月1日から履正社出身でオリックス・巨人で5年間プレーした土井健大コーチが監督に就任した。土井監督が目指すチーム像とは何か。それはとても深みのあるチーム像だった。

取り組む姿勢の重要性を伝えるために朝早くからグラウンド整備を行った

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選手に指導する土井健大監督

 「初めて見た時、なぜ高い能力があるのに、こんなに適当に野球をやっているんだろう。本当に勿体無いと思いました」

 土井監督は2017年のオフシーズンから臨時コーチとして東大阪大柏原を指導し、2018年3月までに、大阪シティ信用金庫を退職し、2018年の4月1日付けから野球部のコーチに就任した。さらに専任のコーチに就任して土井監督は選手に厳しく伝える。
 「選手たちに常々話していたのは、今の1日の過ごし方で、高校野球を振り返られるほど中身の濃いものになるか?ということです。1日の過ごし方に無駄があり、そのムダが積み重ねって、中身が薄いものになってしまう。私はそれが勿体無いと選手に話をしました」

 中身の濃い1日を過ごすことが高校球児にとってどれだけ大切なものかは土井監督自身が身をもって体験している。

 履正社に進んだのは、土井監督の兄が履正社出身で、あと一歩で甲子園出場を逃していたからだ。兄の姿を見て、「履正社に進んで甲子園に行きたい」と決意を新たにした土井監督は履正社に進んで、3年間、濃密な日々を過ごした。

 現在の履正社は選手の自主性を尊重する気風にあるが、当時の履正社は「非常に厳しい野球部でした。ただ、その1日1日はとても濃いものがあり、仲間と一緒に本気で取り組んできたからこそ、振り返られるものができて、高校の仲間たちと、当時の話で盛り上がることができます。今も彼らなりには頑張っているのですが、就任当初は物足りなかったですね」

 取り組みだけではなく、グラウンド整備や掃除などについても、甘さが見られた。土井監督はその都度、選手たちに生活面の指導を行った。生活面がいかに大事なのか全国の指導者は理解している。
 注目したいのはその改善の仕方である。土井監督は「最初は私の言うことを聞かなかったですよ」と打ち明ける。そのため土井監督は自ら掃除、グラウンド整備を行った。

 「今の子供達は口でやっても『お前、できるん?』という感覚で大人を見てくる子が多い印象を受けました。だからただいうだけではついていかないので、私から行動することを示しました」

 土井監督は朝一番でグラウンドに来て、グラウンド整備、グラウンドの石拾い、トンボをきれいに並べ、部室のゴミ拾いを行った。そして選手たちにこう言い聞かせた。
 「お前らがやるグラウンドで、お前らが一生懸命、グラウンド整備やプレーしないといけないじゃないかということをずっと言い続けてきました。でもお前らが一生懸命できる環境を整えるのも俺らの仕事ということも伝えました。

 選手たちは「僕がやるから代わってください」とか、「土井監督とかわってこい」というんですが、そうではないよと。私の顔を見てグラウンド整備するのではなくて、立派な施設で野球をやらせてもらっていることを感謝してやりなさいと。野球を当たり前のようにできるわけではないよということを再三教えていきました。
 でも振り返ると、自分が高校球児はそういう思いでやっていたかというとそうではなかったと思います。彼らと同じですね。自分の高校時代を思うと、納得させるのも無理があるかもしれませんが、少しでも1人、2人でも分かろうとする思いを持ってもらう選手たちが出てくることを期待して、その重要性は伝えています」

[page_break:]プロでの経験を惜しみなく伝えている

プロでの経験を惜しみなく伝えている

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東大阪大柏原野球部の選手たち

 土井監督の熱い想いは選手に響いている。主将・桶田涼斗(3年)はこう話す。
 「監督が早くからグラウンド整備されている姿を見て、やはり僕らも変わらないといけないと思いましたし、早めにグラウンドに出るようになりました。チームの一体感としては、昨年よりも出ていると思います」

 土井監督も選手たちの意識の変化を評価している。
 「意識は明らかに変わりましたね。以前は、打撃練習をしている時、立って待っていたり、バットが散らかったりしていました。今はかなり良くなっています。高いレベルを求めると、まだまだですけど、彼らなりに練習に集中できる環境に仕上げてくれたことは感謝しています」

 また土井監督はプロとして5年間、社会人、社会人軟式でプレーしているが、「どのカテゴリーもレベルが高く、中身の濃いものでした。その経験をうまく伝えています」

 技術的なことはもちろん、野球に対する取り組み、うまくいかない場合の対処法だ。

 「よく伝えているのは、打てない時やチャンスの場面の心理的な対処法です。チャンスに打てない選手に対しては、『俺はこういう考えで、チャンスで打てるようになったよ。1回に試したら?』と伝えていますね。大事なのは困ったときに引き出しが多い選手。引き出しが多いというのは、何か困ったときに原点に戻れることですね。解決策に時間がかからず見いだせる。そういう選手が上の世界で野球ができているよと。その引き出しを作るには、まず一生懸命練習をやること。一生懸命こなすだけではなく、その中から自分なりの感覚、答えを覚えること。これは練習をしっかりとやらないと覚えられない感覚だからこそ、練習をしっかりやろうと伝えています」

 さらに一軍選手、二軍選手の違いを伝えている。
 「一軍選手で共通しているのは波が小さいこと。僕は一度も一軍に上がることはできませんでしたが、僕なりに気づいたのは、一軍の選手は、なぜ波が少ないかといえば、休みの過ごし方、練習の仕方などがしっかりしていて、決められたことはしっかりとこなす。その点、二軍選手は漠然です。ことわざで凡事徹底、継続は力なりという言葉がありますが、その通りだと肌で感じましたね。そういう経験を踏まえて、練習メニューを組み立てていますが、選手たちに必ずプラスになるよと伝えています」

 その中で取り組み姿勢がずば抜けている選手が主将の桶田。桶田は打者としては1番、ショートとしては抜群の動きを見せるショートストップだ。

 「今年のチームで最も考えて野球ができる選手ですね。冬場はコツコツと練習に取り組んだことで、安定した成績を残すことができるようになりました。また桶田に限らず、そういう取り組みができる選手は結果を残すようにしていますし、また公式戦も抜擢させました」と土井監督は語る。

 基本生活、野球の取り組みを大事にする方針をベースにしつつ、プロでの体験を惜しみなく伝えていく土井監督のスタイル。主将の桶田は、「自分は寮生活なので、土井監督にはその当時のことを聞いて学ぶこともありますし、とても勉強になります」と答えれば、4番・田窪柊は「土井監督には打撃のことをどんどん聞いて、学ばさせていただいております」と積極的に質問している。感情性が豊かな高校生にとっては、土井監督の存在は大きな刺激となっている。

後編では大阪桐蔭、履正社など、全国有数の強豪校が数多く存在する激戦区大阪で夏勝ち抜く為に行った春の戦い方や、野球への情熱について伺った。

(取材・河嶋宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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